20~40代の女性を筆頭に、いつの時代も高い需要を誇る「占い」。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有元裕美子氏の著書『スピリチュアル市場の研究―データで読む急拡大マーケットの真実』(東洋経済新報社)によると、占いを含む日本のスピリチュアルビジネスの市場規模は、全体でおよそ1兆円。

携帯占いサイト市場だけでも、約200億円に上るという。

 それだけ多くの人たちが占いにハマっているとすれば、気になるのは、彼らがどんな悩みを持ち、占い師にどんな相談をしているのか、ということだろう。「迷える人たち」の相談の実態について、占いスクールのアカデメイア・カレッジの長谷龍次氏に話を聞いた。

●好きな芸能人との相性を占う女性たち

「占い師にヒアリングを行うと、女性の場合、やはり多いのは恋愛に関する相談ですね。『交際相手に関する悩み』『結婚の時期について教えてほしい』といった内容が一番多いようです」(長谷氏)

 驚いたのは、「好きな芸能人との相性診断」を求める女性が数多くいることだ。長谷氏によると、自分と好きなアイドル、タレント、俳優との相性を占いに来る女性がたくさんいるという。

「電話占いで『この生年月日の人との相性を見てほしい』と相談を受け、よくよく話を聞いてみると、それは人気タレントの生年月日で、自分が好きな芸能人との相性診断だったということが、けっこうあるのです。対面で聞くにはちょっと恥ずかしいことでも、電話占いなら思いきって聞けるようですね」(同)

 一般女性の場合、好きな芸能人と知り合いになれる可能性はゼロに近いが、それでも相性くらいは知っておきたいのがファン心理なのだろう。

「恋愛に次いで多いのが、家庭内の出来事の相談です。特に、学校でのいじめ問題や子育てなど、子供のいる母親が育児について相談してくるケースが目立ちます。昨今は働く女性も多いので、仕事や金運に関する相談も増えました」(同)

●恵比寿では芸能人が将来を相談する例も

 一方、男性の場合、女性のように最初から恋愛について相談してくることは少ないという。

「男性はプライドが高い人が多いのか、恋愛に関する相談は女性ほど多くありません。
ただし、入り口は別の相談でも、話をしているうちに『実は不倫をしていて……』という流れになることはよくあります。本当は恋愛について占ってほしいが単刀直入には聞けない、というのが男性の相談者の特徴ですね」(同)

 もちろん、なかには女性の占い師をわざわざ「指名」し、「こんな時、女性はどう考えているか」など、リアルな相談をする男性もいる。とはいえ、男性に多いのは、やはり恋愛よりも仕事上の悩み相談で、その次が家庭だという。

「例えば、芸能プロダクションが多い恵比寿周辺の占いの店では、事務所関係者や所属するタレントさん本人が相談に来ることもあります。『このまま現在の仕事を続けても大丈夫か』など、タレントとしての方向性について聞きにくるケースが多いようです」(同)

 なかでも、男性の相談者で目立つのが企業の経営者や幹部だという。芸能人に限らず、富裕層の男性にスピリチュアルなものにハマる人が多いのはよく知られているが、長谷氏によれば、「経営者が最後の一押しを得るために占いを利用するケースは多い」という。「会社の引っ越しをするから、運気のいい間取りを考えてほしい」という相談もあるという。

●「LINEの既読スルーが辛い」という相談も

 2016年の上半期は、芸能界から政界まで、さまざまな有名人の不倫騒動が話題となった。しかし、面白いのは、だからといって占いで不倫の相談が増えているわけでもない点だ。

 長谷氏は「占いでは、時代を反映して相談の内容が変わるということは、基本的にありません」という。

「不倫というのは、話題になる前からずっとあることですから。芸能人の不倫がニュースになったからといって、急に不倫の相談が増えるわけでもないのです。
ただし、唯一、時代を反映しているといえるのが、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に関する相談でしょう。『LINEの返信がない』『既読スルーされてつらい』などは、現代ならではの悩みといえます」(同)

 しかし、それもあくまで「手紙」が「メール」に、「メール」が「LINE」に変わっただけの話にすぎない。コミュニケーションのツールは変わっても「人々の悩みの本質は変わっていない」と長谷氏は語る。

「それこそ、昔は『手紙の返信がない』という悩みが多かったわけです。『恋愛のもつれ』や『人間関係のいざこざ』など、いつの時代も悩みの種は似たり寄ったりです。占いに携わっていると、そのことがよくわかりますよ」(同)

 今、自分が抱えている大きな悩みも、先人たちの悩みと似たり寄ったりと思えば、いくらか気持ちが楽になるのではないだろうか。
(文=中村未来/清談社)

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