積水ハウスは2月1日、2トップがダブル辞任した。

 仲井嘉浩取締役常務執行役員が社長に昇格する。

阿部俊則社長は会長となり、和田勇会長兼最高経営責任者(CEO)は取締役相談役に退き、4月の株主総会後に取締役を降りる。

 実は、和田会長は解任だった。後述する詐欺事件の責任を会長と社長が押し付け合い、取締役会の動議合戦で社長が勝利。その結果、会長を放逐したというのだ。会員制情報誌「FACTA」(ファクタ出版/3月号)がその情報をすっぱ抜き、2月20日付日本経済新聞が後追いして報じた。さらに朝日新聞は2月22日付記事で、取締役会での会長、社長の攻防を報じ、日経新聞の報道を事実上、一部修正した。

 社長交代は2008年4月、阿部氏が社長に就任して以来、10年ぶりのことだ。仲井氏は阿部氏が経営企画部長時代から一緒に仕事をしてきた腹心で、阿部氏は「若い力に期待する」と述べている。

今回の人事のポイントは、積水ハウスの“ドン”といわれた和田氏が完全に引退することだ。和田氏が社長に就いたのは1998年。以来、社長、会長と歴任して経営の中枢を担ってきた。最近は海外の事業拡大の先頭に立ち、トップ外交を繰り広げていた。


 1月25日付日経新聞が、1月24日の社長交代の記者会見をこう報じた。

「和田氏は最高経営責任者(CEO)を兼務しているが、今回の会見には出席しなかった。阿部俊則社長は『ほとんど(の業務を社長が)やっている』と話し、半年前に仲井嘉浩取締役常務執行役員に社長就任を打診したのも自分だと明かした」

 CEOである和田氏が社長交代の会見に出ず、さらに次期社長を決めたのは自分だと、わざわざ阿部氏が発言したのは極めて異例だった。

 2月20日付日経新聞は「和田相談役は『阿部俊則会長(当時は社長)による解任だった』と主張した」と報じている。さらに、1月24日の取締役会で「詐欺事件」の調査対策委員会の最終報告書が提示され、和田氏は「阿部氏の責任が重いと記されていた」と暴露している。

「これを受けて、取締役会で議長として(和田氏が)阿部社長の退任を求めた。『取締役会前にあった人事・報酬委員会では阿部氏の退任に対し、阿部氏を除く会員が賛成した』(和田氏)」(日経新聞記事より)

「阿部氏の退任動議は5対5の賛否同数で流れた。次に阿部氏から私の解任を求める緊急動議が出た。6対4で動議は可決」(同)

 日経新聞紙上で和田氏は、「事件師に引っかかった自分たち(=阿部)の責任を消すためにクーデターを起こしたという感じだ」と、悔しさを滲ませる。

 それに対し、朝日新聞はこう書いている。

「(議長役の和田氏が阿部氏の退任を採決にかけた)。当事者の阿部氏を除く10人で採決し、5対5の賛否同数で成立しなかった。
今度は阿部氏が、経営方針の違いなどを理由に、議長役を稲垣士郎副社長(当時、67)に代わることを提案。6対5の賛成多数で通り、続いて和田氏解任の緊急動議が出された。和田氏を除いて採決すれば、6対4で可決する情勢だったため、議長の稲垣氏が和田氏に『自分から辞めたらどうですか』などと数回話しかけ、判断を求めた。和田氏は自ら辞任すると表明したという」

 さらに、和田氏は「議長から言われ、どうしようもなくなった」と暴露している。

「FACTA」は「詐欺問題の責任を押し付け合い、昨年末から積水ハウスの取締役会が揉めるようになり、直近の取締役会では『和田氏と阿部氏がそれぞれ<弁護士を立てて争う>と怒鳴り合うほどの大荒れだった』と住宅メーカー関係者は打ち明ける」と、“奥の院”のトップ激突を明らかにしている。

 日経新聞で和田氏は「(1月24日に)記者会見することも知らなかった。(中略)人事権はCEOにあるので、半年前に阿部氏が仲井嘉浩氏に(社長就任を)打診したなどあり得ない」と自分が出席しなかった社長交代の記者会見での出席者の発言を、きっぱり否定した。

