政府が「女性が輝く社会」を推進する動きに伴って働く女性が増加しているが、同時に増えているのが未婚女性だ。厚生労働省の「平成27年版厚生労働白書」は、2015年の女性の生涯未婚率が約15%に上り、35年には19.2%になると推計している。
仕事が忙しくて結婚相手と出会う機会もなく、さまざまなストレスを抱えている女性がそれだけ多いということだが、近年、こうした女性をターゲットに拡大しているのが「癒やしビジネス」だ。
猫やうさぎ、ふくろうと触れ合えるカフェ、スパやリフレクソロジーといったリラクゼーションなど、20年には癒やしビジネスの市場規模は約12兆円になると見込まれている。
なかでも最近、極めつけの“女性向け癒やしビジネス”として注目されているのが「添い寝屋」だ。いったい、添い寝屋とはどういうサービスで、どんな女性たちが利用しているのか。
●2時間2万円、彼氏持ちや主婦も利用
「添い寝屋は、女性のお客様のために自宅やホテルに男性キャストを派遣し、腕枕で添い寝しながら、ピロートークなどによって癒やしを提供するサービスです。私たちの場合、料金は2時間2万円から。ロングコースを希望すれば、キャストと10時間以上一緒にいることも可能です」
そう話すのは、13年にサービスを開始し、添い寝屋の代表的存在となっている「Rose Sheep」の女性オーナー・涼宮零さん。
一般的な金銭感覚で考えると、「2時間2万円」というのはなかなかの高額だ。ヘッドスパやリフレクソロジーの場合、現在の相場は10分1000円。2時間サービスを受けても1万2000円なので、2時間2万円は割高に感じる。
「時間内であれば、添い寝だけではなくマッサージもしますよ。
料金に加えて、初対面の男性と自宅やホテルで2人きりで何時間も過ごすというのも、普通の女性にとってかなりハードルが高いように思えるが、いったい、どんな女性が添い寝屋を利用しているのだろうか。
「お客様の年齢層は20代から50代と幅広いのですが、比較的多いのは30代から40代の方。バリバリ仕事をするキャリアウーマンタイプのお客様もいらっしゃいますが、どちらかというと、ファッションも雰囲気も落ち着いた感じの普通の方ばかりです」(同)
驚いたのは、彼氏持ちや、主婦などの既婚者にも添い寝サービスを利用する女性が多いということ。涼宮さんは「それだけ、癒やしを求める女性が多くなっているのです」という。
「例えば、仕事に生きることを選んだ能力の高い女性にも、『モテないわけではないけれど、いい男性と出会えず恋愛ができない』『理想とする男性になかなかめぐり会えない』という方がたくさんいます。旦那さんや彼氏がいても、不満がある方も多い。日々の生活に忙しい女性たちが、自分へのご褒美で『理想の恋愛』として添い寝サービスを求めているのかもしれません」(同)
●採用率1%の厳選されたイケメンが接客
添い寝サービスが「自分へのご褒美」なら、利用者が一番気になるのは男性キャストの“質”だろう。さまざまな不満やストレスを抱えた女性が利用する以上、キャストには相当レベルの高いイケメンが求められるはず。
涼宮さんは「キャストについては、かなり厳しい基準を設けて採用を行っています」と自信をのぞかせる。
「私たちは“イケメン出張添い寝屋”をうたっているので、まず容姿は『雰囲気イケメン』ではなく、『中の上』以上の端整な顔立ちをしていることが条件になります。そして、キャストは聞き役に徹することが多いため、コミュニケーション能力が高く、お客様の話を落ち着いて聞いてあげることも大切。
その狭き門をくぐり抜けて同店に在籍する男性キャストは、現在15名。彼らを呼ぶ利用者の目的は、「不眠症で眠れないから一緒に寝てほしい」「仕事のストレスがたまっているから愚痴を聞いてほしい」「彼氏や夫には感じないときめきがほしい」とさまざまだが、共通するのは、その多くが「初回についたキャストを指名して利用し続ける」(同)ことだという。
なかには、「2年近くも同じキャストを指名し続けてくださっているお客様もいらっしゃいます」(同)というから、ハイレベルなイケメンが揃っているのは事実のようだ。
実際、取材には同店の人気キャストである「そら」さんにも同席してもらったのだが、確かにビジュアル系バンドのボーカルのような中性的な顔立ちのイケメン。一方で、25歳と年齢はまだ若いが、男らしさと愛嬌、落ち着いた雰囲気を併せ持った好青年だった。
●イケメンによる性的サービスはあるのか?
「女性の利用客が、自宅やホテルにイケメンを呼ぶ」というシチュエーションを考えると、もうひとつ、どうしても気になるのが「性的なサービス」があるのかどうか。システムとしてはなくても、同じキャストを何年も指名し続けた場合、むしろ利用客と「男女の関係」になるほうが自然に思える。しかし、そらさんは「それは絶対にない」と否定する。
「僕たちは、お客様に対して彼氏のように接しているので、知らない人が見れば本物のカップルに見えるかもしれません。手をつないだり、頭をなでなでしたり、軽くボディタッチしたりする程度のことはあります。お客様の緊張感をほぐしてあげるのも、僕らの仕事ですので。
涼宮さんによると、実際に「性的なサービス」の有無について問い合わせがくるケースもあるが、そういう目的の利用者はすべて断っているという。添い寝は、あくまでも仕事や家事に追われる女性をイケメンとの擬似恋愛によって癒やすもの。いわば「心のやすらぎ」を提供するのであって、「風俗」ではないというわけだ。
癒やしビジネスも来るところまで来たという感じだが、涼宮さんは「この先、女性向けの添い寝サービスはさらに拡大する」という。「いずれは、女性一人ひとりがお気に入りの『専属キャスト』を持つようになってほしい」(同)。
確かに、アメリカではすでに、性的サービスなしの「添い寝セラピー」を起業する人が男女を問わず急増しているという。もしかすると、いずれは日本でも添い寝屋が「新しい癒やしサービス」として定着するのかもしれない。
(文=藤野ゆり/清談社)