「ギャンブル好きの著名人」というのは数多くおり、競馬に競輪、パチンコに麻雀など、それぞれの種目(?)の得意分野に分かれ、好きが高じてテレビ出演をするタレントなどもいる。

 ただ、その中で「ギャンブルに身を投じた」と堂々といえる人物はどれだけいるのか。

自分のすべてを投げ打つような"勝負"をしたことのある人物がどれだけいるのかははなはだ疑問である。

 現在テレビに引っ張りだこのタレント・坂上忍は、大の競艇好きで有名。1年で稼いだ金を、大みそ日のボートレースに全額つぎこみ、勝てば翌年は仕事をせず、負ければ仕事をがんばるという。「金がなくならないと勤労意欲が湧かない」というのだから、筋金入りのギャンブラーといえるだろう。負けの通算は3億にものぼるとか。豪快の一言。

 しかし、世の中にはそんな坂上を上回る人物も存在する。それが、直木賞作家の伊集院静氏だ。

 伊集院氏といえば、若いころは広告ディレクターとして人気CMを数多く手がけ、小説、エッセイと作家としても数多くの作品を残す「才人」。女優さんとの結婚や死別など女性関係でも世間をにぎわせた"モテ男"でもある。あのビートたけしが「あの人はかっこいい」と語るのだから、魅力的な人物に違いない。

 そんな伊集院氏、現在は大人しくなったらしいが、以前は完全なる「ギャンブル狂」だったようだ。
特に競輪への熱の入り方は凄まじく、全国の競輪場を渡り歩いて"車券"を買い続けていたらしい。そんな日々の詳細はエッセイ『夢は枯野を―競輪躁欝旅行』(講談社)にも記載されているが、ひたすら酒を飲み、出会った人々とのエピソードを語りながら競輪を見つめる内容は、ギャンブルという枠組みを超えた情緒を感じさせる。

 プライベートでも親交のある騎手・武豊も競輪好きとして知られているが、実は武に競輪を教えたのも伊集院氏とのことで、いわば師匠ということらしい。はじめて一緒に競輪場に行った際、伊集院氏がとんでもない金額を車券に投じ、それが的中。数千万円を紙袋に入れて京都・祇園に遊びに行ったという。武もその豪快さに心底驚いたとか。

 勝ったエピソードも豪快だが、負けたエピソードこそ、ギャンブラーとしての資質がわかるというもの。伊集院氏は、競輪の負け分でいえば「ビル一棟分はイカれてる」という。ビル一棟分の値段は定かではないが、とんでもない金額をやられていることは想像に容易いだろう。

 分厚い人生経験を積み、ギャンブルで冗談抜きの「大勝負」を経験したからこそ、深い文章や小説が書けるというこなのか。

 本物のギャンブラーだからこその言葉か、伊集院氏のギャンブル論というのは非常に重厚である。最後に、伊集院氏の名言を紹介しよう。


「ギャンブルが強いことはむしろ災いを生む」
『続・大人の流儀』(講談社)より

 わかるような、わからないような......。

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