 こうなっては、“企業統治”の4文字は吹っ飛んでしまう。積水ハウスのガバナンスはどうなっているのかとの疑問が湧いてくる。

 積水ハウスは2月20日、「(和田氏は)本人の意思で辞任し、世代交代した。解任という事実はない」とホームページに掲載した。取締役会の中身は「開示の義務がない」との立場だ。


●63億円の詐欺被害

 積水ハウスは2017年8月2日、「分譲マンション用地の購入に関する取引事故」について、驚愕の発表を行った。所有者になりすまし、土地を売買する“地面師グループ”の男女数人に63億円を騙し取られたというものだ。

 同社によると、問題となったのは東京都品川区西五反田2丁目の広さ2000平方メートルの土地。17年4月24日、所有者とされる人物と購入する契約を結んだ。6月1日、70億円のうち手付金を含め63億円を支払い、分譲マンション用地として購入した。法務局に所有権の移転登記を申請したところ、所有者と称する人物から提出された書類が偽造と判明し、6月9日に却下された。それ以降、所有者と名乗る人物とは連絡が取れなくなった。

 積水ハウスが手に入れたはずの土地はJR山手線五反田駅近くの、廃業していた「海喜館」という名の元旅館。旅館の所有者はA氏だが、本人が知らない間に本人確認用の印鑑登録証明やパスポートが偽造され、それを利用した“なりすまし犯”の女が63億円を受け取っていた。

 積水ハウスは不動産にかかわる詐欺事件として警視庁に告訴状を提出した。今のところ“なりすまし犯”が逮捕されたという報道はないことから、警視庁は黒幕を含め、地面師グループの一網打尽を狙っているとみられる。

 これは典型的な地面師事件である。
地面師とは、所有者になりすまして土地を無断で売買し、代金を騙し取る詐欺師のことだ。グループは標的となる土地を探す役や所有者になりすます役、偽造書類を作成する役などで構成される。

 地価高騰に沸いたバブルの時代には地面師が横行していた。バブル崩壊後は下火になっていたが、ここに来て土地取引の増加と共に再び暗躍が目立ち、不動産取引のプロでも見抜けないほど地面師の手口は巧妙化してきている。

 不動産会社やゼネコンのベテラン社員は、バブルの時に、この手の連中に騙されて火傷をした苦い経験から、あやしい取引には勘が働くものだが、世代が替わったことも地面師に手玉に取られる一因になったようだ。

 積水ハウスは、17年2~7月期連結決算で、支払った土地代金63億円から、土地所有者と称した人物からの預り金を相殺し、55億5900万円を特別損失として計上した。

 経営責任を取り、和田勇会長、阿部俊則社長は10月から2カ月、減俸20%。ほかの取締役を減俸10%とする処分を下した。

 だが、これにて一件落着とはならなかった。出処進退を明確にして、ケジメをつけなければならなくなり、会長vs.社長の壮絶なバトルに発展し、和田会長が事実上、解任された。

 積水ハウスの18年1月期の連結決算(本決算)は、売上高が前期比5.8%増の2兆1440億円と過去最高になる見込み。17年2月、533億円で買収した米国の住宅会社、ウッドサイドホームズカンパニー(ユタ州)を連結対象会社にしたことが寄与した。
国際事業の売り上げは同65%増の3000億円、営業利益は20%増の300億円になる。M&A(合併・買収)は成功したといっていいだろう。

 その結果、全体の営業利益は4.3%増の1920億円、当期利益も5.0%増の1280億円。マンション用地の詐欺事件に絡んで特別損失を計上したが、それを補って増益となる。

 記者会見で述べられた「若手に道を譲る勇退」という趣旨の会長・社長交代の大義名分はなんだったのか。

 この問題の火付け役の「FACTA」は、和田氏を「老害」と断じている。積水ハウスは内紛のDNAを持つ会社だ。今回、そのDNAがまたしても爆発した。

 一方、日経新聞は和田氏のインタビューを掲載しつつ、「一方の当事者である阿部氏は2月19日までに時間が取れないという理由で取材に応じなかった」としている。

 さらに朝日新聞は「(和田氏は)『阿部氏は辞めるべきだった』とも語る。別の関係者は『(阿部氏は)説明から逃げ回り、上場企業として失格』と批判する」と明かしている。
(文=編集部)

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