コンビニエンスストアの倒産が増えている。東京商工リサーチの調査によると、2017年の倒産件数は51件(前年比24.3%増)で5年連続で前年を上回った。
2万店を突破したセブン-イレブンをはじめ、ファミリーマートやローソンなどがしのぎを削るコンビニ業界だが、倒産、休廃業・解散の増加は何を意味するのか。東京商工リサーチ情報本部情報部の谷澤暁課長は、「コンビニ全体の売上高は増加しているが、既存店の売上高と来客数は減少しているのが原因」と分析する。コンビニ業界の死角は、どこにあるのだろうか。
●「もう飽和状態」…既存店の悲鳴
日本フランチャイズチェーン協会の統計調査によると、コンビニ主要8社の店舗数は14年に初めて5万店を突破し、16年12月の時点で5万3628店を数える。売上高も16年は前年比2.9%増で、スーパーマーケット(前年比3.0%増、日本スーパーマーケット協会ほか調べ)や百貨店(同3.2%減、日本百貨店協会調べ)と比べても堅調に推移しているといっていい。
では、なぜ成長産業の雄であるコンビニの倒産が増加しているのか。谷澤氏は「同業他社の競合が増え、生存競争が厳しくなっていることに尽きる」と分析する。17年の大手チェーン全体の売り上げは約2%伸びてはいるものの、既存店の売上高と来客数は減少したという。
「コンビニの客単価は年々増えており、17年には過去最高を記録しました。特に売り上げが伸びているのはPB(プライベートブランド)の総菜、お弁当やサラダなどで、それらが客単価を押し上げています。
また、セブンが採り入れている「ドミナント戦略」も既存店が打撃を受ける要因だという。ドミナント戦略とは、チェーンストアがひとつの地域に集中して出店する戦略のことを指す。
これには、地域での認知度や配送効率が向上することに加え、ファンが増えるというメリットがあるが、市場を食い合うため1店舗当たりの売り上げが減少するデメリットもあるといわれる。実際、既存店の売上高減少の理由のひとつが「パイの食い合い」(同)だという。
そこで、ドミナント戦略が採られている地域の既存店を取材すると、「この地域では、もうコンビニは飽和状態。近隣地域に店舗が出店されると、売り上げは確実に下がります。しかも、近隣のドラッグストアも弁当などの販売を開始したため、今年は厳しいといわざるを得ない」という反応が返ってきた。
逆に、新たに出店する側の店舗は強気だ。
「この地域には、ひとり暮らしとお年寄りが多い。そのため、単品の食材を揃えて雑誌なども高齢者向けの商品を置くのがベスト。既存店との棲み分けは十分可能」(新規に出店するコンビニのオーナー)
また、加盟店のオーナーに経営コンサルティングを行うOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー/店舗経営相談員)も同様の意見だ。
「まず行うのは、地域の居住者を細かく分析すること。若者が多い地域と高齢者が多い地域とでは、販売戦略が変わるのは当然のこと」(OFC)
弱気の既存店と強気の新規店――今、コンビニ業界ではそんな構図があるようだ。
「16年と比較して、17年の既存店の売上高は0.3%ほど減少しています」(谷澤氏)
倒産の原因別では、「販売不振」の44件(前年比29.4%増、前年34件)が最多で全体の86.2%を占めている。次いで、「既往のシワ寄せ」(赤字累積)が4件(同33.3%増、同3件)となっており、それらを合わせた「不況型倒産」は48件(構成比94.1%)で9割を超えている。
●人手不足でオーナーが無休で働く
また、一方では、ディスカウントストアやインターネット通販など低価格で成長している他業態との競争も厳しさを増している。重量のある飲料水などは、アマゾンや楽天などのネット通販で購入するケースが増えているのだ。
「コンビニで買い物するときは、新商品が目当て。アベノミクスで株価上昇とはいえ、財布の紐がゆるんだとはいえず、お茶や酒は業務用スーパーや通販でまとめ買いしたほうが安く済む」(40代男性)
「消費者の実感として、コンビニの価格は安くありません。安さを求めるのであれば、ほかの業態を選ぶのは自然なことです。便利なので1日1回はコンビニに足を運ぶとしても、近隣にディスカウントストアや業務用スーパーがあれば、まとめ買いなどはそちらになるのではないでしょうか」(谷澤氏)
このような状況に加えて、人手不足とそれに伴う人件費上昇も追い打ちをかけている。高いブランド力や消費者の購買動向を反映したマーケティング戦略に長けた大手コンビニのフランチャイズチェーン(FC)加盟店でも倒産や休廃業・解散が増加しており、経営環境は厳しい。
あるコンビニのFCオーナーは言う。
「夕方になれば高校生がシフトに入るので、なんとかなります。昼間も主婦がいるので回せます。問題は深夜と早朝。その時間帯はオーナーやその家族がシフトに入ることが多い。それでも不足する場合は、派遣の人が入ります」(コンビニのFCオーナー)
ただし、派遣社員は単価が高いため、売り上げが減少するなかではあまり使いたくないのが本音だという。人手不足でパート・アルバイトの確保も厳しさを増しており、「簡単に時給を上げることはできないため、知り合いなどを通じて誰か来てほしい」(同)と切実な思いを吐露する。このオーナーは、縁故もいとわない方向で採用活動を進めているという。
同業他社に加え、ディスカウントストア、業務用スーパー、ネット通販など、既存店にとっては脅威が増している。本部としては、次々と新規店をオープンすることで成長をアピールできるが、既存店のオーナーにとっては厳しい局面が続く。
「脱サラしてコンビニに参入する方が多いですが、経営はそれほど簡単ではないということでしょう。学生はコンビニ以外のバイトを選ぶことも多く、シフトは外国人頼みになるということも多いです。また、オーナーが休む暇もなく働くという例もよく聞きます」(谷澤氏)
●ファミマは24時間営業を見直しへ
近年、コンビニをめぐる話題で評判が悪いのが、恵方巻きやクリスマスケーキなど季節商品の販売だ。
「本部は『ノルマなどはない』と言っていますが、ある程度の目標はあるのでしょう。これらの商品は、売れ残ればオーナーの負担になります。オーナーは、その仕組みのなかでしのぐしかないのです」(同)
一方で、新しい動きもある。17年10月には、ファミリーマートが24時間営業の見直しに着手することが報道された。これは、コンビニ業界のビジネスモデルを転換し得る動きとして注目される。しかし、セブンはこの流れには追従せず、あくまで24時間営業を貫く方針だ。
売り上げ不振や人手不足などに襲われるコンビニ。今後、新規出店にはブレーキがかかるのだろうか。谷澤氏は、懐疑的な見方を示す。
「コンビニは、まだまだ増えていくのではないでしょうか。本部としては、出店すればロイヤリティを確保できます。
合従連衡が進んでいるのも、コンビニ業界の特徴だ。ファミリーマートとサークルK・サンクスの統合、ローソンとポプラの提携、スリーエフはコンビニ事業の一部を分社化してローソンと共同運営する。2万店を突破した1強のセブンをファミリーマートとローソンが追走するというのが、大きな流れだ。
「ブランド力をまとめたほうがコスト的にもメリットが大きいので、合従連衡は自然の流れだったのでしょう。消費者の動向を考えると、コンビニ離れは考えにくい。売るモノがなくなるよりも、売るヒトがいなくなることが問題でしょう」(同)
膨張を続けるコンビニ業界だが、これからは負の側面も浮き彫りになってくるのかもしれない。
(文=長井雄一朗/ライター)