「やくざの更生支援をする元やくざ」として知られる竹垣悟氏の初の著書『極道ぶっちゃけ話 「三つの山口組」と私』(イースト・プレス)が話題だ。
竹垣氏は、かつて四代目山口組・竹中正久組長、中野会・中野太郎会長、初代古川組・古川雅章という、山口組でも名だたる親分衆に仕えた後に引退、現在はやくざの更生を支援するNPO法人「五仁會」の代表を務める。
●北野武も驚いた、横山やすしとの“兄弟盃”秘話
――本書は2017年12月17日の発売直後に増刷が決定したそうで、まずはおめでとうございます。
竹垣悟氏(以下、竹垣) ありがとうございます。この本は以前からブログに綴ってきた内容を1冊にまとめたものですが、おかげさまでご好評をいただいています。これまでの人生で、本当にたくさんの俠(おとこ)たちに出会い、いろいろな経験をしてきたので、それらを本にすることは私の夢のひとつでもありました。
――登場人物はほぼ実名で、本当に“ぶっちゃけ”たお話が満載ですね。山口組の歴代の親分衆のエピソードはもちろん、亡くなった横山やすしさんとの兄弟盃の裏話なども、興味深く読みました。
竹垣 やすしさんとの盃については、前に「フライデー」(講談社)に書かれたことがあるので、ご存じの方も多いかもしれませんね。『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)に出演させていただいたご縁で北野武さんにも本をお送りしたんですが、やすしさんとの盃の経緯は初めて知ったそうで、とても驚いていらっしゃいました。
――武さんはやすしさんを敬愛していたことが知られています。
竹垣 葬儀にもいらしたらしいですね。やすしさんのような芸人も、もう出ないでしょう。
●本音はやめたい?哀れなやくざの末路
――竹垣さんは、以前から「やくざの更生を支援する元やくざ」として、『TVタックル』や『サンデー・ジャポン』(TBS系)などのメディアに登場されています。
竹垣 今はやくざがやくざらしく生きられる時代ではなくなりましたから、もうやめたらええんですよ。私は「やめたい」と思っているやくざを支援したいので、今の活動を続けています。
最近では、ほとんどのやくざが食っていくために任俠道を忘れて“暴力団員”に成り下がっています。覚醒剤を売ったりオレオレ詐欺をしたりしてまで会費(いわゆる「上納金」)を払うなんて、ホンマに情けない。
また、幹部たちも逮捕を怖れて安易に報復(かえし)をしないように若い者たちに厳命していると聞いています。やくざの基本はケンカですから、それはおかしいと思いますよ。
カネ集めに汲々として売られたケンカすら買えないのであれば、それはもうやくざではありません。だから、本音では「もうやめたい」と思っているやくざも実は多いんです。でも、簡単にはやめられない事情もあります。やめたところで生活できませんしね。
そんな者たちの力になりたくて、私はNPO法人を設立したのです。おかげさまで、たくさんの方からご賛同をいただいています。
――確かに、やくざをやめてもその後の生活は難しいですね。たとえば、「殺しの軍団」といわれた三代目山口組の直参・二代目柳川組の谷川康太郎親分の言葉として、「ガキの頃から不良で逮捕歴数回、学校はナラショー(奈良少年刑務所)や。手に技術はないし、土方やるほどの体力もない。保証人の資格にかなうような知りあいもない。国籍は韓国。あんたが仮に企業経営者としようか。そんなヤクネタ(厄介な存在)雇うてくれるか」というものが知られています。
竹垣 そんな人間ばっかりですからね。かつてはなんとか親分衆がまとめていましたが、今は社会がやくざの存在を認めないのですから、どうにもなりません。
しかし、これからは空前の人手不足時代がやってきます。建設業などの力仕事やクレーム対応などの用心棒的な仕事には、元やくざのニーズもあると思います。「親分」が、今度は「親方」となって現場を仕切ればいいんですよ。とはいえ、五仁會は小さな組織でカネもないのでできることは限られています。今後は公的な支援も求めていきたいと思っています。
一方で、元極道の私が「やくざをやめろ」とか「“暴力団”壊滅」と言っていることに対しては批判も聞こえてきますが、これは私の信念ですから曲げるわけにはいきません。
