社内やクライアントとの会話やメールで使われる、ビジネス用語。議題を「アジェンダ」と呼び、自社のことを「弊社」と言うなど、それなりの社会人経験を持つ人であれば、耳にしたり使ったりしたことがあるだろう。



 しかし、中には「それって、本当に正しいの?」と首をひねりたくなるような言葉も存在する。例えば「ごPDF」「弊ID」など、以前からインターネット上で話題になっている過剰な敬語も、その一例だ。

 そこで今回は、どこまで実際に使用されているのかは定かでないが、さまざまなリサーチによって浮上した「あり得ないビジネス用語」を紹介しよう。

●「おミーティングを行いたい」「この日時でおフィックス」

 以前、某ブランドの広報を担当していたというYさん(30歳・女性)は、ある日、クライアントから送られてきたメールに度肝を抜かれたという。

「新商品の会議を行う際、先方から『弊社の会議室で、おミーティングを行います』というメールが来たのです。最初は『打ち間違いかな』と思っていたのですが、後日、別のメールの文面にも『ご質問があります』というおかしな敬語があったので、たぶん本人は真面目に使っているのでしょう」(Yさん)

 さらにYさんを驚かせたのは、「会議は、この日時で、おフィックスいたします」というダメ押しメールだ。

「カタカナに『お』をつけること自体がどうかと思いますが、『おフィックス』までいくと、もはや下ネタのようにも聞こえるじゃないですか。完全に『尊敬語や謙譲語の使い分けができない人なんだな』と思いました」(同)

 一方、教育業界で10年のキャリアを持つAさん(35歳・男性)は、職業柄、言葉の使い方には気を使ってきただけに、ある若手社員の言い回しにいつもイライラしているという。

「一緒に、外部向けのリリースを作成していた時のことです。冒頭に『関係者各位』と書くべきところを、彼は『関係各位様』と記していたのです。各位は『みなさま』という意味なので、『関係各位様』は明らかに変ですよね。ほかにも『弊課』や『弊社員』など、誰も使わないような言葉が頻発するので、本当に困ります」(Aさん)

●転職サイトで出会った「エスタブリッシュメントなジョブ」

 また、多くの人が遭遇しているのが、おかしなカタカナ英語だ。
最近では「サラリーパーソン」という微妙な言葉も耳にするが、女性向けのキャリアセミナーを受講していたGさん(29歳・女性)は、講師が使っていたカタカナ英語に違和感を持ったという。

「男性講師の方が、『これからのサラリーウーマンは、かくあるべし』などと、『サラリーウーマン』という言葉を連発していたのです。『これって、本当に正しい使い方なのかな』と気になって、モヤモヤしてしまいました」(Gさん)

 現在、「オフィスレディ」を示す「OL」は「差別を連想させる」として、「女子社員」と言い換えられている。「ビジネスマン」も「ビジネスパーソン」とされることが多くなったが、「サラリーウーマン」や「サラリーパーソン」という言葉は聞き慣れないため、違和感があるのは事実だ。

 さらに耳を疑うのが、「ハイクラス求人」を謳う転職サイトに登録したKさん(42歳・男性)が出会った、転職エージェントのケースである。初めての打ち合わせの際、エージェントの口から飛び出たのは、驚愕のカタカナ英語だった。

「開口一番、『当社では、エスタブリッシュメントなジョブをご紹介しております』と言ったので、『ここはダメだ』と思いました。アメリカなどの英語圏では、エリートのことを『Established Job』と言うこともありますが、『エスタブリッシュメント』は名詞で『支配階級』を意味するので、『エスタブリッシュメントなジョブって、どんな仕事だよ』と思ってしまいました」(Kさん)

 時代によって、言葉の用法は変化していくものだ。とはいえ、あまりにトンチンカンな使い方をすると、失笑を買うだけでなく、仕事上の信頼も失いかねないということは、肝に銘じておく必要がありそうだ。
(文=オオノ・ヨーコ)

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