国内市場が縮小するなか、製紙業界が再編に動いた。国内製紙最大手の王子ホールディングス(HD)は2月6日、第6位の三菱製紙に100億円、33%出資して、持ち分法適用会社にすると発表した。
王子HDは昨年9月末時点で三菱製紙株を2.3%保有しているが、これを33%まで高める。三菱製紙が実施する第三者割当増資を76億円で引き受け、23%の株式を取得するほか、三菱商事など三菱グループ企業5社から相対取引で三菱製紙株を買い取る。追加出資は2018年7月から19年12月末までに終える予定。
18年3月期の連結売上高の見通しは王子HDが1兆5000億円、三菱製紙は2010億円。合算すると1兆7010億円となり、第2位の日本製紙(1兆500億円)を突き放す。第三極の形成を目指していた第5位の北越紀州製紙(2750億円)、第三極の形成をめぐり北越紀州との対立を先鋭化させてきた第4位の大王製紙(5400億円)にも大差をつける。第三極構想は、北越紀州と大王の大喧嘩に愛想を尽かした三菱製紙が王子HDのもとへ走り、幻に終わった。
製紙業界は典型的な内需型産業で、電子媒体の増加やペーパーレス化の影響を受けて国内需要が減退してきた。王子HDと日本製紙の2強は、海外市場に活路を求める一方、国内では系列化を強めた。
王子HDは14年、ニュージーランドの紙パルプ会社を買収するなど、アジア・オセアニアで段ボールを中心に事業を広げた。国内では15年に国内7位の中越パルプ工業への出資比率を引き上げ、持ち分法適用会社にした。
日本製紙も13年、タイの製紙大手の植林・パルプ紙事業部門に出資した。16年には米林業大手から紙容器事業を買収。国内第8位の特種東海製紙と組み、段ボール原紙の販売と製造で2つの共同出資会社を設立した。
需要が好調な家庭紙を強化する動きが進む。大王製紙は日清紡ホールディングスの紙事業を買収した。
三菱製紙は王子HDと共同でティッシュなどの家庭紙工場を青森・八戸工場の敷地内に建設し、19年4月に稼働させる。木質燃料を燃やすバイオマス発電所も共同出資で19年に稼働させる予定だ。三菱製紙は増資で調達する資金を八戸工場の省エネルギー投資に充てる。
●北越紀州製紙が保有する大王製紙株の行方は?
製紙業界の再編は、北越紀州製紙、大王製紙、三菱製紙によって第三極が結成されるかどうかが焦点だった。その影の主役は三菱商事だ。
06年7月、王子製紙(当時)が北越製紙(同)に対する株式公開買い付け(TOB)を仕掛けた。
11年、大王製紙の創業家出身の井川意高会長(当時)による背任事件が発覚。意高会長はカジノに会社のカネを流用していた。この事件を機に、大王製紙の経営陣は“脱創業家”に舵を切り、意高氏の父親で家庭用紙「エリエール」の生みの親である井川高雄・最高顧問(同)と対立。高雄氏はカジノ狂いの息子が使い込んだカネを、大王製紙株式を売却して尻拭いした。
12年、北越紀州製紙は創業家が保有する株式を買い取り、大王製紙の筆頭株主となった。06年、北越製紙が王子製紙から買収を仕掛けられたときに高雄氏が支援してくれたことに対して、北越紀州製紙の岸本晳夫社長は恩義を感じていたのだ。
北越紀州製紙は大王製紙と経営統合して、王子HDや日本製紙に続く業界の第三極を形成したいとの思惑があった。その背後には三菱商事が控えていた。三菱商事は北越紀州製紙の17.5%(17年9月末)を保有する筆頭株主で、三菱グループの三菱製紙には2.6%を出資(同)。さらに、北越紀州製紙は大王製紙の21.2%(同)を握る筆頭株主だ。
しかし、大王製紙の経営陣は、これを拒否した。格下の北越紀州製紙の軍門に降るつもりはなかった。こうしたことから、北越紀州製紙と大王製紙の対立は延々と続いた。15年には、北越紀州製紙と三菱製紙の販売子会社統合協議が破談。北越紀州製紙は「大王製紙が横槍を入れた」と主張した。両社の抗争にあきれた三菱製紙は、第三極構想から離脱していった。
大王製紙は北越紀州製紙に三行半を突き付け、17年11月14日には両社の技術提携期限が切れた。今後の焦点は、北越紀州製紙が保有している21.2%の大王製紙株式を、いつ、どこに売却するかだ。大王製紙が自社株を買い取るのか。北越紀州製紙が投資ファンドに売却するのか。
王子HDの1強体制が強まるなか、第2位の日本製紙はどう動くのかも見どころだ。
(文=編集部)