●韓国SNSを駆け巡った衝撃の「血まみれ少女」画像
頭から足まで身体中が血で染まった半裸の少女――。スプラッター映画さながらの画像が韓国のSNSを駆け巡ったのは、今年9月初めのことだ。
画像に写っていたのは、韓国・釜山市内のE中学校に通う女子中学生(14)。撮影したのは、釜山市内で別の学校に通う同じ年の女子中学生。画像の少女を全身血まみれになるまで暴行した主犯のひとりだ。
●約1時間半に渡り鉄パイプやレンガでリンチ
事件の発端は今年6月29日。女子中学生のグループ5人が被害者を呼び出し、カラオケボックスで暴行を加えた。原因は、加害者のボーイフレンドを巡る些細なトラブルだ。
全治2週間の傷を負った被害者は、加害者グループと連絡を絶って警察に被害届を出した。だが摘発には至らず、逆恨みした主犯格の2人が別の女子中学生3人を誘って報復を計画。9月1日の午後8時頃に被害者の知人を使っておびき出し、人気のない製材所近くに連れ出した。そして周囲にあった鉄パイプ、金槌、レンガ、椅子、ガラス瓶などで、約1時間半に渡りメッタ打ちにしたわけだ。
被害者は人相がわからないほど顔が腫れ上がり、後頭部の皮膚が2カ所ぱっくり裂けて血が噴き出すなどの重傷を負った。
●Facebookの投稿から一気に拡散、全国ニュースに
問題の画像は、主犯のひとりが先輩の男子生徒に自慢するつもりでFacebookメッセンジャーに送信したものだ。撮影された被害者は、下着姿で地面にひざまずいた状態。髪が血糊でべったり固まるほどの夥しい出血で、手足まで真っ赤になっている。
男子生徒がこの画像をFacebookの地元コミュニティに投稿すると、衝撃を受けた閲覧者たちによって瞬く間に拡散。9月3日には大手メディアが一斉に報じる全国ニュースとなった。
犯行の様子はまた現場の防犯カメラにも記録されている。防犯カメラの所有者からテレビ局にその映像が提供され、一部がボカシつきで放送された。
●7時間に及ぶリンチをSNSでライブ中継
この凄惨な犯行に、韓国社会で怒りの声が渦巻いたのはいうまでもない。だが釜山の事件は始まりにすぎなかった。これを契機に、韓国全土で女子中高生らの血なまぐさいリンチ事件が次々に吹き出したのだ。
最初に浮上したのは、今年7月に起きた韓国東北部・江陵市の事件。
加害者は15~17歳の女子高生及び無職少女。深夜3時から7時間にわたって暴行を続け、その様子をSNSでライブ中継までしている。
●相次いで発覚する中高生の集団リンチ事件
9月6日にはまた、今年5月に韓国中西部・牙山市で起きた女子中学生リンチ事件が報道された。すでに加害者の女子高生2人(いずれも16)が起訴されていたが、暴行に加えて援助交際を強要するなど凶悪な犯行が人々に衝撃を与えている。
7日にはソウル市の女性が、「中1の娘が7月に集団リンチされ全治3週間のケガを負わされた」とSNSで告発。加害者8人は、みな被害者と同学年の女子中学生だ。続いて9日には韓国中西部・大田市で13歳少女が女子中学生4人に暴行され、全治2週間と診断された。
12日には牙山市に隣接する天安市で14歳の女子中学生同士のリンチ事件が発生。被害者が警察に通報すると、加害者2人は報復として暴行を撮影した動画をSNSで拡散している。
27日には韓国南西部・光州市の女性が、「中学3年生の妹が女子中高生らにリンチされた」とFacebookで告発。
●バラバラ殺人からAIDS感染まで止めどころない青少年問題
イジメ、集団リンチ、援助交際の強要――。韓国の文科省にあたる教育部によると、校内暴力は2017年まで6年連続で減少したという。
しかし被害申告に応じて各校に設置される「学校暴力対策自治委員会」の審議件数は、一貫して増加中。16年は前年比15.4%増となっており、教育部による調査方法の見直しまで議論されているほどだ。
もちろん男子の犯行も起きているが、今年に入って特に少女絡みの事件が際立っている。3月には犯行当時16歳だった無職少女が、これといった動機もないまま8歳の女子小学生を衝動的に殺害する事件も起きた。遺体をバラバラにして遺棄、一部を知人に渡すといった猟奇的な犯行が、人々を震え上がらせている。
また10月には女子中学生が援助交際でAIDSに感染していたことが報じられ、社会に衝撃を与えた。現在16歳の少女は、中3だった昨年8月から斡旋グループを通じて援助交際を開始。1回あたり15万~20万ウォン(1万5000~2万円)で約4カ月間続けたが、昨年末から泌尿器科の治療を受け始めた。そして今年5月、血液検査によってHIV陽性と診断されたという。
●「少年法廃止」を求めて湧き上がる世論
集団リンチ事件が新たに発覚するたび、SNSでは加害者の個人情報が即座に出回る。釜山の事件でも加害者たちの自宅に「死ね」「自殺しろ」といった電話が殺到し、警察が周辺をパトロールする事態に至った。
一連の事件ではまた、警察をはじめ行政の不手際も叩かれている。釜山市、江陵市、天安市のケースでは事件後すぐ警察に通報があったにもかかわらず、メディアで騒がれてからようやく本格的に捜査を始めた形だ。女子中学生のAIDS感染も学校が警察や教育委員会に報告せず、捜査が遅れて感染源の特定が困難になった。
少年法もやはり激しい集中砲火の的だ。韓国も14歳未満は刑事処罰の対象外、18歳未満は懲役の上限が15年ないし20年に制限される。だがその改正を飛び越して廃止を求める請願に、40万人近い市民の賛成が寄せられた。問題を取り上げる報道でも「厳罰化はやむなし」の論調が優勢だ。
●「公憤」にかられる世論と「厳罰化」の行方
こうした激しい世論に押されてかどうか、司法の対応も厳しい。釜山の事件では14歳少女3人のうち2人を逮捕、1人を書類送検。江陵では15歳と17歳の少女を逮捕。
「公憤」にかられ、非行少年少女への処罰強化を求める韓国の世論。一方で「他人への共感が著しく欠けている」ことを事件の背景とし、保護者に対する教育が必要と説く専門家もいる。日本でも取り沙汰される少年犯罪への「厳罰化」が対策になるのかどうか、隣国の動向に注視したい。
(文=高月靖/ジャーナリスト)