4月4日にスタートしたNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』。初回の視聴率は22.6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ/以下同)と同枠で今世紀2位の好発進を見せ、27日の放送では24.6%の自己最高を記録した。
主演を務める高畑充希は、ミュージカル「ピーターパン」で6年間にわたって8代目ピーターパン役を務めるなど、数々の舞台出演歴を持つ。その歌声には以前から定評があり、現在もかんぽ生命やドコモ光のCMで美声を披露している。いわば“歌う女優”だ。
一方、『とと姉ちゃん』の前々作にあたる『まれ』でヒロインを務めた土屋太鳳は“踊る女優”だ。土屋は日本女子体育大学で舞踊学を専攻しており、オーストラリアの歌手・Siaの楽曲「Alive」の日本版PVに出演、その様子が『情熱大陸』(TBS系)で放送されると「プロ顔負けのダンス」「ダンサーとしても秀逸」と話題を集めた。
また、現在主演ドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(テレビ東京系)が放送中の松岡茉優は、バラエティ対応力の高さからお笑い番組でMCをこなすなど、“仕切れる女優”として異彩を放っている。
女優という職業自体が究極の“一芸”ともいえるが、演技力以外に、このような“付加価値”のある女優が増えつつあるのは、なぜなのだろうか。テレビ・ドラマ解説者でコラムニストの木村隆志氏に聞いた。
●もはや「演技力」だけでは競争に勝てない時代に
「かつて1980~90年代はアイドル女優が多く、人気を背景に主演・助演を問わず、当然のようにドラマや映画に起用されていました。2000年代に入り、アイドル女優こそ消えたものの、『演技力よりも人気優先』の若手女優が起用されていましたが、10年代に入ると様相が一変。演技力が作品出演への絶対条件のようになりました。
その象徴がNHKの朝ドラ。
そのため、大半の若手女優は、『オファーやオーディションの幅を広げるために、何か一芸を身につけたい』と考えていますし、所属事務所もそのためのアドバイスをしています。
もともと女優は、感性を高め、演じられる役柄を増やす意味でも、和の日本舞踊、茶道、生け花、着付け、洋のダンス、ワイン、フラワーアレンジメント、社交マナーなど、さまざまな世界に興味を持ってスキルを磨くもの。最近では、イメージアップに加えて、トーク番組、ブログ、ツイッター、インスタグラムなどのネタに使えることもあり、それらに積極的な女優が増えています」(木村氏)
●石原さとみの琴、深田恭子の書道、榮倉奈々の三味線
今や女優も、演技力だけでは勝ち抜けない時代になったということか。さらに木村氏は、女優志望の女性や芸能事務所側の事情についても、以下のように語る。
「女優志望の女性も、芸能事務所のスカウトを受ける前や女優発掘コンテストにエントリーする前から、『何か一芸を身につけておこう』と考えるようになりました。
同時に、採用する芸能事務所側も、スカウトやコンテストの段階で『この子は何か一芸がないか?』と探していますし、ルックスやキャラクターはいいものの一芸のなさそうな女性には『どんなものを身につけさせようか』と戦略を練るものです。
ただ、その一芸は短期間で身につけられるレベルのものでは意味がありません。高畑さんの歌は、ミュージカル女優のレベルだからこそCMで生かされていますし、土屋さんも高校時代に創作ダンスの全国大会に出場したほか、現在も大学で舞踊学専攻の現役だからこそ、世界的アーティストのPVに出演できたのです」(同)
今は高畑や土屋の存在が目立っているが、過去にはどんな“一芸女優”がいたのだろうか。
「これまでも一芸、あるいは二芸以上を持つ若手女優はいました。例えば、松下奈緒さんは東京音楽大学のピアノ専攻出身でピアニストとしての顔も持っていますし、杏さんはプロ級の絵画スキルや狩猟免許を持ち、専門家クラスの知識を持つ歴女と多才。
20代の若手女優では、高梨臨さんが将棋の段位を持っていて将棋番組にも出演。榮倉奈々さんは三味線の師範であり、民謡の名取。戸田恵梨香さんは少林寺拳法の初段。石原さとみさんも複数の番組で琴を演奏していましたし、剛力彩芽さんのダンスや小芝風花さんのフィギュアスケートも、一芸の部類に入るでしょう。ユニークなところでは、石橋杏奈さんがプロ級の洋楽ラップを披露して視聴者を驚かせました。
やはり、女優業に直結しやすいのはアクションや殺陣のスキルであり、実際に土屋さん、武田梨奈さん、清野菜名さんらはチャンスをつかんでいます。アクション映画のほか、刑事ドラマなどでも活躍できるので、今後も身体能力の高さを売りにした女優は増えるでしょう。
そのほかの一芸では、英語などの語学、時代劇に欠かせない乗馬、声楽や楽器演奏、飲食系の資格はキャスティングの現場で重宝されます」(同)
生き馬の目を抜くとも評される芸能界。今後は、どんな特技を持った女優が台頭するのだろうか。
(文=編集部)