果物、毎日食べていますか?

 厚生労働省・農林水産省の推奨する「食事バランスガイド」では、果物の摂取は1日に200グラム(みかん2個分、りんご1個分)が望ましいとされています。20歳以上を対象にした厚生労働省の「平成26年 国民健康・栄養調査」の結果によると、日本人は全体的に果物の摂取が足りておらず、特に20~30代男性の摂取が少ないことが明らかになりました。



【果実類摂取量】
20~29歳:男性40.3グラム、女性75.7グラム
30~39歳:男性39.0グラム、女性65.3グラム
40~49歳:男性49.2グラム、女性68.1グラム
50~59歳:男性82.0グラム、女性114.4グラム
60~69歳:男性123.1グラム、女性154.8グラム
70歳以上:男性149.9グラム、女性154.9グラム

 果物は、美味しくてヘルシーな食品。ぜひ、みなさんの食生活に取り入れていただきたいと思います。そこで今回は、果物の健康への効果について考えてみましょう。

●トマトは野菜?それとも果物?

 ところで、そもそも果物ってなんでしょうか? トマトは野菜と果物、どちらでしょうか?「トマトは野菜でしょう」、と答える方が多いと思います。植物学的に果物は、植物の花が咲いた後にできる、種のある実を示します。つまり、トマトは植物学的に果物で、キュウリ、カボチャやナスなども果物となります。

 一方、それ以外の部分の葉(レタス)、根(ニンジン、ジャガイモ)、茎(セロリ)、芽(カリフラワー、ブロッコリー)は野菜と分類されます。ただし一般的には、甘みが少なく風味があるものが野菜、甘くて酸味がありデザートとして楽しむものを果物と分類しています。

 さて米国では、1893年に「トマトは果物か野菜か」という裁判が最高裁判所で争われました。この裁判の発端は、83年に制定された法律が輸入の野菜には関税をかけて輸入の果物には関税をかけなかったため、ニューヨークのトマト輸入業者が「トマトは野菜ではなく果物」と関税の徴収官に対して訴訟を起こしました。

 最終的に、最高裁が「トマトは国民が野菜と信じているので、科学的には果物だけど、野菜と分類する」と判決しました。

 日本では農林水産省のホームページをみると、「野菜と果物の分類については、はっきりとした定義はない。
国によってもその分類が異なる」とあります。そして、食育の野菜ブックに、トマトはキュウリ、カボチャやナスなどと一緒に果菜類に分類されています。

●中国の研究から学ぶこと

 それでは、果物は栄養学的に野菜と違いがあるのでしょうか?

 そのひとつの答えになる大変興味深い論文が、先月4月7日付の医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」に発表されました。

 これまで欧米での研究により、果物を食べる人は心血管疾患のリスクが低いことはたびたび示されてきました。ただし、それらは欧米での研究成果で、アジア人種を中心とした研究ではありませんでした。そんななか、中国全土5つの都市部と5つの農村部の地域に住む51万2891人(30~79歳)の中国人を対象とした大規模疫学研究から、生の果物を毎日食べる人は食べない人に比べて、心血管疾患による死亡が40%、主要冠動脈イベントは34%、虚血性脳卒中は25%少なく、出血性脳卒中は36%少ないことが示されました。

 また、果物の摂取量にかかわらず、ほとんどの中国人(約95%)は新鮮な野菜を毎日食べていましたが、欧米人に比べて果物の摂取量がはるかに少ないようです。つまり、心臓発作や脳卒中のリスクの低下は、野菜ではなく、果物摂取の頻度の違いによってもたらされたものと考えられます。

 残念ながらこの研究では、生の果物が血圧や血糖値、心血管疾患リスクを低く保つメカニズムまでは解析されていません。また、今回の研究では果物の種類についてデータはなく、季節や地域によって大きく変化する可能性もありますが、中国で最も一般的に食べられている果物は、りんごや柑橘類、梨などです。

●果物には、こんなにたくさんのメリットがある!

 一般に果物は、カリウムや葉酸、食物繊維、フィトケミカルなどを豊富に含む一方、ナトリウムや脂肪をほとんど含まず、カロリーの低い食品です。これらの栄養素が、中国の研究のような結果をもたらしたことも考えられます。


 フィトケミカルは、植物が細菌、ウイルスや真菌、紫外線などの外敵から自分の身を守るためにつくり出した化学物質で、植物に鮮やかな色(黄色、オレンジ、赤、緑、白、青、紫)、香りや味を与えます。例えば、ポリフェノール、イソフラボン、カロテノイドなどは、フィトケミカルの仲間です。フィトケミカルが足りなくても5大栄養素のように欠乏症にはならないものの、その抗酸化作用、抗がん作用、抗炎症作用や免疫増強作用など多くの機能が注目され研究が進んでいます。

 ただし、フィトケミカルは加熱に弱い性質があります。野菜は加熱調理することが多く、フィトケミカルの効果が低下する可能性があります。それに調理をすると、塩分や油を過剰に摂取することが懸念されます。果物はそのままいただけるので、そのような心配はなさそうですね。

●果物を食べると太る?

