元国税局職員、さんきゅう倉田です。税務調査中の得意技は、領収証の束を入れ替える「つばめ返し」です。
芸人の世界にいると、仕事がなく日がな一日パチンコや麻雀をして過ごしている多くの芸人を見かけます。国税局にはパチンコのイメージはありませんでした。麻雀が好きな先輩はいて、雀荘に連れて行ってもらったり、自宅に招かれて麻雀をしたことは覚えています。
もちろん、雀荘に税務調査に行くこともあります。「リーチ」「一発」「大三元」など、麻雀をする人にしてみると縁起のいい名前の雀荘です。
むかしむかしあるところに、役満の役名がついた雀荘がありました。現金取引が主たる売上と判断され、調査の前に内観調査が行われました。ひとりで行くのは怪しまれるのではないかと判断し、4人セットで入店しました。2時間ほどプレイする予定で、途中、無料のカレーを食べ、梅コブ茶を注文し、おぼつかない手付きで牌を打ち、「ポン」とか「チー」とか呟くのです。
無料の飲食料品すべてに手を出したら、有料のカツ丼とサンドウィッチとビールを注文しました。カツ丼は、近隣の飲食店から出前を取るため、少し時間がかかるとのこと。サンドウィッチは、奥で女将さんがせっせとつくってくれていました。
飲食品の支払いはプレイ料金と合算されることなく、受取時に現金を渡す方式を採っていました。レシートや領収書の交付はなく、またそれらを要求する人たちが客の中に果たしてどれほどいるのだろうかと考え、こちらから求めることはしませんでした。内観調査では、顔を覚えられること、目立つこと、警戒されることは避けたいものだからです。
2時間ほどプレイして、4人分の料金をまとめて支払い、領収証の交付を受けて帰りました。店内に卓は7つあり、20人ほどの客で埋まっていました。打ち子がいるのかいないのか、打ち子がいれば、彼が麻雀で勝った場合の収益は店の売上に計上されるべきであるか、検討の余地があります。
調査当日、事前に予約をして臨場しました。概況を聞き取り、売上を確認します。毎日の売上は卓ごとの伝票から算出し、閉店時にノートに記しているようでした。さらに、月末にノートの金額を帳簿に記帳していました。有料の飲食物の売上についても確認したところ、このノートの売上に含まれていると主張したため、「ノートに記載する前、一日の販売した飲食料品の数はどのように把握しているのか」と確認したところ、「覚えている」との回答でした。さらに、「あなたが出勤する前や帰った後はどうしているのか」と店主に確認したところ、「口頭で従業員に伝えている」とのことでした。
「それでは授業員が売上をごまかしてもわからない。商売として不可思議ではないか」と尋ねたところ、「従業員を信頼しているから」との回答だったため、ノートに記載された売上と1週間分の伝票から売上を突合し、まったく同じ金額になることを突き止めました。1週間、有料の飲食品が提供されていないとは考えづらいですが、店主は「間違っていない」と主張します。
そこで、瓶ビールの仕入を確認し、3日前と10日前にビールを20本ずつ仕入れていること、店内のビールの在庫が10本しかないことを確認し、足りないビールはどこにいったのか追求すると、ようやく飲食料品の売上を除外していたことを認めました。
さらに、アパートの支払いを地代家賃として計上しており、それについて確認すると、打ち子を雇っており、家賃は取らずに無料で住まわせているとのことだったので、こちらは源泉徴収の対象としました。
「現物給与」といって、現金をもらっていなくとも、雇用主側から経済的利益を受けた場合は給与として扱われるのです。
このように、売上を除外しても仕入を端緒に判明することがありますし、経済的利益のルールを知らないことで後から給与として課税されることもあります。常に情報を仕入れ、税務調査に負けない店づくりを心がけることをオススメします。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)