独立系分析機器大手、堀場製作所は26年ぶりに社長が交代する。2018年1月1日付で堀場厚会長兼社長は代表権のある会長兼グループ最高経営責任者(CEO)に就任する。

足立正之専務が社長に昇格する。

 堀場厚氏は創業者の故・堀場雅夫氏の長男。1971年、甲南大学理学部応用物理学科卒。渡米し米国法人のオルソン・ホリバ社に入社。米国時代にカリフォルニア大学大学院工学部電子工学科を修了。77年に帰国し、堀場製作所の海外技術部長に就任した。92年に父親の後を継いで代表取締役社長に就いた。現在は会長兼社長である。

 堀場製作所は世界22カ国43社でエンジン計測器を納入している。売上高の7割弱を海外が占め、社員も7割が外国人だ。海外のM&A(買収・合併)が増えており、堀場製作所の経営は足立氏に任せ、堀場氏はグループ全体を見る体制にする。

 足立氏は立命館大学理工学部卒、同志社大学大学院修了。
85年、堀場製作所に入社。エンジン計測器部門で、分光器でガスを測定する現在の排ガス測定器の基礎となる技術を開発した。さらに、米国やフランスの現地法人の社長も務めており、会社を経営した経験もある。

 堀場製作所の17年12月期の連結決算の売上高は前期比10%増の1870億円、営業利益は19%増の220億円、純利益は12%増の145億円と過去最高を達成する見込み。業績の良い時こそが社長交代のタイミングと判断し、26年ぶりの社長交代が実現した。

 堀場製作所は技術オリエンテッドの会社で、エンジン計測器で世界市場の8割のシェアを誇る。「HORIBA」の名前が全世界に轟いたことがある。

●VWの排ガス不正解明に一役買う

 2年前の15年9月、世界自動車大手、独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車排ガス不正が発覚し、世界を揺るがした。捏造、虚偽広告、隠蔽、調査妨害。これだけの疑いを招き、同事件は米ウォーターゲート事件になぞらえて「VWゲート」という呼び名がついた。

 不正を発見した米国の大学が走行試験に使ったのは、堀場製作所が路上で使えるように02年に改良を加えた測定器だった。それまでの測定器は屋内の検査場でしか使えなかった。


 当時の報道によると、米環境団体の依頼を受けて調査した米ウエストバージニア大工学部は、VWのディーゼルエンジン車に堀場製作所製の測定装置を載せ、実際に路上を走行させて排ガスを検査。車体を固定して行う試験場での結果と比べ、窒素酸化物(NOx)が基準より最大で35倍多かったことを14年5月に公表した。

 この結果を受け、米環境保護局(EPA)が調査に乗り出した。EPAがさらに調べた結果、VWが一部車種に違法ソフトウェアを搭載し、試験時には排ガス浄化機能をフル稼働して基準を満たすが、実際の走行時には機能が大きく低下することがわかった。

 VWは当初、不正を認めなかった。EPAは試験場での数値と実際の走行時の数値の食い違いを説明できなければ、新型モデルを認証しないと警告。追い詰められたVWは、試験場での排ガス試験の場合にだけ浄化装置をフル稼働させる違法ソフトを搭載していたことを認めた。

 EPAは15年9月18日、VWによる排ガス不正の全容を公表した。これは世界の自動車業界を揺るがす大問題に発展した。ウエストバージニア大のホームページには、不正解明に一役買った堀場製作所の装置を扱う研究者の写真が載っている。

●「おもしろおかしく」が社是

 堀場製作所創業者の堀場雅夫氏は、1924(大正13)年、京都に生まれた。父、信吉氏は京大、同志社大で教鞭をとった化学者で、大阪府立大の初代学長を務めた。
雅夫氏は43年、京都帝国大学理学部に入学。物理学を専攻、物理学者を目指した。だが敗戦。生活費と研究費を稼ぐため、在学中の45年に堀場無線研究所の看板を掲げた。日本の学生起業家の草分けである。停電が頻発するなか、コンデンサー(蓄電池)の開発に乗り出した。国産初のガラス電極式pHメーターの開発に成功。53年、堀場製作所を設立した。

 堀場製作所は社員の自由な発想を尊重することを社風とし、社是に「おもしろおかしく」を掲げた。これは雅夫氏の「いちばん大事な年代の、いちばん大切な時間を過ごしている職場において、生きがい、働きがいのある人生を送るということに絶対的な価値がある」という考えに基づく。社員の能力を引き出しながら、「おもしろおかしく」仕事ができる組織を模索する。

「そのためには、自分の得意なことをやることや。
得意なことだったら、必ずうまく行くはず。そうしたら周りから尊敬され、精神的にも満たされます。自分の得意な面を見つけて、それをとことん突き詰めてったら、楽しいし、お金も、名誉も、満足も同時に手に入れられる。周りの人も喜んでくれる。得意なことに徹すれば、必ず未来は開ける。そやから最後に僕は『イヤなら堂々とやめろ!』と、言うてやりますわ」(日経ビシネス2014年12月29日号『遺言 日本の未来へ』より)

 雅夫氏が考えついたのが専従制だ。効率性の点では分業型の組織に劣ることを認識しながらも、社員が商品の誕生から、お客の反応を見るまでを一貫して担当することにした。商品ごとに専従する人を決めた。待遇面では1日の勤務時間を少しずつ延長して休める日を増やして「週休3日制」を一部導入するなど独特な社風をつくりあげた。

 この社風がドル箱となる製品を生み出した。肥料をつくるときの品質管理などに使われるpH(水素イオン濃度指数)メーターの開発からスタートしたが、公害問題の広がりを受けて気体の分析装置を開発。自動車の排ガス測定装置は世界に知られる大ヒット製品となった。
排ガス測定装置は売り上げの4割を稼ぐ“4番バッター”になった。

 雅夫氏は経営の第一線から退くと、ベンチャー企業の育成に力を注いだ。

 堀場製作所は、仏ABX社(1996年)、仏ジョバンイボン社(97年)、独カール・シェンク社の事業(05年)、英MIRA社(15年)を買収したが、すべて相手からの申し入れだった。社是の「おもしろおかしく」を英語に意訳した「JOYandFUN」というHORIBAの企業文化に共感してくれたからだったという。
(文=編集部)

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