これから6月にかけては結婚式シーズン。新婚家庭が続々と生まれるなかで、よく話題となるのが日本の離婚率の高さだ。
一方、離婚と違って可視化されていないのが「婚約破棄」である。婚約破棄は戸籍に残らないため、正確な数字がわからないのが実情だ。しかし、みずほ中央法律事務所の三平聡史弁護士によると、「離婚する夫婦と同じように、婚約を破棄するカップルは常に一定数存在している」という。そもそも、婚約破棄とはどういうものなのだろうか。
●ピロートークでの約束は「婚約」にはならない?
「婚約破棄の定義はいろいろとありますが、法律的には『気持ち』と『イベント』が重視されます。まず『気持ち』ですが、これは当然、結婚する意思がお互いにあるということです。『イベント』の場合、婚約指輪を渡す、式場を予約する、結納を交わす、などが該当します。それ以外は、婚約したとは認められない傾向が強いです」(三平弁護士)
ほかには、両親や友人に結婚する意思があることを報告する行為も「婚約」に該当するという。ただし、当人同士によるベッド上の「ピロートーク」は婚約の意思とは見なされない。
「昭和初期の判例には、実際に『睦言はその場の勢いであることが多いため、結婚の意志ありとは言えない』というようなことが残っています。あくまでも、日常生活の中で『結婚しよう』という話が出ていることが前提です」(同)
婚約破棄に至る原因はさまざまだが、一番多いのは「職業」「資産」などに関する相手の嘘だ。
「恋人時代は我慢できても、これから一緒に生活をしようという人がほぼ無収入だと知ったら、話は変わってきますよね。ほかにも、特定の新興宗教の信者だった、男女ともに不妊症であることを黙っていたなど、『婚約する前に言ってほしかった』という相談が多いですね」(同)
●婚約破棄の慰謝料、最大300万円も
いざ「婚約破棄する」となった時、慰謝料の相場はどれくらいなのだろうか。離婚の慰謝料の場合、浮気やドメスティックバイオレンス、セックスレスなど、相手の不当な行為が原因なら100~300万円が相場とされている。
「婚約破棄の場合、慰謝料の額は交際年数などによって変わってきますが、30~300万円の間で決着がつくことがほとんどです。交際期間が長いほど、金額は大きくなる可能性が高いと考えていいでしょう。また、結婚式までの日程も考慮されます」(同)
ただし、これはあくまでも慰謝料の金額で、式場のキャンセル料などは別途追加される。さらに、個別のケースによっては、婚約者の親に慰謝料が請求されることもあるという。
「例えば、いわゆるマザコンの人のなかには、親が『あの人とは結婚しないほうがいい』と助言し、本人がそれに従うというケースがあります。この場合、親にも婚約破棄の責任が生じることがあります」
1992年に放送されたドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)は、佐野史郎演じるマザコン男の「冬彦さん」が同年の流行語に選ばれるなど、社会現象を巻き起こした。
上記のように、日常的な親の過干渉が証明されれば、慰謝料が請求されるケースも「十分にあり得ることです」と三平弁護士は語る。
「あくまでも私の肌感覚ですが、婚約破棄で相談に来るのは、男性よりも女性のほうが多いですね。
子供を望む場合も、時間的な問題に縛られるのは女性だ。長期間の交際の末、男性側の不当な行為によって結婚が白紙になると、女性が慰謝料をもらえる可能性はかなり高くなるという。裁判所では「(同じ1年でも)女性の1年のほうが大きい」と判断されることが少なくない。
「男女のことですから、一口に婚約破棄といってもさまざまな事情があります。法律家としてアドバイスしたいのは、なによりも、まずは当人同士でよく話し合うこと。それでも納得いかないことがあれば、いつでも弁護士を頼ってください」(同)
これから婚約を考えている人や現在婚約中の人のなかに、「相手に嘘をついている」という人がいたら、できるだけ速やかに告白することをおすすめしたい。
(文=中村未来/清談社)