定食専門店、大戸屋ごはん処を展開する大戸屋ホールディングス(HD)は5月10日、亡くなった実質的な創業者である三森久実氏に対して、功労金約2億円を支払うと発表した。6月28日に開催する株主総会に提案する。

合わせて、会社の規定に基づき弔慰金として1000万円を支払うことも決めた。今後は、創業家の出方が焦点となる。

 2015年7月、久実氏が57歳の若さで急逝した。久実氏への功労金の支払いや長男の三森智仁氏の処遇をめぐり、久実氏の妻・三枝子氏と窪田健一社長が対立した。窪田社長は久実氏の従兄弟だ。

 16年5月の取締役選任議案に、三枝子氏と智仁氏が反対を表明したことで対立が表面化した。経営側は同年8月、創業家との和解を目指し第三者委員会を設置。9月26日に報告書を提出した。

 報告書は内紛について、創業家と経営側の双方の非を指摘した。第三者委員会委員長の郷原信郎弁護士は、支払われていない功労金問題の解決が「最も重要」としたが、経営側は「不当な要求は拒絶する」として、にらみ合いが続いてきた。

 今年の株主総会を前に、経営側が2億円の功労金を支払うことで歩み寄りを見せたわけだ。だが、これにて一件落着というわけでもない。
株主総会に諮る取締役の候補に智仁氏が入っていないからだ。

 久実氏の株式を相続した三枝子氏が13.15%を保有する筆頭株主で、智仁氏は5.64%の第2位の大株主だ。経営復帰を目指す母子が会社提案の人事案に賛成する可能性は低い。創業家は「窪田社長憎し」に固まっており、創業家には大物フィクサーがバックに控えている。

●創業家の代理人は大物フィクサー

 第三者委員会の調査報告書は、微に入り細にわたり記述している。そのため、「小説より面白い」と評判になった。社内で「お骨事件」と呼ばれているくだりはこうだ。

 15年9月8日、三枝子氏は遺骨を持ち、背後に位牌・遺影を持った智仁氏を伴い、裏口から社内に入り、そのまま社長室へ。扉を閉めた上、社長の机の上に遺骨と位牌、遺影を置いた。その後、智仁氏が退室し、三枝子氏は窪田氏と2人になったところで難詰した。

 窪田氏が当時作成したメモによると、三枝子夫人は30分ほどにわたって次のように述べたという。

「あなたは大戸屋の社長として不適格。
相応しくないので、智仁に社長をやらせる」
「あなたは会社にも残らせない」
「亡くなって四十九日の間もお線香を上げに来ない」
「何故、智仁が香港に行くのか」
「私に相談もなく勝手に決めて」
「智仁は香港へは行かせません」
「9月14日の久実のお別れ会には出ないでもらいたい」

 創業家代理人の大物フィクサーも登場する。正木烝司氏だ。調査報告書は、久実氏の次兄で東京慈恵医科大学外科学講座特任教授の三森教雄氏の発言を載せている。教雄氏は三森一族から唯一、社外取締役に入った。その教雄氏が16年6月8日、正木氏宅を訪問した。

「正木氏が一度私と話したいと言っていると智文(久実氏の長兄)と智仁から連絡があり、智文・智仁・三枝子と6月8日に行った。私が行った理由は、会ってどういう人物か確認し、言い分を伝えたいということ。(渋谷区)松濤の自宅で。好々爺、恰幅のいい老人という印象。

 意見を求められて、『智仁が辞めたことは間違っているし、復帰する予定を会社側が示してくれているのだから、きちんと話し合いをもって早期に解決すべきだ』と話した。代理人として正木氏がいなくても解決できる体制にあると。正木氏は『会社側の対応がよろしくない、大株主に対するリスペクトが必要だ』と強調していた。


(中略)智仁も三枝子も、一番頼っているのは正木氏。そんなに深入りしないほうがいいだろうという印象だが、智仁にそれを言っても今は聞く耳を持っていない」(調査報告書より)

 正木氏は緑化工事会社、泰正の社長だ。この表の顔よりも、政財界にまたがる幅広い人脈を生かした大物フィクサーとして知られている。父親は「アラビア太郎」と呼ばれたアラビア石油創立者の山下太郎氏だ。

「劇場型乗っ取り」とテレビのワイドショーを賑わした、ライブドア元社長の堀江貴文氏によるニッポン放送の乗っ取り騒動のとき、フジテレビジョンの日枝久会長と堀江氏の和解を仲介したのが正木氏だ。堀江氏は「正木氏の家で、3人で食事した」と語っている。

 指南役の正木氏の狙いは、智仁氏の経営への復帰と窪田社長の追い落としにあるといわれている。株主総会に向けて、どういう手を打つのかが注目される。

 大戸屋HDの17年3月期の連結決算の売上高は前期比1.5%減の256億円。国内の既存店売り上げは、お家騒動の影響もあり16年5月から17年3月まで前年割れが続いた。海外事業が好調で、純利益は17.2%増の3億5700万円となった。

 経営側としては、創業家との対立を早期に解決し、経営に専念したいところだろう。
しかし、株主総会までに決着がつくかどうかは不透明だ。
(文=編集部)

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