仕事帰り、それなりに長い付き合いと思われる部下の女性(石原さとみ)と大衆系居酒屋でサシ飲みしている。部下の女性は潤んだ瞳で「誰よりも主任といる時間のほうが長いかも」「今日の現場大変でしたね。
男性なら誰もが憧れる「かわいい部下と2人きりの打ち上げ」を描いた、サントリー「ふんわり鏡月」のCMは、放送直後から大きな話題となった。男性からは「石原さとみのしぐさがかわいすぎる!」「こんな部下がいたら最高!」と大絶賛の一方、女性からは「不倫を想像させる」「女に酒をつくらせて、まるでホステス扱い」などの批判が相次いだ。
石原が出演する「ふんわり鏡月」のCMはシリーズ化されており、「何年一緒だと思ってるんですか!」とふくれながら上司好みの酒をつくる「おみとおし篇」や、「主任って、面倒な仕事も断るより受けるほうが好きで、怒るより笑い飛ばすほうが好きで……ネコが好き」と主任のことをうれしそうに語る「主任って…篇」など、主任と部下がお酒を通して親密なやりとりをする様子が描かれている。
男性のみならず女性からの人気も高い石原を起用しているにもかかわらず、なぜここまで男女で意見が分かれてしまうのだろうか。そこで、20~40代の女性たちにこのCMを見てもらい、意見を聞いた。
●女性も好意的な石原さとみの“あざとさ”
意外に多かったのは、「石原さとみなら許す」という肯定的な声だ。あざといキャラを見せられても、石原のかわいさの前では反感すら抱けないというのだ。
「素直にかわいい。鏡月のCMは毎回あざといし、ほかの女優だったらかんにさわると思うけど、石原さとみならアリ」(25歳/フリーター)
また、「酒をつくらせるなんて、女性を軽視している」と批判を浴びたシーンに対しても、
「上司との飲みで酒をつくるなんて、男女問わずよくあること」(同)
「私もよく、上司の話を『つまんないなー』と思いながら、お酒をつくって気をまぎらわしてます(笑)」(27歳/事務職)
と、働く女性たちにとって目上の男性にお酒をつくるというのは、よくあるシチュエーションなのかもしれない。また、このCMのようにサシで飲みに行くことによって、実際に上司との仲が深まることもあるらしい。
「雑談はおろか、仕事上の会話もほぼゼロの上司に誘われてサシ飲みしたんですが、意外としゃべるタイプだというのがわかっておもしろかった。
「不倫してみたい女優」1位に選ばれたこともある石原が演じているために、妙に艶っぽく怪しい雰囲気すら漂ってしまっている同CM。しかし、現実には上司と1対1で飲んだところで、親交が深まりはしても男女の関係に発展することはめったにないようだ。
CM同様、「たぶん誰よりも一緒にいますよ」と上司に言った経験があるという女性は、「特に深い意味もなく言ったけど、勘違いさせていたらどうしよう」(32歳/事務)と笑った。
また、部下の女性と2人で飲みに行って盛り上がったとしても、「基本的に上司は財布だと思っています(笑)」(28歳/営業)としか捉えられていないので、男性は夢を見るのはやめたほうがいいだろう。
●檀れいや石田ゆり子と何が違う?
こうした好意的な声の一方で、以下のような批判も存在する。
「こういう女性の部下がほしいんでしょ? という制作側の意図が透けて見えるようで不快。石原さとみの作為的なサバサバぶりも苦手です」(27歳/編集)
「これを見て、テレビの前でデレデレする男性の姿が目に浮かびますね。オッサンの妄想すぎて気持ち悪い」(41歳/接客業)
同CMのシリーズで、石原は「私だってバブル知ってるんですから~」とおどけてみせたり、「甘くないのつくります!」とテキパキ動いたり、いかにも男性好みの利発な女性社員として描かれている。女性は、その“あざとさ”に敏感に反応してしまうのだ。
あざとさでいえば、同CMシリーズは石原がカメラ目線で「間接キッスしてみ?」などと酒を片手に語りかけてくる演出が特徴的だ。このような、恋人や妻を思わせる距離感でカメラ越しに語りかけてくるCMは、ほかにもいくつか存在する。
たとえば、檀れいが出演するサントリー「金麦」シリーズも、この系譜だ。
では、なぜ石原だけが叩かれてしまうのか。それは、最近の石原出演CMがあざとい演出ばかりだということが一因かもしれない。「ふんわり鏡月」を筆頭に、「東京メトロ」「プリウス」「ガルボ」「果汁グミ」など、男好きのするかわいさを前面に押し出したものばかりなのだ。
これらのCMで、石原はチャームポイントの唇を半開きにしてキメ顔を披露しているが、女性からの批判などはとっくに織り込み済みなのかもしれない。
●石原さとみがつくる水割り、プロ目線では何点?
「ふんわり鏡月」のCMでは、石原が主任のために酒をつくり、笑顔で手渡すシーンが描かれている。その手つきはスムーズで迷いがなく、すでに何度も男のために酒をつくってきたかのように慣れている。まるで水商売の経験があるようだが、この一連の動きは、実際に男性に酒をつくり続けてきたプロの女性から見て、どうなのか。
「場慣れしていると思います。ご自身も、『ある程度はお酒が好きなのかな』という印象ですね。
自分の魅力やチャームポイントをわかった上で少しだけわざとらしく振る舞い、ツッコミどころ満載でも男性にとって「ちょうどいいポジション」を演じ切る石原。確かに、あざとさの塊といえるかもしれないが、それを体現できる女優がめったにいないことも事実だ。
「カッコ悪くて、カッコよかった」のは、石原自身なのかもしれない。
(文=藤野ゆり/清談社)