3月30日放送のテレビ番組『生死を分けたその瞬間 体感! 奇跡のリアルタイム』(読売テレビ)で、MCを務める辛坊治郎のヨット遭難事故に関する特集が放送された。今までこの事故について多くを語ってこなかった辛坊だが、ヨットに取り付けられていた4台のカメラが収めた実際の映像と再現映像を交えながら、事故の一部始終が明かされたのだ。



 改めて振り返る。このヨット遭難事故が起きたのは、2013年6月21日。福島県小名浜港を出発して5日目のことだった。宮城県沖1200キロの絶海を航行中、午前7時8分にクジラと思われる生物に衝突し、船体底に穴が開き浸水。午前8時1分、沈没を免れないヨットから脱出してから約10時間漂流した後、辛坊は海上自衛隊によって救助された。
 
 番組では、なぜ10時間も救助が遅れたのか、その詳細が語られた。辛坊らは、巨大生物と接触後、すぐに沈没は確実と判断。プロジェクト事務所を通して、海上保安庁にSOSを要請した。午後1時38分、飛行艇は漂流中の救命ボートを発見するも、現場の海は飛行艇が着水可能な3メートルを超える高波のため着水できず。さらに1時間着水のタイミングを待つも海は荒れたままで、ついに燃料の限界になり、やむなく引き返すことになる。

 遭難から10時間後の午後5時6分、2機目の救難飛行艇が到着。相変わらず海面は荒れていたが、一瞬のタイミングを逃さずに着水。
本来、着水マニュアルでは、低空飛行での安全確認を2度行うことになっているが、今回の救出では海面が安定するチャンスが少なかったことと、日没間近だったこともあり、機長の判断によって1度の安全確認のみで着水した。こうして約11時間の漂流の末に、太平洋のど真ん中から無事に救出されたのだという。

 番組では、奇跡の生還として美談のように報じられていたが、そもそもこのヨット遭難事故は、2004年にイラクで誘拐された邦人に対して辛坊が放った「自己責任」発言が、そのままブーメランとなったことで有名だ。辛坊は当時、誘拐された邦人を政府が税金を使って救助する必要はないと発言していたが、4000万円の税金が使われたとされる自身の救助については、「週刊文春」(文藝春秋)が費用を払う考えがあるかと質問すると、「“払います”と言えば、助けてくれた自衛隊員が喜ぶと思いますか。命をかけて助けてもらって、それが金かよって思わないか。目の前で命がけの彼らを見ていて、それで金払いますとは言えないだろ……」と矛盾する回答をしている。当然、この「自己責任論」については、番組で触れられることはなかった。

 また、全盲のプロセーラーと共に太平洋を横断するという企画自体も、「東日本大震災で傷ついた人の力になりたい。盲目のセーラーが太平洋横断を成し遂げれば勇気を与えられるはず」という大義名分のチャリティー番組とされており、本来なら延期すべき悪天候であったにもかかわらず、放送日に間に合わせるために無理やり決行されたとの報道も一部ではなされた。

 いずれにせよ、4年経ったとはいえ、自身の事故を番組のネタにしつつ、演出感たっぷりに振り返っていた辛坊に対して強烈な違和感を感じた視聴者は、私だけではないはずだ。
(文=古瀬裕)

編集部おすすめ