ハウス食品グループ(G)本社は昨年12月、カレー専門店「CoCo壱番屋」を運営する壱番屋を301億円で買収したが、早々と138億円の利益が出た。
ハウス食品G本社の2015年4~12月期連結決算の売上高は、前年同期比1.8%減の1762億円だったが、純利益は3.5倍の231億円になった。
●以前から保有していた株が利益をもたらす
15年11月2日から12月1日まで壱番屋の株式公開買い付け(TOB)を実施した。議決権ベースで19.55%を所有していたが、31.45%を追加取得して議決権比率を51.00%にまで高めた。買い付け価格は1株6000円で買い付け総額は301億円だった。
ハウス食品G本社の決算短信によると、利益をもたらした仕組みはこうだ。
(1)取得原価と対価の種類
・追加取得直前に保有していた壱番屋の企業結合日における時価…187億2000万円
・企業結合日に追加取得した壱番屋の株式の時価…301億2700万円
・取得原価…488億4700万円
(2)被取得企業の取得原価と取得するに至った取引ごとの取得原価の合計金額の差額
・段階取得に係る差益…138億5100万円
(3)発生したのれんの金額…363億6900万円
(4)のれんの償却方法および償却期間…5年にわたる均等償却
ハウス食品G本社は、1998年10月、2000年2月、02年1月に壱番屋株を順次買い増してきた。TOBを実施したとき、壱番屋の株価は大きく上昇していたので、その前から保有していた株式で138億円の評価益が発生した。
株式の追加取得に301億円を投じ、138億円の利益を手にした。投資額の45%強を回収した計算になる。
●年間73億円ののれん代の償却が減益要因に
壱番屋は莫大な持参金つきで嫁に来たようなものだ。M&A(合併・買収)の歴史でも極めて珍しいケースといわれている。
通常、M&Aは買収した企業ののれん代の償却が大きな負担になる。
ハウス食品G本社は、16年3月期の業績予想を据え置いた。売上高は前期比6.6%増の2467億円、純利益は3.2倍の224億円の見込み。4~12月期の純利益の実績231億円を通期では下回るのは、壱番屋ののれん代の償却が重荷になるからだ。
●下がらない壱番屋の株価
M&Aで最も懸念されるのは高値づかみだ。買収した直後に、買収された側の企業の株価が下落して評価損を計上するケースが少なくない。
だが、ハウス食品G本社にその心配はいらなそうだ。買い付け価格6000円は壱番屋の上場以来の最高値5950円(15年11月25日)を上回る。2月に入ってから株価は5800~6000円と一進一退を続けている。2月9日に日経平均株価は978円安と暴落したが、壱番屋の株価は5860円を保った。極端な値崩れは起こしていない。
壱番屋の16年5月期の連結純益は33億円の見込みとされており、従来予想の28億円を上回りそうだ。
壱番屋では1月に、廃棄した冷凍カツを産廃業者のダイコーが横流していたことが発覚する事件が起きたが、壱番屋が冷凍カツを廃棄したのは、品質管理をきちんと行っていた証拠と、マーケットでは評価されている。また、横流しが発覚した後の迅速な処理や、対応策の発表が世間から称賛を浴びた。そのため、株価は高値圏を保っている。
M&Aに失敗する企業が多いなか、ハウス食品G本社による壱番屋の買収は、買収直後に利益が出た極めて希有なケースということができよう。
(文=編集部)