イオングループのコンビニエンスストア「ミニストップ」が、今年1月から全2263店舗(1月末現在)で成人向け雑誌の取り扱いを中止した。昨年11月、この方針が発表されると賛否両論が飛び交うなど、もはや社会インフラの一部ともいえるコンビニ大手の判断が大きな波紋を呼んだ。



 成人誌の取り扱い中止は、ミニストップがビジョンとして掲げる「もっと便利、もっと健康、もっと感動、毎日行きたくなる店舗」にどのような影響を与えるのか。商品本部長の中山博之執行役員に話を聞いた。

●異例の反響…約8割が賛成、約1割の反対は男性から

――成人誌の取り扱い中止については「英断」との見方もあります。具体的な概要について教えてください。

中山博之氏(以下、中山) 2017年12月1日より千葉県千葉市内の全店で成人誌の取り扱いを中止し、18年1月1日より全店舗で同様の措置を取っています。

 日本の総人口が減少に転じるなか、女性がコンビニエンスストアを利用する機会が増えてきています。ミニストップもスイーツをはじめ、中食・内食商品の強化や「WAON POINTカード」の導入などを通じて、女性にとっても、より利便性の高いコンビニエンスストアへの進化を図っています。

 これらの取り組みの一環として、かねて成人誌の陳列対策に取り組んでいた千葉市からの働きかけをきっかけに、全店舗で取り扱いを中止する判断をいたしました。

――判断に至る経緯について、あらためて教えてください。

中山 まず、それまで区分陳列してきた成人誌について、千葉市から17年5月に「フィルムで包み、扇情的な表紙を見えなくする方法で販売してもらえないか」という打診が、ミニストップだけではなく各コンビニエンスストアチェーンにありました。

 家族連れにとっては成人誌が子どもの目に届く場所にあるということがストレスになります。一方で、加盟店にとっては成人誌を1冊ずつ目隠し袋に入れる作業は大きな負担となります。
そうした事情を総合的に考慮した結果、今後の経営方針として「女性や子どもを含むお客さまの誰もが安心してご利用いただける店舗を実現するため」に全店取り扱い中止に至りました。

――中止の発表後、どのような意見が寄せられましたか。

中山 今回の発表については多くの意見が寄せられました。うち約8割が賛成であり、約1割が男性からの反対でした。多くのお問い合わせをいただきましたが、これはきわめて異例なことです。

――成人誌を制作する会社や関係者などからは、何か意見がありましたか。

中山 直接は聞いていません。しかし、内々に「成人誌は扇情的な表紙で勝負するのがビジネスモデルだったが、あまり過激になると、ほかでも取り扱い中止になる可能性がある。そのため、表紙は水着程度にとどめたほうがいいのかな」という関係者からの声を聞いたことはあります。

●成人誌の販売中止、売り上げへの影響は?

――先進国である日本のコンビニで、子どもの目の届くところに成人誌が置かれている状況を「異常」とする声もあります。

中山 町の書店が少なくなり、一方でコンビニエンスストアが増え、本を買う場所が少なくなったことでコンビニエンスストアも多くの雑誌や本を取り扱うことになり、「本の購入場所」としての地位を確立した歴史があります。そのような時代の流れのなかで、成人誌の取り扱いも始まっています。


 私見ですが、韓国に4年ほど勤務した経験があるので、確かに現在の状況については海外ではあり得ないと思います。書籍については、最近はウェブでの購入が増えている一方で、リアル店舗はウェブに不慣れな高齢者向けの販売チャネルとして存在しています。おそらく、今後も大なり小なりそうした役割は残るのではないでしょうか。

――今回取り扱いを中止した成人誌の定義と、ほかの雑誌への影響についてはいかがでしょうか。

中山 成人誌の定義は日本フランチャイズチェーン協会の自主基準に基づいています。各都道府県の指定図書類および出版倫理協議会の表示図書類は取り扱いません。それ以外の雑誌については、各都道府県青少年保護育成条例で定められた未成年者(18歳未満者)への販売・閲覧などの禁止に該当する雑誌およびそれらに類似する雑誌類を「成人誌」と定義しています。この範囲を拡大するか否かは、まだ決定していません。

――成人誌の取り扱い中止による販売面への影響はありますか。

中山 金額ベースでの影響は軽微です。また、加盟店からの賛同も得られており、反対の声もいただいておりません。加盟店の従業員には女性や外国人の方々もいます。
その方々から、「成人誌の取り扱いは非常にストレスがたまる」という声が上がっていました。

 雑誌類は夜間に納品されますが、今は夜勤の従業員にも女性が増えているため「並べるのが嫌だった」という声もありました。また、成人誌を購入するお客さまのなかには女性従業員の反応を見ることを趣旨としているケースもあり、それらが女性従業員のストレスにつながっていました。

 また、元従業員の方からも「本音を言えば、成人誌の取り扱いは大きなストレスだった」という声をいただいています。そのため、今回の措置は従業員の定着率向上にも寄与するものと感じています。

●全体の約15%が以前から成人誌を未販売

――以前から、オーナーの判断で成人誌を取り扱っていないケースはありましたね。

中山 学校が近辺にある店舗では成人誌を置いていないケースがあり、従来から取り扱っていなかった店舗は全体の約15%ほどです。これは他チェーンのコンビニエンスストアも同様のようで、立地によって自主規制を行っているケースはありました。

――成人誌を取り扱わないということで、新たな商材の開拓も必要ですが。

中山 代替の商材に関しては、今まで納品していなかった銘柄や新たなジャンルの配本を進めています。また、コンビニエンスストアの販売事情は立地によって異なるため、個店の強みに合わせた配本を強化しています。

 たとえば、シニア層が多いエリアでは囲碁や釣り雑誌の売り上げが多く、一概に「成人誌の代わりに女性誌を増やせばいい」というものでもありません。
本部から売れ筋の客観的なデータを提供し、加盟店からは「この層のお客さんが多い」という声をいただくなど、双方向でやりとりしています。

――女性誌では「付録つき」が人気です。この拡大というのは検討していますか。

中山 付録つきの女性誌は確かに人気です。実は出版社と共同で取り組みを検討中ですが、現段階では具体的なことを申し上げることはできません。以前には、旅行誌と共同キャンペーンを展開した例もあります。

――17年は訪日外国人数が過去最高を記録しました。また、東京オリンピックが開かれる20年には4000万人が目標とされています。何か対策は講じていますか。

中山 外国人のお客さまには抹茶が人気です。インバウンド戦略として、訪日外国人向けの商材開発を検討しているほか、外国人のお客さまがストレスを感じないような店舗づくりを目指しています。ちなみに、外国人従業員も増えてきており、多言語化も進展するなかでITの活用も必須になるため、現在取り組みを進めています。

(構成=長井雄一朗/ライター)

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