まさか『狩る側から、狩られる側へ』逆転していたとは……。

 先日26日の宝塚記念(G1)のパトロールビデオをチェックしていたのだが、意外なことに気が付いた。



 対象は1番人気で2着だったドゥラメンテ。最後の勝負所であの馬群の中をどうやって抜けて、外から伸びてきたのか……今後のためにもチェックしておこうと思ったのだが、どうやら直線半ばで外側の馬に体当たり。強引に進路を確保して、外から伸びてきたようだ。

 決してクリーンな騎乗とは言えないが、G1の1番人気となれば「馬群から抜け出せませんでした」ではすまない。いや、「すまない」と言い切るのは語弊があるが、少なくとも馬群から抜け出せない騎手が、G1でドゥラメンテのような馬に乗る機会はそう多くないはずだ。

 無論、ルールを厳守した上での話だが、やはり競馬は過程よりも「結果」が大きなウエイトを占めているからだ。

 ドゥラメンテが、いや、正確にはその鞍上M.デムーロ騎手が「邪魔だ」と言わんばかりに外側に追いやった馬は、同じ堀厩舎のサトノクラウン。何も同厩でと思わなくもないが、さすがにここは春のグランプリである。ましてやドゥラメンテには負けられないレースだ。

 それまで何とか大本命に食い下がっていたサトノクラウンだったが、この“タックル”を機に戦意喪失。手応えを失い、トップ集団からは大きく脱落した。勝負事だからとはいえ、サトノクラウンの馬券を買っていたファンや、そして何より鞍上は気の毒だ。


 やはり、競馬は弱肉強食が強く出る競技であり、強い人気馬が弱い馬を蹴散らすのは特に珍しいシーンではない。

 だが、サトノクラウンの鞍上があの岩田康誠騎手だと知って目を疑わざるを得なかった。

 確かに先述した通りドゥラメンテとサトノクラウンは同厩の間柄であり、人気面でも両者の立場は大きく異なる。しかし、昨年の今頃までは「強気」な騎乗が身上だった岩田騎手。特に大きなレースになれば、多少のラフプレーも厭わず、貪欲に勝利を求める騎乗が印象的な騎手だったはずだ。

 特に2012年のジャパンC(G1)では、岩田騎手が三冠を成し遂げた3歳牝馬のジェンティルドンナで、当時の最強馬だったオルフェーヴルに果敢に勝負を挑んだ際、最後の直線で進路を確保するためにオルフェーヴルにタックルを敢行。

 降着ギリギリのラフプレーを行って絶対王者を撃破し、メディアの間で大きな物議を醸しだすと、ファンの間では「岩田ックル」と揶揄された。

 そんな勝利に人一倍貪欲だった岩田騎手だが、最近は昨秋からのスランプを脱出したのではないかと言われていたのだが……まさか、宝塚記念という大舞台で岩田騎手の“あんな姿”を見ることになるとは夢にも思わなかった。

『狩る側から、狩られる側へ』の逆転ではないが、まさに『押し退ける側から、押し退けられる側へ』転落してしまった岩田騎手。たまたまだと思いたいが、昨秋から未だに重賞を勝てていない要因の一端を見たような気がした。

 無論、宝塚記念のデムーロ騎手の騎乗は決してクリーンではなかった。だが、降着どころか審議さえ発生しなかった以上、ルール的には何の問題もない騎乗である。
結果的には、ああしなければ2着さえ確保できなかった可能性が高いが、その過程は褒められたものではないだろう。

 従って、岩田騎手があそこで自分の進路を主張して強引にドゥラメンテにフタをし続ける選択肢もあっただろう。だが、岩田騎手はそうしなかった。サトノクラウンの手応えがすでに怪しかったのもあるかもしれないが、クリーンな騎乗と言えばそうなのかもしれない。

 だが、“らしくない”ことは確かだ。

 宝塚記念でサトノクラウンの馬券を買っていたファンは、あのシーンを見てどう思っただろうか。相手が相手だけに、ある程度納得する部分もあったかもしれないが、「弱気」にも見えた岩田騎手の騎乗に一抹の寂しさを覚えた人もいるかもしれない。

 19日の函館スプリントS(G3)ではハナ差の2着だった岩田騎手。待望の重賞制覇も秒読みかと思ったが、今回の騎乗を見て、その道がまだまだ険しそうな気がした。

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