 果物はこんなにたくさんのメリットがありますが、なぜ日本人の消費量は低いのでしょうか? 理由のひとつは、糖分を気にして食べない方もいるということでしょう。

 もちろん、果物や野菜といっても、多かれ少なかれ目標体重の達成・維持に有利なもの、不利なものがありそうなものです。この疑問に対して、米ハーバード公衆衛生大学院の研究者たちが調査し、2015年9月22日付の医学雑誌「PLOS Medicine」で報告しました。

 結果は、果物やデンプン含有量の少ない野菜を多く摂ると健康的な体重の維持につながることが明らかになりました。

 果物の分類ごとの評価では、ベリー類一人前を4年間毎日摂取すると平均−0.5キログラム、柑橘類では平均−0.12キログラム、と体重維持に効果が見られました。
果物を個別に見ると、ブルーベリー、プルーン、リンゴやナシ、レーズンあるいはブドウ、そしてグレープフルーツの摂取量が多いほど体重の変化は抑えられました。ただし、トウモロコシ、エンドウ豆、ジャガイモなどの、特にデンプン(糖質)の多い野菜に限って見ると、その摂取量が多いほど体重は増加していました。

 つまり、果物を食べることは肥満の原因ではなく、むしろ健康的な体重の維持に効果があることが示されたのです。それでは、なぜ果物が肥満の原因と懸念されるのでしょうか?

●果糖もいろいろ

 果物に含まれる「果糖」が、肥満の原因と懸念されています。ただし果糖には、果物や野菜などに含まれる自然な果糖と、加工食品や清涼飲料水に含まれる果糖の2種類があることを注意しなければなりません。

 果物や野菜に含まれる果糖は、食物繊維などの作用でゆっくり吸収されます。また果物=果糖ではなく、ブドウ糖、二糖類、多糖類、炭水化物なども含まれています。一方、後者はたいてい、「異性化糖」(果糖ブドウ糖液糖、ブドウ糖果糖液糖など)というかたちで摂取することが多いのですが、大量の果糖を一気に摂取する心配があります。

 ちなみに異性化糖は、ブドウ糖と果糖の混合液で、トウモロコシなどのでん粉を酵素処理し生産されます。異性化糖は日本で開発され、1970年代にキューバ革命以降の砂糖不足に悩んでいた米国に導入されました。米国政府は砂糖の代替物に育てるべく、農家に膨大な助成金を支払い、トウモロコシの生産を奨励しました。最近では遺伝子組み換え技術で、より安く大量にトウモロコシを生産できるようになっています。


 その結果、トウモロコシは現在、米国人が普通に食べるあらゆる食品に使われるようになりました。コーンで育った牛肉のハンバーガーとコーン油で揚げたポテトを食べ、異性化糖入りのコーラを飲むといった具合です。そこで多くの研究者が、動物実験やヒトの研究から、肥満、糖尿病、メタボリック症候群など、異性化糖の健康への害を報告し、米国では大きな社会問題になっています。

●果物そのものを食べることが鍵!

 ところで、果物をフルーツジュースで代用していませんか? ジュースは、果物、野菜などの汁でビタミンやミネラルを含みますが、食物繊維が残っていません。

 2013年、ハーバード公衆衛生大学院の研究者らが、84年から08年の間に計18万7382人を対象とした大規模疫学研究の結果を報告しました。結果は果物そのもの、特にブルーベリー、ブドウ、リンゴなどを、毎週少なくとも2回食べている人は、1カ月に1回しか食べない人と比べて、23%も2型糖尿病のリスクが減少。逆にフルーツジュースを毎日1杯以上飲む人は、2型糖尿病のリスクが21%も増加しました。さらに週に3杯のジュースを果物に交換すると、糖尿病のリスクが7%減少することがわかりました。

 つまり、新鮮な果物を食べることは糖尿病の予防になりますが、フルーツジュースを飲んでいると糖尿病のリスクが高まります。ちなみに、米合衆国農務省(USDA)によると、生オレンジジュース1カップ248グラムには、20.83グラムの糖分が含まれています。角砂糖にすると5~7個に相当します。

 みなさんも、ぜひ色とりどりの果物をもっと積極的に食べてくださいね。
何を隠そう面倒くさがりやの私ですが、調理なしでそのまま食べられる果物は、本当にありがたいヘルシーな食品なのです。
(文=大西睦子/内科医師、医学博士)

編集部おすすめ