七五三に始まり、入学、成人、結婚など、人生の節目の出来事に残す記念写真。近年では、妊娠している女性がその姿をプロのカメラマンに撮ってもらう「マタニティフォト」も定着しつつある。
そんななか、数年前から女性たちの間で人気を集めているのが、限られた貴重な瞬間を写真に残す「メモリアルヌード」だ。女性たちは、なぜ自分のヌード姿を写真に収めるのだろうか。
●脱ぎたがる女性は20~70代まで
「メモリアルヌードとは、『今の姿を残しておきたい』『美しさを未来に残したい』という思いを持っている女性のためのヌード写真のことです。男性の視線を意識したヌードではなく、あくまでも、ありのままの姿を美しく撮るということをコンセプトにしています」
そう語るのは、日本初のメモリアルヌード専門フォトスタジオ「studio IVY(スタジオアイビー)」を運営するチル・プロダクション代表の梅本裕子氏だ。
梅本氏によると、同スタジオでは、男性の視線が気にならないように撮影を担当するカメラマンもスタッフも全員女性。2011年にサービスを始めて以来、月平均40件の撮影の予約が入るという。
「年齢層は20代から70代と幅広く、メモリアルヌードを撮りたいという理由もさまざまですが、一番多いのは『30歳になる前の自分を残したい』という20代後半の女性、あるいは『30歳になった記念に』という30代女性ですね。また、結婚が決まった女性には『独身時代の記念に自分の姿を残したい』という人が多い。なかには『今が人生で一番やせているから』という方もいらっしゃいます」(梅本氏)
25歳のある女性の場合は「成人式の写真を撮らなかったので」と、25歳を節目と考えてメモリアルヌードを撮影した。20代前半の女性のなかには「今は自分が一番キレイな時期だから」といった理由の人もいるという。
●半年ごとに撮影する人も「モデル気分がクセに」
このメモリアルヌード人気の背景にあるのは、ハリウッド女優やスーパーモデルなど、20~30代の女性たちが憧れる海外セレブによる影響だ。
「海外セレブはヌードやマタニティフォトをインスタグラムなどのSNSによくアップしますが、それらの写真の多くはアート性が高く、世界中の女性たちが『素敵』と思うような作品ばかり。
しかし、当然ながら、誰もが海外セレブのようなスタイルをしているわけではない。メモリアルヌードを決意しても、最初は大半の女性が自分の裸に自信がなく、ヌード姿に対する自己評価も低いという。
「ところが、撮影開始当初こそ『私なんかがヌードを撮っていいのだろうか?』という戸惑いが強いのですが、約50分の撮影時間のなかで、少しずつ服を脱ぎながら緊張がほぐれていき、最後の1枚はまるで別人のようになります。撮影によって本人も知らなかった自分の魅力に気づき、『モデル気分がクセになりそう』という方もいます」(同)
実際、メモリアルヌード撮影はリピーターが多く、半年に一度の割合で撮影に来る人もいるほど。思い切って撮影してみた結果、「次はこういうカットを撮りたい」「こんな衣装を着てみたい」という欲が出てくるようだ。また、プロのカメラマンにヌード撮影してもらうことで得られる高揚感がクセになる人もいるという。
●乳がんの全摘手術後に撮影する女性も
そもそも、女性のヌードは男性を意識したものと捉えられがちだが、いまや時代は変わりつつある。梅本氏は「多くの女性のヌードを撮影しているうちに、女性本来の美しさは男性の基準とは違う、と感じるようになった」と語る。
「メモリアルヌード撮影を始めたのは、フォトスタジオのオープンから3カ月たった頃に『マタニティではないが、数週間後に乳がんの全摘手術を控えているため、自分の体を写真に残したい』という相談の電話を受けたことが始まりでした。その後も、『乳がんの全摘手術』をきっかけにメモリアルヌードを撮る女性は多く、なかには、手術前に撮り、術後の全摘した状態で再度撮影に来た女性もいます。
そうした女性を見ているうちに、女性のヌードは『足が細い』『胸が大きい』など、男性が評価するものとは別物と考えるようになりました。妊娠線があったり、少しお肉が気になる部分があったりするのも、その女性の歴史の一部。
男性を喜ばせるためではなく、女性が自分自身のためにヌードになる。それが当たり前になる時代も、そう遠くないのかもしれない。
(文=谷口京子/清談社)