フジテレビ系の昼帯ドラマ枠が2016年3月で終了することが発表されて以来、主婦層を中心に、嘆き悲しむ声や存続を望む声が広がっている。
平日の13時25~55分に放送されるフジの「昼ドラ」は、『真珠夫人』『牡丹と薔薇』など、いわゆる“ドロドロ系”の愛憎劇が話題になることが多く、フジきっての名物枠として知られていた。
●近年の昼ドラは、カオスな作品を連発して迷走
「結局、一番大きいのはお金の問題でしょう。ドラマの予算はバラエティより高額なので、視聴率が取れなければ、テレビ局にとっては大きなお荷物になってしまいます」
そう分析するのは、ドラマ評論家の田幸和歌子氏だ。特に、ここ最近は高視聴率のヒット作が生まれなかったこともあり、「昼ドラ枠をこれ以上維持するのが難しくなったのでは」と指摘する。
「時代とともに、昼ドラがターゲットにしていた主婦層も昼間に働くようになり、かなり前から視聴者離れが始まっていたようです。そのせいか、最近は作品自体も迷走気味と感じていました」(田幸氏)
その迷走ぶりがもっとも激しかった作品として田幸氏が挙げるのは、14年に放送された星野真里主演の『シンデレラデート』だ。当初、制作側からは「キラキラとした大人の切ない恋愛モノ」というコメントが出されたが、蓋を開ければ、ストーカーと不倫と純愛が入り乱れるなど、まるでカオスのような作品に仕上がっていたという。
「ヒロインがインドネシアのジャカルタを旅行している時に出会った男性と恋に落ちるというストーリーですが、不倫なのに、なぜか純愛として描かれているのです。その上、ストーカーから恋愛が始まるという設定もあり、何がなんだかわからない感じでした。
また、不倫されてしまう哀れな夫役として、お笑いタレントの陣内智則さんが出演していたのですが、これが素晴らしいくらいの棒読み演技で……。個人的には好きなのですが、いろいろな要素が強すぎるドラマでした」(同)
●最高視聴率16.9%を叩きだした「嵐3部作」
迷走した作品もあったにせよ、昼ドラの「不倫」「略奪」といったドロドロ感が世間的に受けていたのは事実だ。しかし、田幸氏によると「昼ドラ=ドロドロ愛憎劇」が定着したのは、比較的最近のことだという。
「そもそも『昼の帯ドラマ』という枠がスタートしたのは、1960年のことです。
64年といえば、東京オリンピックに日本中が沸き立っていた年だ。局を挙げてオリンピックの関連番組にかかりきりだったため、フジはドラマ制作を外部に委託する。この時、白羽の矢が立ったのが、現在も制作を担当する東海テレビだ。
「今でこそ、フジの昼ドラといえば東海テレビで、東海テレビといえばドロドロ愛憎劇という連想ができますが、この時点では、まだ愛憎劇はありませんでした。60年代後半は文芸路線が主力で、70年代になると『あかんたれ』などの“ど根性”路線に変わっていきます」(同)
こうした変遷を経て、80年代後半に登場したのが、昼ドラ史に残る名作「嵐3部作」だ。これは、『愛の嵐』『華の嵐』『夏の嵐』からなり、「現在の昼ドラでは考えられないような壮大な物語で、まるで洋画を見ているようなワクワク感がありました」(同)という。
嵐3部作は、最高視聴率16.9%を記録するなど、社会現象にまで発展するが、90年代に入ると『天までとどけ』『ぽっかぽか』などのホームドラマが台頭する。女優・井上真央の出世作となった『キッズ・ウォー』シリーズも、最初の放送は99年で、同時期には旅館の仲居が奮闘する作品も多くつくられた。
そして、00年に入った頃にようやく登場するのが、今や昼ドラの代名詞となった“ドロドロ愛憎劇”である。
●『真珠夫人』から始まったドロドロ愛憎劇
「その作品が、みなさんご存じの『真珠夫人』です。中島丈博さんが脚本を手がけているのですが、キャッチーなセリフの多用が話題になり、嫉妬に狂った妻がつくる“たわしコロッケ”などの珍料理も注目されました。
このヒットを受けて、04年に同じく中島丈博さん脚本で誕生したのが『牡丹と薔薇』です。
しかし、その後放送されたドロドロ愛憎劇は『牡丹と薔薇』ほどヒットはせず、昼ドラ人気は徐々に下降していく。そして、ついに半世紀以上におよぶ歴史に幕を下ろすことになったのだ。
「昼ドラにはコアなファンが数多くいますし、今後も継続すれば、またヒット作が出るような気もします。そういう意味でも、昼ドラの役割はまだ終わっていなかったと思うのですが……。残念ですね」(同)
歴史ある昼ドラの終了まで、残すところ約3カ月。記念すべき最後の作品となるのは、2月1日スタートの女優・佐藤江梨子主演の『嵐の涙~私たちに明日はある~』の予定だ。
(文=中村未来/清談社)