今年も8日(水)に、南関東(TCK)3歳クラシックレースの第2弾となる東京ダービー(S1)が地方の大井競馬場で開催される。

 全国で毎日のようにレースが行われる地方競馬には、武豊騎手さえ霞むような途方もない勝利数を誇る名騎手が存在するが、その代表となるのが的場文男騎手だ。



 通算6874勝(6月2日終了時点)と武豊騎手の2倍近い勝利数は、日本人歴代2位の数字である。今年の9月で還暦を迎える大ベテランだが、「不滅の大記録」といわれた歴代1位の鉄人・佐々木竹見騎手の通算7151勝を破る可能性があるのは、もはやこの的場文男騎手しかいないだろう。

 通算21回の大井リーディングを誇り、その圧倒的な勝負強さから「大井の帝王」と称される的場騎手。その活躍は大井だけにとどまらず帝王賞(G1)、東京大賞典(G1)、川崎記念(G1)など、JARの所属馬も含め全国からトップクラスが集結する交流G1や重賞で数え切れないほどの勝利を挙げている。

 そんな地方騎手として、すべてを手にしていると述べても過言ではない的場騎手だが、実は大井に所属する騎手の“最高の栄誉”にだけは、何故か手が届いていない。

 競馬の最高峰といえば、やはり「ダービー」だ。そして中央競馬に日本ダービー(G1)があるように、大井競馬にも3歳馬の王者を決める『東京ダービー』がある。1着賞金が4200万円と中央の重賞にも匹敵する、大井競馬最大級の規模と人気を誇るレースだ。

 今ではもうただの“笑い話”になってしまったが、一昔前まで武豊騎手もダービーを勝てなかった。特にクビ差の2着に惜敗した1996年頃には「武豊騎手はダービーだけは勝てない」と囁かれていた時期もあった。それが今ではダービー5勝と歴代最多である。

 しかし、的場騎手と東京ダービーとの“因縁”は笑い話などでは済まない。


 武豊騎手が「悲願」と言った日本ダービーの初制覇でさえ、挑むこと10回目での勝利だったが、的場騎手の東京ダービーへの挑戦は今年で35回目。2着は実に9回である。

「9度目の2着」を記録した昨年の東京ダービーのレース後、的場騎手は「また2着だよ」と悔しそうに繰り返していた。

 それも勝った馬は的場騎手が騎乗していた馬と同厩で、調教師も騎乗を薦めていたこともあったらしい。最後には2着に敗れた騎乗馬に申し訳ない気持ちから「オレが乗らなければ……」と呻くように自責の念を絞り出していた。

 ここまで悲観的になるのも無理はない。

 これまで南関東クラシック1冠目となる羽田盃を圧勝しながらも、わずか1か月後の東京ダービーまでに故障してしまった馬が2頭。「三冠確実」といわれ羽田盃で単勝1.0倍(元返し)に推された馬が、そのレースで故障……。

 さらには東京ダービーまで無敗の快進撃を続け、当日も単勝1.1倍の大本命に推された馬が信じられないような大出遅れを喫し惨敗するという、東京ダービーと的場騎手との間には、これ以上なく苦い数々の歴史があるのだ。

「これは人生の宿題。死ぬまでできないかもしれないけど……」

 昨年の東京ダービーのレース後、報道陣に囲まれた的場騎手が悔しさを絞り出すようにコメントしている姿が印象的だった。

 武豊騎手は日本ダービーの初制覇に10回掛かったが、初制覇後はこれまでのうっぷんを晴らすように通算5勝。
今では歴代史上最多のダービー勝利を誇っている。

 ならば実に34回の“うっぷん”が溜まっている的場騎手が東京ダービーを制したのち、いったいどれほどの“大爆発”が待っているのか……ぜひとも見てみたいものである。

 的場騎手は今年、2歳王者のアンサンブルライフと35回目の東京ダービーに挑むことが決まっているが、果たして悲願達成なるだろうか。

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