かつては『磯野家の謎』(東京サザエさん学会/飛鳥新社)、最近では、『磯野家の相続』(長谷川裕雅/すばる舎)と、『サザエさん』(フジテレビ系)関係のネタは出版界での定番モノになっているが、そのなかでも不動産関係者の話題になっているのが『サザエさんの「花沢不動産」はなぜ潰れないのか?』(齋藤智明/宝島社)だ。なぜ潰れないのかは同書を読んでもらうとして、興味深いのはコンサルティング型不動産業者である著者が、磯野家の不動産に査定を入れるというテーマ設定だ。



「まず、不動産の査定にあたり、必要になるのが物件の特定です。サザエさん家族が住んでいるのは『あさひが丘駅』から徒歩圏内の閑静な住宅街といえる場所にあります。(略)波平やマスオが朝バスに乗ることもあるため、およそ駅から徒歩10分以上20分以内の場所ではないでしょうか」(同書より)

 ただし、査定するには場所の特定が必要なため、作者にちなんだ長谷川町子美術館(東京都世田谷区桜新町1丁目)があるあたりと仮定する。東急田園都市線「桜新町駅」から徒歩7分程度の第一種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率100%)だ。

 土地面積はアニメの間取りから推測して、「床面積は約105平米とし、磯野家は平屋造りになり」必要な敷地面積は210平米と逆算する。この地域の路線価は46万円/平米となっているので、210平米×46万円/平米=9660万円となる。

 路線価を市場価値に合わせて1.25倍して、およそ1億2000万円。

「このあたりですと、やはり人気があるので、更地で70万円/平米で取り引きされているようなので、210平米×70万円=1億4700万円くらいになります」(同書より)

●空き地は4億2000万円?

 また、ノリスケが住むマンションを査定する。「公団の抽選に関するエピソードがあることから、賃貸であることが考えられます。ノリスケが住むマンションは、カツオやワカメがひとりでも歩いて行ける距離であることから推測して、磯野家とはさほど離れたところではない」と判断。間取りは2DK(だいたい40平米から45平米程度)だろう。ちなみに、桜新町の相場は3000円/平米だ。


「45平米とした場合の価格は45平米×3000円とすると13万5000円くらいになると考えられます。築年数にもよりますが、それよりも若干高いかもしれません」(同書より)

 なお、分譲の場合は、相場が平米単価80万円のため、45平米×80万円で3600万円くらいではないかという。

 さらに興味深いのは、カツオや中島君が野球をしているグランド代わりの空き地の査定だ。

「ホームランを打つと隣地の窓ガラスを割ってしまうような広さであることから間口30m×奥行20mの600平米の土地と仮定してみましょう。考えられるのが磯野邸の土地は70万円/平米ですから、600平米×70万円/平米の4億2000万円で売れると考えます」(同書より)

 日曜日の夜、『サザエさん』を観ると週末の終わりを感じ、憂鬱になる“サザエさんシンドローム”“サザエさんブルー”になる子供やサラリーマンも多いといわれるが、不動産業者の中には「都内でも地価が高い場所にあれだけの空き地を放っておくのは不動産屋としてはもったいないなと心底思う」という視点もあるようだ。
(文=椎名民生)

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