――「批判」といえば、2015年8月には竹垣さんの事務所兼ご自宅に銃弾が撃ち込まれています。
竹垣 あの夜は、私も自宅にいました。文句があれば、ガラス割り(カチコミ:かつては拳銃で事務所の玄関の代紋入りガラスを撃ったことから)なんかではなく、正々堂々と私のところに来ればいい。
ただ、私なんかのために懲役に行くのは、もったいないのではないでしょうか。今は重罰化が進んでいて、単なるガラス割りでもけっこう長い懲役に行かなければなりませんし、ヘタをすると殺人未遂になるかもしれません。仮に実行犯が組織の者であれば、トップにも責任が及ぶでしょう。
それに、昔は組に貢献した者にはそれなりの功労金が出たものですが、今はカネどころか出所する頃には組がなくなっている可能性もあります。昔の抗争事件で今もまだ長い懲役を務めている者はたくさんいますが、これからどうなるのか不安だと思いますよ。本当に、やくざの末路は哀れなんです。
トップであろうと枝(下部組織)の者であろうと、自分が殺されるか誰かを殺して長い懲役に行くか。あるいは、逮捕されなくてもカネがなくて生活保護を受ける者も少なくありません。「つまらない世界におったなぁ」と、私もやめてからわかりました。
●「山口組は大きくなりすぎた」
――今、やくざは窮地に追い込まれているということですね。本書でも触れられていますが、2011年秋までに全都道府県で暴力団排除条例が整備され、やくざは正業につけなくなり、銀行口座などもつくれなくなりました。六代目山口組・司忍組長は「異様な時代が来た」と新聞の取材に答えています。
竹垣 六代目が言う「異様な時代」とは、「やくざがやくざとして生きられない」という意味でしょうね。この取材で、司六代目は「幡随院長兵衛のような生き方」を目指すとも話しています。私もまったくの同意見です。
そもそも、山口組は大きくなりすぎました。長兵衛のように地元だけを守っていればよかったのですが、田岡三代目の頃から全国進出を続けて、ここまできました。今は直参になるにもカネがいるし、もう大企業と同じですね。以前であれば、大規模組織にも大規模なりのメリットがあったのでしょうが、恐竜と同じで、大きくなりすぎたものは滅びるのだと思います。
――分裂は、やはり大組織の弊害ということでしょうか。
竹垣 そうですね。この分裂は起こるべくして起こったものだと思います。以前から、いろいろなかたちで不満はたまっていたのでしょう。特に、直参だった後藤忠政さんの除籍は大きなきっかけになりました。
――2008年のことですね。この年の10月に後藤組長が主催したゴルフコンペに多数の大物歌手が参加していたことが報道され、山口組でも問題となったようです。
竹垣 二次団体ながら、地元の静岡県警には「後藤組壊滅対策本部」もありましたからね。報道で社会的に問題が大きくなったので、「定例会をさぼってコンペを開いた」として、山口組執行部が後藤さんを叱責したんです。
――叱責と除籍をめぐっては、山口組内部の反発は強かったようですね。「後藤の叔父貴への執行部の対処に我々は断固、抗議する」と題した執行部批判の文書がまかれ、処分者も出ています。
竹垣 その文書には、山口組の会費が高いことや本部から組員に対するミネラルウォーターの強制購入などについての不満も綴られていたと聞いています。実際には、それらだけでなくいろいろあったのでしょう。私は2005年に引退しているので後藤さんの除籍のときにはもうカタギだったのですが、いろいろな噂が聞こえてきたのを覚えています。
いずれにしろ、現在の分裂は突然起こったものではなく、主にカネの面での不満がたまった結果だと思います。
――今後、山口組はどうなるとお考えですか?
竹垣 山口組に限らず、やめるやくざは多いでしょうね。でも、「時間はかかったとしても山口組を元に戻そう」という動きもあるようです。確かに時間はかかるでしょうが、私もいずれはひとつになると思っています。本当に山口組のことを思うなら、まずは全員が任俠道について考え直すべきでしょう。
――ありがとうございました。
後編では、かつてやくざを志した経緯や現在のカタギとしての活動について、さらに竹垣氏の話をお伝えする。
(構成=越谷慶/ジャーナリスト)