学生が在学中に企業で就業体験を積める「インターンシップ」を実施する企業が増えている。日本経済新聞によれば、昨年4月以降にインターンを導入した企業は14.3%で、それ以前から実施している企業と合わせると7割以上に上るという。



 また、今年3月にマイナビが発表した「2018年卒マイナビ大学生広報活動開始前の活動調査」によると、「インターンシップに応募や申込み」をしたことのある学生の割合は、調査対象者約4000人のうち80.4%。実際にインターンに参加した経験のある学生は65.2%と、5年連続で増加している。

 インターンの始まりは、1960年頃のアメリカにさかのぼる。大学教育で取得できる能力と実際に企業で求められる能力の間に乖離があり、問題視する声が上がったことで、インターン制度がスタート。以降、米政府の支援もあり、企業と学生の間に広まっていった。日本では、90年代に大学と行政が連携して推進し、近年はインターンへの参加で単位を取得できる学校もあるという。

 しかし、インターンには労働法などで定められたルールがないため、就業体験が拡大解釈され、無給で社員と同じ内容の労働を求められるケースも存在する。インターネット上にはインターン募集専門のサイトもあるが、見た目だけでは通常のアルバイトの求人広告となんら変わりがないのだ。

 インターンは本当に必要な制度なのか、それともブラック労働の温床なのだろうか。労働法に詳しい弁護士の竹花元氏に話を聞いた。

●無給で社員と同じ仕事をさせるケースも

 インターンは本来、学生側にとっては「就業体験」で、企業側にとっては「社会貢献の一環」と位置づけられている。しかし、まず問題なのは、その実施に関するルールが日本経済団体連合会(経団連)の指針でしか示されていないことだという。


「インターンを採用活動の一環として利用することは、経団連が公表している『採用選考に関する指針』のなかで禁止されています。なかには、インターンで目をつけておいた学生を就活時に優遇することがあるかもしれませんが、明るみに出ることはないでしょう。ただ、それよりもっと問題なのは、就業体験の範疇を超えて、学生に『職務』を課す企業が存在することです」(竹花氏)

 本質的にインターンは労働者ではないので、企業から給与は出ない。支払われるとしても、最低賃金以下の手当だけだ。しかし、無給のインターンとして受け入れておきながら、ほかの社員と同じような業務を行わせる企業が少なからず存在するという。

「名実ともに就業体験である場合には、インターンに給与を出さなくても問題ありません。ただ、現実的には、インターンという仕組みを就業体験と位置づけるのは、無理があるのではないかと思います。それは、個人が企業の管理下に置かれ、指揮命令によって動くこと自体が『労働』とみなされるからです」(同)

 厳密にいえば、出社や退社の時間が決まっている時点で「労働」に分類される可能性がある。そのため、この「労働」と「就業体験」という曖昧な線引きのなかでは、無給のインターンが行えることは本来かなり限定的だ。

 たとえば、竹花氏によると、営業先にインターンを同行させるのは就業体験の範囲内といえるが、営業としてクライアントを1人で接客するなど、会社の利益につながるような行動を単独で行わせるケースは「アウト」だという。

「そもそも、よほど資本力のある大企業でない限り、純粋に社会貢献の一環としてインターンを受け入れるのは無理があります。さらに、参加した学生を採用することもできないとなれば、企業側にとってメリットが薄すぎる。


 このため、最近では自主的にインターンに給与を支払う企業が多数派になっています。とはいえ、コンプライアンス意識の低い企業も依然存在するので、なかには給与を支払わないで社員と同じ仕事をさせるケースもあるようです」(同)

●企業に搾取され泣き寝入りする学生も

 そして、より問題なのは、明らかにインターンに労働をさせているケースでも、立場の弱い学生側が異議を申し立てづらいという点である。実際、社員と同様の労働をさせられたのに給与を出してもらえず、学生が泣き寝入りするケースもあるという。

「まだ法廷で争う例こそありませんが、『企業に搾取されている』という意味では、インターンも“ブラックバイト”と共通の問題点があります」(同)

 竹花氏は、そうならないために「働いた時間や業務内容を記録しておくこと」「労働時間を確定しておくこと」の2点が重要だと語る。「インターン」という名目であっても、働いた時間の給与は請求できるが、これを知らない人が意外に多いという。

「これから社会に出て働くからには、労働法は絶対に知っていたほうがいいと思います。たとえば、弁護士会でも学生に労働法を教える無料の出張講義を積極的に行うようになっているので、学校がそうした制度を利用するのも有効です」(同)

●企業にも学生にもメリットがないインターン制度

 学生側だけではなく、インターンを受け入れる企業側のメリットが少ないことも、この制度の問題点だ。

 大手企業には「社会貢献の一環」を行う体力があるかもしれないが、そこまでの規模でない企業やベンチャー企業にとってはインターンが負担となり得るのも事実。それでも、受け入れが採用活動に結びつくならメリットも大きいが、前述したように、インターンを採用活動に利用することは経団連の「採用選考に関する指針」で禁じられているので、経団連に加入している企業は行うことができない。

「企業にとって優秀な人材を確保することは、経営においてもっとも重要な課題のひとつ。限られた面接時間やペーパーテストで、キャリアのない学生の資質を見極めたり適正なマッチングをしたりすることができるのか、といった新卒一括採用の課題を踏まえると、インターンは採用活動に資するといえるでしょう」(同)

 インターンを採用活動に利用できれば、企業はインターン時の働きぶりや人当たり、やる気などをチェックし、見どころのある学生に声をかけることもできる。さらに、学生にとっても、就職しようと思っている企業が「本当に自分に合っているのか」「社内の雰囲気はどうか」「自分のやりたいことが実現できる会社なのか」などを見極める判断材料になる。


 それにもかかわらず、経団連の指針で企業も学生も手足を縛られ、双方にとってメリットのないものになってしまっているのが、インターンの現状なのだ。しかも、労働基準法や労働契約法にインターンに関する規定がないため、弱い立場の学生がより損をする構図となっている。

「インターンを悪用する企業がゼロではない以上、学生のためにも法整備を急ぐべきでしょう。インターンを学生側と企業側の双方にとって有効なものにしようとする動きも出ています。

 たとえば、楽天の三木谷浩史会長が代表を務める『新経済連盟』は、昨年3月に就職・採用活動に関する提言を発表し、インターンについても単位促進や採用活動との連携の必要性などを提言しています」(同)

 インターンそのものは、運用次第で学生にとっても企業にとっても有益な仕組みになり得る。インターンをブラックバイト化させないためにも、なんらかの法整備、そして採用活動への利用推進などルールの柔軟化が必要なのではないだろうか。
(文=末吉陽子/ライター)

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