「週刊文春」(文藝春秋/4月20日号)に掲載された記事『現役CAが告発 格安バニラエア「フライト中、副操縦士に異変が」』が、航空業界で波紋を呼んでいるという。記事内容を要約すると、以下のとおりとなる。
・パイロットもCAも限界まで働かされ、職場環境はブラックそのもの
・2月の新千歳─成田便で、副操縦士が操縦不能の状態に陥った
LCC(格安航空会社)と聞けば、「安かろう悪かろう」ということで利用に不安を感じる消費者も少なくないだろう。LCCの低価格が、安全を犠牲にして実現したものなら、誰も利用したくはない。
現在、国内線を運航しているLCCは、ピーチ・アビエーション、ジェットスター・ジャパン、春秋航空日本、そしてバニラエアの4社になる。ピーチとバニラ・エアはANAホールディングスが、ジェットスター・ジャパンは豪カンタス航空と日本航空と三菱商事が、春秋航空日本は中国・春秋航空がそれぞれ出資している。
では、業界関係者はLCCをどのように評価しているのだろうか。航空業界の調査・研究・分析などを行うシンクタンク航空経営研究所の主席研究員は語る。
「少なくとも国産LCCは、日本の安全規準は守っていますし、それなりの陣容で運航を行っています。国産LCCが立ち上がる際、国土交通省は整備や運航の安全面で手を抜くことはないだろうと確信を得ていました。例えばジェットスターの場合なら、日本航空の整備部門OBが入社し、運航体制を整えたからです。ビーチもバニラも、同じように全日空が支援してきました」
では海外のLCCはどうか。特に春秋航空日本は国内線を運航している。
「乗り入れ国の安全規準があり、それを管轄する政府部門も存在します。
●パイロットのレベルはピンキリ
一方で、主席研究員はこうも語る。
「LCCのパイロットのレベルは、実態としてはピンからキリまでです。現在のパイロット不足は深刻で、全世界の航空会社が確保にしのぎを削っています。国内LCCの場合は、2010年に日本航空が倒産し、パイロットがLCCに再就職するケースがかなりありました。バニラ、ピーチ、ジェットスターの3社のパイロットは、一定以上の技術レベルだといえます」(同)
かつてはパイロットのミスが原因の事故は多かったが、パイロット訓練に安全管理が導入されたこと、飛行機の改良と地上管制の発達で、事故率は減っているという。
「LCCではありませんが、韓国アシアナ航空では13年にサンフランシスコ国際空港で着陸に失敗、3人の乗客が死亡したほか、15年には広島空港でも着陸を失敗し、28人の負傷者が出ました。どちらもパイロットが原因の事故ですから、やはりパイロットのレベルの問題は厳然として存在します」(同)
さらに、乗客にとっては不安を感じるかもしれない以下の事実も存在するという。
「日本資本のLCCでも、人手不足の穴埋めに外国人パイロットを雇用することがあります。問題は、彼らはより有利な条件を出されれば、簡単に転職してしまうことです。そうして再び穴が生じた際、レベルの低い外国人パイロットを雇用してしまう危険性はゼロではありません。
●欠航問題
「文春」記事でも指摘されているが、4月7日にバニラエアのフィリピン・セブ島行きのJW601便が欠航となった。原因はパイロットの体調不良というものだった。
「『文春』の記事は、具体的内容の真偽はともかくとして、LCCにおける厳しい勤務実態を指摘したところは首肯できます。ぎりぎりの人数で運航するビジネスモデルですから、パイロットが急病になると飛行機を飛ばせません。全日空や日本航空といったフルサービスキャリア(FSC)の場合、バックアップのパイロットを用意しています。急な呼び出しであっても2時間ぐらいの遅れで出発するわけです」
だからこそLCCは安いのだ。パイロットにトラブルが起きても、飛行機が故障しても、すぐに欠航となる。バックアップを準備していないことで、大きなコストカットを実現している面は否定できない。
「LCCを『安かろう悪かろう』と批判するのは言い過ぎで、『安いのには理由がある』といったところでしょう。先に見たように欠航のリスクがありますから、たとえば海外出張で利用しようと考えるビジネスパーソンは少ないでしょう」(同)
いずれにせよ、FSCかLCCのどちらを利用するかは、利用シーンなどを考慮して、都度消費者個人で判断しなければならないことは、いうまでもない。
(文=編集部)