藤森義明氏は、「プロ経営者」の看板を下ろしたのか--。藤森氏は、日本オラクルが8月下旬に開催予定の株主総会で、社外取締役に選任された後に会長に就く。
日本オラクルは、データベース(DB)・ソフトウェア世界大手の米オラクル・コーポレーションの日本法人で、DB管理ソフトで独走している。2017年6月~18年2月期の連結決算の売上高は1317億円(前年同期比6.9%増)、営業利益は392億円(同4.9%増)、純利益は270億円(同4.7%増)と好調だ。
「オラクルはクラウドサービス事業に注力するが、米アマゾン・ドット・コムなどとの競争が激化し苦戦を強いられている。藤森氏は経営者として豊富な経験を生かし、日本市場での収益拡大に向けて助言する」(3月23日付日本経済新聞)
今度の仕事はコンサルタントである。経営改革の請負人をプロ経営者と定義するなら、コンサルタントは該当しない。
LIXILでの働きぶり
LIXILグループ社長時代の藤森氏は、まさにプロ経営者の仕事をしていた。
藤森氏は日商岩井(現双日)から米ゼネラル・エレクトリック(GE)に転職。46歳の若さで上席副社長となり、アジア人として初めて同社の経営陣の一翼を担った。
一方、LIXILは11年、トステム、INAX、東洋エクステリアと、買収した新日軽、サンウェーブ工業の5社が統合して発足した。
そのうちのひとつ、トステム創業者の息子である潮田洋一郎氏が「住生活産業におけるグローバルリーダーになる」とした中期経営ビジョンを打ち出し、「16年3月期までに連結売上高3兆円(国内2兆円、海外1兆円)、営業利益率8%」という高い目標を掲げた。海外売上高1兆円は11年3月期の実績(400億円)の25倍に相当する。
だが、「これはコミットメント(必ず達成しなければならない目標)ではなく願望だ」と述べ、アナリストたちをあきれさせた。
自分が経営者に向いていないと自覚していた潮田氏は、目標を実現するために藤森氏を招請した。11年8月、藤森氏は住生活グループ(現LIXILグループ)の社長兼CEO(最高経営責任者)に就いた。
潮田氏が藤森氏に与えたミッションは2つあった。海外売上高1兆円を稼ぎ出すグローバル・カンパニーに変身させること。そして、このグローバル企業の経営の舵取りを任せられる人材を育ててバトンタッチすることだ。
そこで藤森氏は海外での大型M&A(合併・買収)にアクセルを踏み込む一方、人材の育成にGEの手法を取り入れた。
15年4月、藤森氏は「変革への新たなステージ」と宣言し、4つの事業のトップに外部からスカウトした人物を据えた。事業会社LIXILの取締役10人のうち、外国人4人を含む9人がヘッドハンティングなどによる“外人部隊”だった。日本企業で、これほど外部要員に任せ切った事例はほとんどない。結果は案の定、失敗した。
藤森氏は、海外のM&Aと並行して、グローバル経営を担う人材を育成する腹づもりだったとみられるが、新体制で走り出した途端に高転びした。
GEの手法を直輸入するだけで空回りに終わった。藤森氏が去った後、LIXILは脱GE流経営へと軌道修正した。藤森氏はプロ経営者として失格の烙印を押された格好だ。
だが、この失敗で、ドメスティック企業の経営改革は自分に向かないと藤森氏は悟ったはずだ。自分の得意技は、組織ができあがった大企業の中で、経営の効率化に手腕を発揮することであると考えたからこそ、勝手知ったる米国企業の会長を引き受けたのではないか。
LIXILのトップになる前には、東京電力ホールディングスの社外取締役を務め、一時、「社長内定」といった情報も流れた。
藤森氏は現在、武田薬品工業の社外取締役に就いている。同社の社長はクリストフ・ウェバー氏だ。外国人社長の受けは、相変わらず良いのかもしれない。
(文=編集部)