今日は、適正体重の話で盛り上がっています。“極論君”は「適正体重、または理想的な体重に極力合わせる」という主張で、“非常識君”は「特段に困っていなければ太っていても構わない」という論調です。



 適正な体重を求める方法は、昔からいろいろと考えられていきました。一番簡便な方法は引き算だけ導き出せるもので、「適正体重=身長-110」です。身長が150cmの人は 40kg、160cmの人は50kg、170cmの人は60kgとなります。高身長の人には良さそうに思えますが、身長が低いと少し適正体重が軽すぎになります。そこで、「適正体重=身長-105」というのもあります。身長が150cmの人は45kg、160cmの人は55kg、170cmの人は65kgとなります。

 また、「適正体重=(身長-100)×0.9」というのもあります。こうなると引き算だけではなく、かけ算が加わります。これでは、身長が150cmの人は45kg、160cmの人は54kg、170cmの人は63kgです。これは、さらに良さそうですね。

 最近の世界的な流れは肥満度を示す体格指数のBMIで、 「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で、18.5から25が正常範囲となります。これは世界的なコンセンサスです。


【適正体重の下限(BMI=18.5)】
・身長1.5m:18.5×1.5×1.5=41.6kg
・身長1.6m:18.5×1.6×1.6=47.4kg
・身長1.7m:18.5×1.7×1.7=53.5kg

【適正体重の上限(BMI=25)】
・身長1.5m:25×1.5×1.5=56.3kg
・身長1.6m:25×1.6×1.6=64.0kg
・身長1.7m:25×1.7×1.7=72.3kg

 また、BMI18.5~25の真ん中当たりの22を最適値として、「理想的な体重=22×身長(m)×身長(m)」とすることもあります。

・身長1.5m:22×1.5×1.5=49.5kg
・身長1.6m:22×1.6×1.6=56.3kg
・身長1.7m:22×1.7×1.7=63.6kg

●難しい「理想的な体重」

 極論君の意見は、この理想的な体重に極力近づけようというものです。そこで、非常識君の質問です。

「理想的な体重は、年令や性別は無関係でいいのですか。どうも杓子定規な値に思えます。ひとつの目安とするには異論はありませんが、その値を目標とする根拠はありますか?」

 常識君がコメントします。

「BMIの値で肥満をグループ分けすることは、日本でも世界保健機構(WHO)でも行われています。日本肥満学会の基準は、 18.5未満が低体重(痩せ型)で、18.5以上25未満が普通体重、そして25以上が肥満(1度)、30以上が肥満(2度)、35以上が肥満(3度)、そして40以上が肥満(4度)となります。

 一方でWHOのほか、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアなどはBMIが30以上は肥満で、25から30は過体重とされます。日本では25以上が肥満という厳しい定義になっており、肥満による合併症が“わずかの肥満”からでも始まるという意見が反映されているためです。グループ分けに使用されている数字がキリがいい数字ばかりということは、その数字に科学的・統計的に特別な意味づけはないと思っていいでしょう。むしろ、そのグループ間でいろいろなことを比べることで、将来的に本当に普通体重群がほかよりも秀でているかが判明するのです。
また、BMIをもう少し細かく切り分けた群にしないと、理想的な体重は判明しないでしょう」

 そこで非常識君が尋ねます。

「もしもBMIの適正な範囲が正しいのなら、なぜメタボリックシンドロームの診断基準にはBMIが登場しないのですか?」

 常識君の解説です。

「メタボの日本の基準は、腹囲が男性で85cm以上・女性で90cm以上なのが必須項目で、さらに以下のうちの2つを満たすこととなっています。

(1)中性脂肪150mg/dL以上、HDL40mg/dL未満
(2)血圧収縮期130mmHg以上または拡張期85mmHg以上
(3)空腹時血糖 110mg/dL以上

 確かにBMIは含まれていません。むしろ、必須項目の腹囲は内臓脂肪100平方cm以上を推測するための項目で、実際の内臓脂肪の測定には通常、放射線被曝を伴うCT検査が必要なので、腹囲で代用しているのです。つまり、メタボという将来に生活習慣病を合併するなどして命にかかわり、さらなる医療費を必要とされる“悪い肥満”の診断項目にBMIはありません」

●人それぞれ

 そこで非常識君の主張です。

「特別に困っていなければ、つまり医学的に肥満による病気がなく、かつメタボの端緒となった内臓脂肪100平方cmに達していなければ、BMI値で肥満といわれても問題ないということを言いたいのです。BMIと内臓脂肪というダブルスタンダードが存在し、その説明が不明確なので世の中が混乱しています。人はいろいろです。周りの人と比べて少々痩せていても健康的な人もいます。一方、周りの人と比べて少々太っていても健康的な人もいます。性別や年令によっても異なるでしょう。
個々人の体の特徴が、適正体重という概念には含まれていません。少々太っていても健康な人もいるという事実を、大切にしてもらいたいのです」

 極論君の主張です。

「確かに他人が決めた理想的体重に合わせることは、馬鹿げているかもしれません。ただ、それを目安にするぶんにはいいではないですか。肥満の専門家が理想としている値を知って、そして自分に照らし合わせて生きていけばいいのです」

 最後に常識君のコメントです。

「悪い肥満では内臓脂肪が100平方cm以上です。内臓脂肪は腸の周りに付いている脂肪で、付きやすく落としやすいのです。炭水化物の制限や運動で皮下脂肪よりもはるかに簡単に、そして早く減少します。体重がほとんど変わらなくても、内臓脂肪は努力で減少します。皮下脂肪は定期預金、内臓脂肪は普通預金のイメージです。太っていると実感している人はまず内臓脂肪の減量を心がけましょう」

 妙に極論君、非常識君、常識君の意見が一致しました。
(文=新見正則/医学博士、医師)

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