27、28日に跨って行なわれた今年のワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)。武豊騎手とM.デムーロ騎手との壮絶な一騎打ちだったが、最後はM.デムーロ騎手に軍配が上がった。
震災に遭ったM.デムーロ騎手の母国イタリアに優勝賞金300万円全額が寄付されるなど、感動的なフィナーレとなった今年の「騎手の祭典」。だがM.デムーロ騎手、武豊騎手の次に気を吐いたのが第4戦を優勝し、第3位に滑り込んだ高知の永森大智騎手だ。
今年、高知競馬のリーディング騎手として、厳しい予選を勝ち上がってきた永森騎手。芝のレースは数えるほどしか経験がないと話していたが、見事に“ハンデ”を克服して存在感を発揮した。
この活躍により、全国の競馬ファンはもちろん、JRAの関係者にもその名がさらに広く知れ渡ったことは間違いない。もしかしたら、その腕を買われて今後のJRAのレースでその名を目にする機会も増えるかもしれない。
というのも、WASJの前身となるワールドスーパージョッキーズシリーズ時代も含めて、JRAに移籍した騎手の多くは地方騎手時代に、この「騎手の祭典」に参戦した経験があるからだ。
「過去に安藤勝己元騎手、小牧騎手や岩田騎手、内田騎手といった代表的な地方出身騎手は大抵、JRAに移籍する前にワールドオールスタージョッキーズ(ワールドスーパージョッキーズシリーズを含む)を経験しています。地方の騎手にとって貴重なJRAでの騎乗体験。中には、その感触がJRA移籍のきっかけになった方もいるかもしれませんね。永森騎手もまだ29歳。1勝を含めた第3位という今回の手応えは大きいでしょうし、将来的な移籍の可能性は十分にあるかもしれません」(競馬記者)
そして、永森騎手にはJRA移籍を考慮するかもしれない、もう一つの大きな動機がある。
現在(8月30日付け)、高知競馬で149勝を上げている永森騎手だが、その獲得賞金額は合計3709万5000円。だが、先日のWASJで永森騎手が稼いだ賞金は1650万円と、今年稼いできた賞金の約半分にもなる。
今年、主に高知競馬で508回騎乗して得た賞金が3709万5000円であることに対し、WASJでの騎乗はわずか4回。それで1650万円の賞金獲得だ。
さらに、仮に取り分が賞金の約5%であることを踏まえて今回の永森騎手の成績で当てはめた場合、WASJの第3位として得た100万円をレースの賞金に換算すると、2000万円の賞金額になる。
これに先述したレース賞金1650万円をプラスすると合計3650万円。これは永森騎手が今年になってここまで稼いだ3709万5000円に匹敵する額だ。言い換えれば、永森騎手は今年508鞍の合計賞金とほぼ同額を、わずか2日間で手にしたことになるのだ。
ギャンブルをする人は派手な大勝ちをした際「真面目に働いているのが馬鹿らしくなる瞬間」を経験したことがあるかもしれない。もしかしたら、永森騎手もそんな心境に陥ってもおかしくはない。
それほど高知競馬とJRAとの「賞金格差」はあまりに大きく、プロとして僅かでも高い賞金の獲得を求めるのは当然の心理だからだ。
確かに地方でも賞金額が充実した開催場は存在しており、例えば現在船橋を中心に211勝を上げ、地方競馬の全国リーディングを独走している森泰斗騎手の獲得賞金は、合計6億円を超えている。
それほどJRAは賞金体系で地方競馬を圧倒している。もっといえば、JRAは世界各国からトップ騎手が進んで集まるほど賞金額が充実した、世界でも最高峰の高級競馬開催である。
「数字の面からわかるように永森騎手が所属する高知競馬は、地方競馬の中でも賞金額が低い開催です。過去に武豊騎手がハルウララに騎乗するために、高知競馬に参戦しましたが、その時の1着賞金は11万円。仮に勝ったとしても騎手の取り分は5%の5500円です。5着に入っても賞金は6000円で、騎手は300円の収入にしかなりません。その点、JRAは仮に未勝利戦で着外でも、最低2万6000円の騎乗手当がつきます。武豊騎手も『同じ騎手として、あまりに酷な見返りだ』と問題視されていました」(同)
確かに騎手は常に命がけの職業であるにもかかわらず、「5着に入っても300円」の収入というのは、ある種の馬鹿らしささえ覚える悲惨な賞金体系と述べざるを得ない。
リーディングの永森騎手でさえ賞金3709万5000円の5%、約185万円の収入。各種手当やまだ8月の終わりであることを考慮しても、あまりに労働の対価に見合わない数字といえるだろう。
無論、永森騎手としても今後は賞金額の高い地方競馬へ積極的に参戦する道もあるだろうが、今回の活躍でJRA移籍の道も視野に入ったのかもしれない。
ワールドオールスタージョッキーズの第4戦で見せたゴール前の勝負強さは、さすが高知No.1といえる凄みがあった。来年以降のWASJ参戦も含めて、中央で再びその姿を見られることを楽しみにしたい。