●仕事の悩みは人間関係
 
 仕事でスランプに陥っている時は、あれこれと悩んだりするものです。その悩みの原因は、良く考えてみるとほとんどが対人関係の悩みだったりしませんか。

たとえば、

・仕事で大きなミスをして上司にこっぴどく叱られて以来、どうも上司との関係がぎくしゃくしている
・部下がいつもそっけない返答しかしない。なんとなく嫌われているような気がする
・自分が担当するお客さんはいつも上から目線で、苦手意識がある

といった悩みは誰もが持つものです。そしてまた、

・仕事があまりうまくいっておらず、周りから仕事ができないと思われている
・人前で話すのが苦手で、自分の話はおもしろくないとみんな思っているに違いない

など、自分の能力そのものが問題であることは自分でわかっていながらも、他人からどう見られるかを悩んでしまう。こんな人もよく見かけます。

 実は多くの人にとって仕事の悩みのほとんどは、対人関係の悩みです。たとえば、アルバイト情報誌を発行する会社が2009年に行ったアンケートによれば、パートやアルバイトを辞める理由のトップが「店長や社員の人の雰囲気が悪いから」というものでした。「疲れる仕事だから」という理由や、「給料が安いから」という理由を抑えて、断トツのトップでした。プライベートなことまで話を広げれば、人間の悩みはすべて対人関係であるといっても過言ではありません。

 そこで今回は、どうしたら人間関係を円滑にして、悩みから開放されるのか。そんなことについて今日はお話していきます。

●自分でなんとかできることと、そうでないことを分ける

 悩まないようにするために、まずやるべきことは、モノゴトを「自分ではどうしようもないこと」と、「自分でなんとかできること」、この2つに分けることです。自分ではどうしようもないこととは、たとえば会社が駅から遠いとか、上司のネクタイの柄が受け入れられないとか、そういうことです。
そして、そのようなことは考えないようにすることです。

 一方の自分でなんとかできることについては、原因を特定して、それに対して問題解決を淡々と行う。こうするだけで、悩みはぐっと減るはずです。

 とても簡単なことのはずですが、多くの人は「自分ではなんともできないから受け入れるしかないこと」にくよくよ悩み、本当は解決できる問題なのに「どうしようもないこと」と自分で決めてしまい、同じ過ちを繰り返してしまいます。

 対人関係では、他人の行動や考え方は「コントロールできないもの」と考えます。たとえば仕事中に、いつもカチンと来るような余計な一言を言う上司に対して、あなたが腹を立てているとしましょう。そんな上司とは仕事をしたくないという気持ちはよくわかります。

 しかし、この状況での問題の正しい捉え方は、「そのような上司に対して腹を立てる自分自身が問題である」ということだと、私は考えます。当たり前のことですが、相性のいい人だけと付き合って、生きていくことはできません。誰とでも付き合えるように、また誰から何を言われても腹を立てないように、自分自身が変わればよいのです。

 モノゴトを自分でコントロールできるかどうかで整理し、自分ができることに集中しましょう。そして、コントロールできることに関しては、問題を解決するために自分がどう変わらなければならないかを考え、行動を起こしましょう。


●他人からの評価はコントロールできない「結果」
 
 しかし、それを実践するとなるとひとつ問題が発生します。それは「人からどう思われるか」が、ボトルネックになってしまうことです。我々は誰でも他人から褒められたい気持ちを持っています。しかし、人から褒められることばかり期待している限りは、自分のやりたいことはできません。周囲からの評価を得ることを目的にして仕事をしてしまうためです。

 また、人から批判されることを恐れてばかりいると、自分が正しいと思うことができません。他人が認めてくれるかどうかは、結果です。まさに先ほどお話した「コントロールできないこと」です。スポーツの世界であっても、勝ち負けは結果です。自分自身でできることは、自分が正しいと信じることを、精一杯やることだけです。それが、仕事では社会的ニーズに合致していれば、結果的にお客さんに喜んでもらえるでしょうし、スポーツであれば勝利という結果につながります。我々がやるべきことは、上司が満足するようなやり方で仕事をすることや、監督に指示されたからという理由で納得のいかない練習をこなすことではないのです。


 ここまで読んでいただいた方には、もしかすると私が言葉遊びをしているようにお感じになった人もいるかもしれません。しかし言葉というのは大切です。なぜなら理解するということは自分の言葉で表現できるようになることだからです。

 以前有名なプロレスラーが話していたことですが、彼は本を非常にたくさん読むそうです。その理由は、技術を磨きたいからとのことでした。たとえば痛いということにも、いろんな痛いがあります。力を入れるのにも、いろんな入れ方があります。その違いを説明できる言葉を持っていなければ失敗を繰り返すし、うまくいったことが再現できない。だから、ボキャブラリーを増やすために本を読んでいる、というわけです。

 言葉を変えると、自分の中での意味が変わってきます。たとえば、天気が悪いという表現がありますが、天気に良いも悪いもありません。自分がそう決めているだけです。
同じように、他人が発する言葉に、良い言葉も悪い言葉もありません。「意地悪だ」と感じているのはあなた自身です。

 我々は自分自身が意味づけした主観的な世界に生きています。自分で主観を変えることができれば、生きている世界ががらりと変わります。たとえば職場に人間的にも能力的にも認められない人がいるとしましょう。仕事はいい加減でミスするとごまかすなど、悪いところばかりです。あなたがそう思っていることに対して、こう疑ってみてはどうでしょう。「悪いところがあるから認められない」のではなく、「認めたくないから悪いところを探している」と。つまり、その人に対して最初から認めないと決めていて、その目的を達成するために悪いところを探し、良いところに目を向けないと。

●見方を変えるには目的を決めることから

 つまり、モノゴトに対する見方を変えてみてはどうでしょうか、ということです。では、どのように変えたらよいのでしょうか。それは、目的を決めることです。
原因に着目して「こうだから、こうなってしまう」のではなく、目的を決めて「こうしたいから、こうする」というロジックでモノゴトを考えるということです。
 
 たとえば「仕事がうまくいかないのは、通っていた学校が悪かったからだ」と考えている人がいるとしましょう。この人は今置かれた状況の原因を、自分の過去に求めています。仮にそうだったとしても過去には戻れません。

 しかし実は、一所懸命やっても結果が出なかったときに、傷つきたくないからという理由で、逃げ道を自分で用意しているというのが、本当のところだったりします。この人に必要なことは、「仕事で成功する」という目的を持つことです。そして、そうすると決めることです。そうすれば、そのためには今から何をすればよいかが明確になるのと同時に、過去のことは関係がなくなります。

 そう考えていくと、我々の行動は常に「自分がどうしたいか、自分がどうなりたいか」によって決まることになります。目的が達成できるかどうかは、それは結果ですからわかりませんが、そのためにとるべき行動ははっきりします。

 ソフトバンクグループ社長の孫正義さんは、20代の頃から「自分は豆腐屋をやりたい」と言っていたそうです。その意味するところは、1兆、2兆と数えられるビジネスがしたい、ということです。
実際現在の孫さんの会社の売上はグループ全体で9兆円を超えています。たまたま大きな目的を実現した人の話を例に出しましたが、目的の大小は関係ありません。目的によって行動が規定される、ということを私は言いたいのです。

 今回は「悩まない練習」というテーマでお話ししました。自分がコントロールできることに集中しコントロールできないことは無視する、他人から褒められたいという欲求を捨てる、モノゴトに対する見方を変える、過去にとらわれず目的を明確にする、という4点を実践することで、あなたが今抱えている悩みが解消するヒントになればと思っています。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

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