脂肪酸(油脂)は、重要な栄養素でありながら「ダイエットの敵」のように扱われ、ただ単に油脂類を控えることが健康的な食だと思われがちです。仮に適正な量の脂肪酸を摂っているつもりでも、一般的な食事では摂らなければいけない必須脂肪酸が不足していることは、あまり知られていません。



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 必須脂肪酸には、オメガ6系の「リノール酸」とオメガ3系の「DHA、EPA、アルファリノレン酸」に大別されるのですが、リノール酸はいろいろな食材に含まれているため、普通の食事で必要な摂取量は満たされている上に、揚げ物や炒め物、マヨネーズなどに使われるサラダ油などの主成分でもあるため、むしろ過剰摂取が問題になるほどです。

 しかし、もうひとつのオメガ3系必須脂肪酸は不足しています。DHA、EPAについては、本連載前回記事『魚を食べないと機能低下の危険!脳梗塞やがん、アレルギーが増加する恐れも』で述べたように、魚を積極的に食べることで補給できますが、もうひとつのアルファリノレン酸の補給はなかなか難しいのが実情で、オメガ3脂肪酸の摂取不足の原因にもなっています。

 アルファリノレン酸不足の原因は一般的な食物にほとんど含まれていないことにあります。アルファリノレン酸をリノール酸以上に含有する食物は主に葉野菜ですが、もっとも多いサラダ菜でさえ、1株(90グラム、15枚程度)にわずか0.04グラムしか含まれていません。アルファリノレン酸の1日当たり摂取目安は1グラム以上ですから、サラダ菜だけで賄おうとすると、2.25キログラム、375枚相当を食べなければなりません。そもそも野菜不足も現代人の食の特徴ですから、普通の食事から1日1グラムのアルファリノレン酸摂取は極めて困難です。

 アルファリノレン酸不足は、必須脂肪酸の摂取バランスを崩して、リノール酸優位の炎症体質に傾けてしまい、肌荒れやアレルギー、糖尿病、心筋梗塞、がん、認知症など多くの病気の原因になりますので、どうにかしてアルファリノレン酸不足を解消しなければなりません(2015年9月5日付当サイト記事『サラダ油が体を壊す万病のもと!糖尿病、がん…オメガ6脂肪酸過剰摂取に要注意』参照)。

●荏胡麻油や亜麻仁油で健康な食生活

 そこで注目されるのが、亜麻仁と荏胡麻です。食べ物の中で例外的にアルファリノレン酸の含有量が多く、どちらも種子を絞った油の50~60%がアルファリノレン酸です。つまり、小さじ1杯(4グラム)の荏胡麻油や亜麻仁油でもアルファリノレン酸を2グラム以上摂れるので、1日分の摂取目安を簡単にクリアできます。ちなみに、リノール酸と違ってオメガ3系のDHA、EPA、アルファリノレン酸は摂りすぎても問題ないとされています。


 オメガ3脂肪酸には、主に次のような働きがあります。

・精神を安定させる
・血栓のできるのを防ぐ
・血中の中性脂肪を減らす
・血圧を下げる
・がんの発生や増殖を抑える
・アレルギーや炎症性疾患を抑える
・記憶力や学習能力を高める
・認知症を予防する

 荏胡麻油や亜麻仁油は、一昨年あたりから健康油としてテレビや雑誌でたびたび取り上げられ、一時はスーパーマーケットの棚から商品が消えて品薄状態になりました。アルファリノレン酸の効能はDHA、EPAと同じで多岐にわたります。全身の細胞膜やホルモンなどをつくるのに欠かせない“スーパーオイル”です。荏胡麻、亜麻仁のどちらも、種子そのものも食用になり、アルファリノレン酸を摂取できます。荏胡麻は日本最古の油で、日本各地で小規模に栽培されていますが、食材としては残念ながら全国区になっていません。亜麻仁はカナダやニュージーランドなどからの輸入品が多く、油だけでなくローストアマニ粒、ローストアマニ粉などの商品もあり、多くの用途があります。香ばしくクセのない食品です。

 現代人に不足しているアルファリノレン酸の豊富な荏胡麻や亜麻仁は、進んで摂るべきスーパーフードといえますが、サラダ油やマヨネーズなどのリノール酸を減らさなければ、その効果は激減してしまいます。

 ただ単に油脂類の摂取量を減らすのではなく、リノール酸を減らした上で、不足しているDHA、EPA、アルファリノレン酸を補う「少油生活」に切り替えることが健康な食生活の基本なのです。
(文=林裕之/植物油研究家、林葉子/知食料理研究家)

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