もしかしたら、この馬が近走まったく冴えなかったのは、馬より騎手が先に“根負け”していたからかもしれない。
7日(日)に開催された小倉記念(G3)。
2番手を追走していたクランモンタナである。その鞍上は、和田竜二騎手だ。
やたらと手綱が動いていると思ったら1200mの辺りではもうムチが入っている。それを見た筆者は勝手に「それも仕方ない」と思っていた。クランモンタナは前走の鳴尾記念(G3)でも、まったくいいところなく13着に大敗しており、ここでも12頭中11番人気。今年で7歳ということもあって、もう脚が残っていないのではと感じていたのだ。
事実、多くのレースで第3コーナーを前にいち早く騎手の手が動いている馬は、すでに手応えが怪しくなっているものばかりであり、騎手の叱咤も虚しくそのままズルズルと脱落していくのが関の山である。ムチまで入れるのは(連打してるし……)なかなか珍しいが、クランモンタナもそんなよく見る「力が足りない馬」の一頭なのだろう……と思っていた。
ところが、クランモンタナは2番手の位置をキープしたまま、なかなか脱落しない。いや、それどころか4コーナーを回る頃には、先頭を走っていたメイショウナルトに並びかけているではないか。
なんと4角先頭で直線に入ったクランモンタナ。ここは直線の短い小倉である。
向こう正面から追いっぱなしの和田騎手はすでにヘロヘロに見えるが、馬はようやくエンジンが掛かったかのように勢いよく先頭に躍り出ると、そのままベルーフの猛追をしのぎ切ってゴール。7歳にして、区切りの40戦目で待望の重賞初制覇となった。
ゼーゼー、ハーハー……。
レース確定から時間があったものの、勝利騎手インタビューに呼ばれた和田騎手はやはり完全に息が上がっている様子だった。無理もない……後半1000mは、ほぼ全力で追い通しである。
「最近の成績は目立ちませんでしたが、調教に乗ったときの手応えで『これは!』と思ってレースに臨みました。陣営からは(前に)いけるポジションからレースをしてという指示でほぼ理想通りのレースが出来ました。ただ、予想以上にズブい面があって……全然疲れてません(少し疲れました)。
そう笑顔で語った和田騎手だったが、今年の小倉記念はまさに和田騎手の会心の騎乗がクランモンタナを勝たせたレースだった。向こう正面からの激しい叱咤が最後の勝負所で、勝つことを忘れていた“老兵”の心に火をつけたのだ。
クランモンタナにとっては2014年の7月以来、約2年ぶりの勝利。これでサマー2000シリーズのチャンピオンも見えてきた。
「多くのサラブレッドは歳を重ねるごとにズブくなっていく傾向にありますが、クランモンタナがあそこまでズブくなっているとは思いませんでした。向こう正面のアクションも目立っていましたが、和田騎手はスタート直後もハナに立つ勢いで追っています。前走は後ろからでしたが、前に付けたのも功を奏したようですね。今後は新潟記念に進むようですが、引き続き和田騎手だと楽しみです」(競馬記者)
実はこの馬、父がディープインパクトで半兄が皐月賞馬のキャプテントゥーレというなかなかの良血である。おおよそディープインパクト産駒らしくない、クランモンタナだが今回の勝利を機に一気に開花するだけの下地は持っているということだ。
だが、それには和田騎手が“貢献”が必要不可欠だが、心配なのはむしろ馬より騎手の体の方か……。