横浜市都筑区のマンション「パークシティLaLa横浜」4棟のうち1棟が基礎部分の杭の施工不良で傾いた問題で、事業主の三井不動産の子会社、三井不動産レジデンシャルは、施工に関わった3社に責任があるとして、総額459億円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。被告は施工主の三井住友建設、1次下請けの日立テクノロジーズ、2次下請けの旭化成建材の3社である。



 三井不動産側は、建て替え費用に加えて工事期間中の住民の仮住まいなど、経費の全額負担を3社に求めてきた。だが、双方の意見の溝が埋まらなかったため訴訟に踏み切った。

 同マンションは2007年に全705戸が完成した。15年秋に傾斜していることが明らかになり、三井側が全棟の建て替えを提案した。マンションの管理組合は16年9月、傾いていない3棟を含む全4棟の建て替えを正式に決定した。

 これに伴い、三井不動産は費用総額を算定。建て替えなどにかかる費用を総額390億円と試算。将来的に支払い義務が発生する恐れがある「偶発債務」として決算添付資料に注記した。慰謝料として支払い済みの21億円など390億円のうち、すでに発生した一部費用について、16年4~9月期から貸借対照表の流動資産に計上した。

 マンションの区分所有者でつくる建て替え組合は17年5月、傾いた西棟を含む全4棟の解体を始めた。18年春までに解体を終え、ほぼ同じ設計で建て直す。20年11月の完成を予定している。
事業費の内訳は解体費36億円、建設費264億円など総額310億円となる。

 建て替えは、事業主である三井不動産レジデンシャルと三井住友建設が引き続き行い、杭打ちは旭化成建材とは別の業者に発注。傾斜マンションの解体が始まったことで、費用分担の交渉に移った。三井不動産は、建て替えなどの費用を当初390億円と試算していたが、459億円に膨らんだ。

 いったん三井不動産が全額負担し、その後、施工者である三井住友建設や日立テクノロジーズ、旭化成建材に全額請求する。しかし、どう分担するかで折り合いがつかず、裁判に持ち込まれた。

 日立テクノロジーズ(日立製作所が51.6%出資する子会社)は17年12月21日、「争う」との方針を公表した。裁判が長期化することは避けられないだろう。

 杭打ち問題では、16年3月期決算で三井住友建設が21億円、旭化成建材の親会社の旭化成が20億円の特別損失を計上した。訴訟を受けて、18年3月期にどの程度の裁判費用を引当金として積むかが注目される。

●三井不動産の“手厚い”補償の是非が裁判の争点

 各社とも、横浜市に調査報告書を提出しているが、内容は非公開だ。裁判で、各社の主張が明らかになる。


 裁判の争点になるとみられているのが、三井不動産の破格の大盤振る舞いである。全棟の立て替え費用は310億円。これとは別に、住民に対して手厚い補償を用意した。

 建て替えが終わるまで一時的に住む住居の家賃保証は全額、肩代わりする。上限は1坪あたり1万2000円。26坪のマンションに住んでいる人なら31万2000円が支払われる。多くの住民が月30万円前後の家賃保証を得られることになるようだ。また、引っ越し代の実費に加え、諸経費として40万円。慰謝料は全戸一律300万円となっている。

 建て替え後については、売却を希望する場合は、三井不動産が新築の販売価格で買い取る。ほかに買い手を探したとしても、三井不動産がメンツをかけて建て直した“新築マンション”のため、購入時より高値で転売できる可能性もある。「三井不動産は札束で頬を叩いて住民との合意にこぎつけた」(関係者)といった皮肉な見方も出ている。


 当初390億円とした総費用は、459億円にまで膨らんだ。これを全額、施工3社で負担せよと迫っている。これに対して施工業者側は、「三井不動産が大盤振る舞いしたツケを回すな」と反発しているわけだ。三井不動産と施工3社との隔たりは、あまりにも大きい。

 裁判の結果次第だが、三井不動産がかなりの費用を自前で負担する可能性も出てくる。どんな判決が出るのか、注目したい。
(文=編集部)

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