2017年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にも選ばれた「インスタ映え」。若者はインスタ映えのために消費活動を活発化させ、各企業は商品開発やプロモーションにインスタ映えを取り入れる。
それは食品業界も例外ではない。たとえば、大手食品メーカーのキユーピーが飼料会社と共同で開発した黄身が白い卵「ピュアホワイト(R)」は、まさにインスタ映えを意識したヒット商品だ。これは、なぜ生まれたのか。キユーピーの広報担当者に開発秘話を聞いた。
●インスタジェニックな「白いオムレツ」
マヨネーズでおなじみのキユーピーが飼料会社と共同で開発したピュアホワイト(R)に使用される原材料は、見た目は普通の卵となんら変わりがない。しかし、殻を割ると、黄身が通常の卵よりも淡い色味をしていて、加熱すると淡い黄色が真っ白に変わる。
つまり、これを使ってオムレツなどの卵料理をつくれば、「オムレツなのに真っ白」という、なんともインスタジェニックな仕上がりになるのだ。
「ピュアホワイト(R)は、色は白くても、栄養価や食味は普通の卵とほとんど変わりません。初めて食べる方は『全卵だとは思わなかった』と驚かれますね」。そう話すのは、キユーピー広報部の森田里佳さんだ。
インスタ映えするのは、オムレツや卵焼きなどの卵料理だけではなく、卵を材料に使うスイーツも同様だ。
そもそも、森田さんによれば、ピュアホワイト(R)が誕生したきっかけ自体がスイーツなのだという。
「これまでは、白いアイテムをつくろうと思ったら卵白だけでつくらなければならず、味わいが変わってしまうという難点がありました。そこで『全卵を使っても色味がつかない卵をつくりたい』と考えて開発したのが、ピュアホワイト(R)です」(森田さん)
卵の黄身の色は、鶏が食べる飼料に関係している。たとえば、日本では昔からトウモロコシを鶏の飼料の主原料としており、このトウモロコシに含まれるキサントフィルというカロテノイド色素が、黄身を黄色くしている要素のひとつである。
養鶏場のなかには、黄身をより鮮やかな黄色にするために、黄色いパプリカの色素を混ぜた飼料を使うところもあるという。
「ピュアホワイト(R)は、鶏の餌の主原料をイネ科の穀物であるマイロや小麦など、黄色い色素の少ないものにすることで、黄身の色味を抑えています。加熱すると白くなるのは、残っている黄色の色素が退色するため。何か特殊なことをしているわけではないので、食味も従来の卵とほとんど変わりません」(同)
とはいえ、ピュアホワイト(R)を使った白い卵料理を初めて口にした人は、誰もが驚くに違いない。味自体は普通の卵なのだが、見た目が白いので、何か別の食材のように感じてしまうのだ。
スクランブルエッグにしたピュアホワイト(R)を見て、豆腐やとろろと勘違いする人も多いという。見た目の美しさだけではなく、「卵の黄身=黄色い」という常識を覆した意外性こそ、インスタユーザーに注目されるゆえんだろう。
●老舗洋食店が「純白のオムライス」をメニューに
実際、この黄身が白い卵はテレビや雑誌などメディアの注目を浴び、外食チェーンのリン・クルーが展開する老舗洋食店「Kitchen Omiya」が「純白のオムライス」をメニューに取り入れた際には問い合わせが殺到したという。
「ホテルの朝食ビュッフェにも白いスクランブルエッグが並ぶことがあるのですが、写真を撮られる方が大勢いらっしゃいます。ピュアホワイト(R)が食べられるお店は全国にいくつもあり、『白いオムレツ』などで検索してヒットする場合は、ピュアホワイトを使っていただいているかもしれません」(同)
ただし、ピュアホワイト(R)は今のところ業務用で凍結卵として販売されているため、食べられるのはホテルのレストランや街の飲食店などに限られる。一般家庭向けには、まだ販売されていないのだ。
「食べ物はトレンドが浸透するまで時間がかかります。当面はホテルなどへの供給をさらに増やして、多くの方に認知されることを目指します。その上で、ゆくゆくはご家庭に届けることを視野に入れてブランディングしていく予定です」(同)
この黄身が白い卵は、ほかにもサラダに加えたりトッピングにしたりと多彩な活用法がある。インスタ映えブームがいつまで続くかは定かでないが、一般家庭にまで普及するようになれば、料理好きの間で新たなレシピが続々と考案されそうだ。
(文=中村未来/清談社)