日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題で、該当の試合を主催した関東学生アメリカンフットボール連盟が5月29日に臨時理事会を開き、内田正人前監督と井上奨前コーチを事実上の永久追放である除名処分とすることを決定した。
また、森琢ヘッドコーチは資格剥奪、反則行為を行った宮川泰介選手およびチームは2018年度のシーズン終了まで公式戦の出場資格が停止されるなど、日大アメフト部全体に重い処分が科せられた。
関東学連は「内田氏の供述は虚偽であると判断します」「どちらを信用するべきか、火を見るより明らか」と断罪しており、「反則の指示はしていない」(内田前監督)、「ケガをさせる意図はなかった」(井上前コーチ)という主張を完全否定した。
●選手の性格ではなく技量のみを見ていた内田氏
関東学連の規律委員会の調査で明らかになったのは、内田前監督の「活躍しそうな選手を精神的に追い込む」指導法であり、「白いものは内田さんが黒と言えば黒」になるという独裁体制だった。
こうした実態について、アメフト指導者は「まさに前近代的ですよね。今は肉体的にも精神的にも、選手の個性を見極めた指導をする時代です」と嘆息する。
「私も選手を叱咤激励しますし、ときには練習後に居残りを命じて追加練習をさせることもあります。精神的に追い込むやり方ですが、これは選手が『打たれ強い』場合に限ります。『なにくそ!』と闘争心を燃やせるタイプで、いわば中心的なメンバーですね。
この方法は、おとなしい選手には向きません。そういうタイプはどうしてもチーム内では脇役になりますが、当然ながら脇役も必要なのがチームです。そういう選手は、逆にほめることで長所を伸ばしてやります。実力以上の結果を出した場合などは『よくやった!』とメンバーの前でほめることでやる気を引き出すわけです」(アメフト指導者)
つまり、「強気な選手」には厳しく、「弱気な選手」には優しく接する。それが「選手の性格などを考慮し、精神面もケアした指導法」(同)というわけだ。
その点、内田前監督は選手の性格ではなく技量のみを見ていたといえる。実力のある選手に対して、メンバー全員の前で名指しで叱責したりレギュラー陣から外したりすることで、「結果を出さなければ干すぞ」という圧力をかけていたことが関東学連の調査で明らかになった。
「干すとか試合に出さないというやり方は、うちでは考えられません。なぜなら、選手は試合に出ることで経験を積んで能力を高めていくからです。もちろん、ときには主力選手を出さずに控えの有望選手を抜擢することもありますが、それは主力を『干す』わけではありません。主力にも『あいつを試してみたい』と事情を話した上で選手を入れ替えるわけです」(同)
このとき、控えに回る主力選手は「うかうかしていられない」と考えることもあれば、「後輩のために」と事情を理解することもあるという。いずれもチームや自身のことを考えるきっかけになり、「それがチームの強化につながる」(同)という。
●わざわざ「1プレー目」と限定した内田氏の思惑
「内田さんの常套手段だった『試合に出さない』『チーム内で干す』というやり方は、闘争心を燃やすタイプの選手には効果がありますが、宮川くんのような実直なタイプには逆効果です。マジメなので考え込んでしまい、結果的に軽いうつ状態になることもあるからです。もちろん、それが功を奏すこともありますが、私だったら宮川くんのような選手はほめて伸ばします。
問題となったレイトタックルも、宮川くんは試合に出たいがために1プレー目から無我夢中で行いましたよね。絶対にありませんが、仮に私が『相手にケガをさせる』ことを意図して指示するとしたら、あんなあからさまなレイトタックルなどさせません。
井上前コーチは内田さんからの伝言として『1プレー目で潰せ』と言ったそうですが、そもそも『1プレー目』と限定すること自体がおかしいのです。おそらく、優しそうな宮川くんのことだから、1プレー目と決めておかなければやらない可能性があると思ったのでしょう。だから、宮川くんはあんなに長い距離を走り、QBがパスを投げて2秒もたってから当たったんです」(同)
「相手のQBにケガをさせろ」という意味の指示に加えて、それを「1プレー目」と限定するやり方は、宮川選手を二重の意味で追い込み、躊躇する余地を奪うやり方であったといえる。
素直な宮川選手は、それを遂行したばかりか、やらなくてもいい3度目の反則(相手選手との小競り合い)にまで及んだ。自分の闘争心を監督とコーチに見せつけることで試合に出してもらおうと考えたのかもしれないが、試合中の選手をそんな思考に走らせてしまうこと自体、内田前監督の指導法が間違っていた証左だろう。
どの選手にも厳しく接するのは戦中戦後の軍隊式指導法であり、アメフトに限らず野球でもサッカーでも一時は用いられていた。精神的にタフな選手が多い時代には合っていたのかもしれないが、現代では軍隊式の一律指導は向かないだろう。
「『個性を尊重せよ』と言われる時代だからこそ、各選手の力量や性格を見極めてコーチングする必要がある」(同)という言葉を聞くと、内田前監督の独裁的指導が墓穴を掘ったのも納得である。
(文=伊藤遥雄/フリーライター)