「三菱の名をなぜ汚すのか」と怒り心頭なのは、同グループの社長会「三菱金曜会」の会員企業幹部。矛先が向けられているのは、子会社で製品の検査データ改ざんが明らかになった三菱マテリアルに対してだ。



 同社が三菱電線工業、三菱伸銅、三菱アルミニウムの子会社3社の不正を発表したのは11月23日のこと。翌24日には竹内章社長らによる記者会見が開かれたが、記者の質問に「調査中」と何度も繰り返し、具体的内容についてはほとんど語られなかった。心ここにあらずの竹内社長に対し、記者の間からは「まるで他人事」といった声が洩れた。

●本丸は三菱アルミニウム

 シール材の検査データを書き換え、その出荷先数、出荷数量、出荷額とも、3社のなかでもっとも多かった三菱電線工業は12月1日、生え抜きの村田博昭社長をヒラの取締役に降格。三菱マテリアルで執行役員を務める高柳喜弘取締役(非常勤)を社長に昇格させた。

「三菱マテリアルの竹内社長らは一刻も早く、一連の不祥事の幕引きを図ろうとしているのがミエミエ。だが、小手先で乗り切れるほど、甘くはない。いずれにしても、本丸は三菱電線工業ではなく、三菱マテリアル本体および三菱アルミニウムなんです。この2社の問題が白日の下にさらされ、しっかりした善後策が出てこない限り、世間はもとより、金曜会の中でも納得は得られない」

 こう話すのは、前出の金曜会の会員企業幹部だ。同じ三菱グループとはいえ、なぜ他社のことに、ここまで厳しい言葉を投げかけるのか。金曜会というのがもともと、そういう組織だからだ。

 毎月第2金曜日の昼に各社のトップが集まり、ランチを食べ、招聘した講師の話を聞く。
これだけなら単なる親睦会だが、会員企業に問題が起こった時は、対策を話し合う場に変貌する。金曜会の本当の目的は、戦後解体された旧三菱財閥の結束と興隆なのである。三菱マテリアルは金曜会の主要メンバーであり、三菱アルミニウムも同メンバーとして名を列ねている。この2社の不祥事を「金曜会としては見て見ぬふりはできない」(会員企業幹部)というのだ。

●「御三家」に次ぐ名門企業

 三菱グループの最高意思決定機関としての側面も持つ金曜会。現在、会員企業数は28社だが、これらは横並びではない。そこには厳然としたヒエラルキーが存在する。頂点に君臨するのは「御三家」と呼ばれる三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行。重大な課題に直面した時は常に、この3社で取り仕切ってきた。

 御三家の下に位置するのが主要10社。前述した通り、三菱マテリアルはここに入る。「本流の『三菱合資会社』の流れを汲む企業で、いわば名門中の名門」(三菱グループ長老)と評される。
金曜会の60年以上の歴史の中で、同組織のリーダー「代表世話人」はずっと、御三家のいずれかのトップが務めてきた。唯一の例外は1979~1984年に代表世話人に就いた三菱鉱業セメントの大槻文平会長(当時)。同社は三菱マテリアルの前身企業のひとつだ。

 いわば、御三家に次ぐ名門だったわけだが、その分、周囲の見る目も厳しくなる。しかも近年、三菱マテリアルが起こした大きな不祥事はこれだけではないのである。

●メッキが剥げ落ちた功労者

 同社四日市工場(三重県)で爆発火災事故が発生し、5人が死亡する惨事を引き起こしたのは2014年1月。当時の社長は矢尾宏氏。ずさんな管理体制や相次ぐリストラが招いた人為的事故と批判されながらも、その後も社長を続け、15年4月には代表権を持ったまま、会長に就任。現在も、その座にある。

「今回、子会社3社の不正を発表したなかで、ほとんど詳細が明らかにされていないのが三菱アルミニウムなんですが、それは矢尾さんの存在と関係している」と話すのは同社関係者だ。

 08年4月、三菱マテリアルの副社長だった矢尾氏は三菱アルミニウムの社長に就任。過当競争に喘ぐアルミ業界のなかで、不振をかこっていた同社を見事に立て直し、「再建請負人」という称号を引っさげて、10年6月、三菱マテリアルに社長として凱旋復帰した。


「三菱アルミニウムがアルミ板のデータを書き換えていた時期と、矢尾さんが社長だった時期は重なっている。三菱マテリアルがそのあたりを曖昧にしているのは、功労者を守ろうとする意図が働いているとしか思えません」(同)

 三菱マテリアルのこうした姿勢には、三菱グループ内からも批判の声が強い。

「矢尾会長は今期限りで退任するものと思われますが、それはもともと予想されていたこと。しかし、責任の所在をはっきりさせないまま、任期をまっとうさせてはならない。わずか数カ月の違いにしかならないかもしれないが、矢野会長は途中退任するべき。でないと、示しがつかない。三菱の名の重さを自覚すべきです」(金曜会・会員企業幹部)

 三菱マテリアルの対応に注目が集まる。
(文=田中幾太郎/ジャーナリスト)

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