満員の東京ドームがざわついた。

 3日に行われたプロ野球ソフトバンクVS日本ハムの一戦。

アクシデントが起こったのは6回。日本ハムの攻撃だ。二塁ベース上でソフトバンク川島慶三内野手に、日本ハム田中賢介内野手が“派手”にスライディング。当てられた方の川島は、そのままうずくまり立てない様子だった。

 言い換えれば、日本ハム田中賢がソフトバンク川島にいわゆる「併殺崩し」を行ったのだが、今回はそれがあまりにもあからさまに入ってしまったのだ。

 これを見てベンチを飛び出したのが、ソフトバンクの工藤公康監督。猛然と塁審に歩み寄ると、今のプレーが田中賢の「危険行為」ではないのかと抗議。スタメンの二塁手が負傷退場させられた上に守備妨害さえ取られないのだから、腸が煮えくり返るのも当然か。

 気持ちの収まらない工藤監督は身ぶり手ぶりを交えてアピールするも、それで判定が覆らないのが今のプロ野球だ。結局、退場寸前まで粘り通したが、日本ハムにはゲッツーを免れた一塁走者が残り、ソフトバンクには川島の負傷交代という痛手だけが残った。

 憮然とした表情のままベンチに引き下がった工藤監督だったが、敗戦に終わった試合後も怒りが収まらない。その後、ソフトバンクが今回のプレーに関して、4日以降にパ・リーグ連盟に意見書を提出する意向を示す事態にまで発展した。


 幸い川島は打撲で済んだものの、この問題にはプロ野球ファンの間でもTwitter(ツイッター)を中心に大きく議論を呼び「あれは守備妨害!」「殺人スライディング」「やりすぎだろ!」「危険すぎる」といった数多くの声が上がっている。

 試合中の選手同士による激突の防止……最近、この問題が大きく注目されることが多い。そう、今年からプロ野球や高校野球などに導入された「コリジョンルール」だ。

 しかし、コリジョンルールはあくまで「本塁」での衝突プレーを禁じたルールであり、今回アクシデントがあったのは「二塁」の塁上である。つまり、現時点では本塁に向かう走者や、本塁突入を防ぐ捕手を守るルールはあるが、併殺を取ろうとする内野手を守るルールは存在しないということだ。今回は、そこが問題になった。

 実はこの「併殺崩し」に関する危険行為は、野球の本場アメリカのメジャーリーグでも大きな問題として取り扱われ、今年から「二塁ベース付近で、走者が併殺崩しのスライディングを行うことを禁止する」というルールが導入されている。

 もともとコリジョンルール自体も昨年メジャーリーグで導入されたことを受け、今年から日本でも導入された経緯があるだけに、早ければ来年にも「併殺崩し」に対する抑止力を持つルールの導入があるかもしれない。

 実際にコリジョンルールの導入に関しても、一部のプロ野球OBや解説者を中心に「野球の迫力がなくなる」「走者のタックルだけを防止すれば良いのでは」「キャッチャーは防具を付けている」など懸念を示す声もあった。

 しかし、昨年5月に阪神のマット・マートン外野手がヤクルトの西田明央捕手に、本塁上で強引な体当たりを仕掛け、両軍が乱闘寸前の騒ぎになる事態が発生。

 ヤクルトとしては過去にもマートンに同様のタックルを受け、捕手が骨折した過去があっただけにこの問題が大きく取り上げられ、これらの一件が今年のコリジョンルール導入の背景にあったのではないかという声も聞く。

 無論、この件もあくまで判断上の一つに材料にでしかないのだろうが、そうなると今回のソフトバンク川島と日本ハム田中賢の一件は、やはり併殺崩しの対策ルール導入を加速させる可能性があるだろう。


「安全を重視すれば、迫力が失われる」という意見には一理あるが、やはり選手が理不尽なラフプレーで怪我をしてしまうのは、見ているファンも良い気はしない。

 それに世界野球の中心となるメジャーリーグで新ルールが導入された以上、今後の国際試合やWBCでも同様のルールが適応される可能性が高い。場合によっては、東京オリンピックで野球が復活する可能性だってあるのだ。

 そういったことを踏まえれば、やはりコリジョンルール同様、早急に併殺崩しの対策ルールも導入の方向で協議を進めた方が良いのではないだろうか。

 日本ハム田中賢にしても相手を負傷させるつもりはなかっただろうし、栗山英樹監督も「賢介としては、仲間を助けるために一生懸命やったこと」と理解を示している。だが、ああいった形での中断は試合そのものの興を削いでしまうのも事実だ。

 今回のようなケースをなくすためにも、日本のプロ野球は選手を守る明確なルールを今一度求めるべきなのかもしれない。

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