居酒屋「和民」を運営するワタミが、居酒屋「わたみん家」を今年度中に廃止する方針を明らかにした。他業態への転換を推し進める考えだ。
わたみん家は、焼き鳥など焼き物料理を低価格で提供することを売りとする居酒屋だ。焼き鳥の「鶏皮串」と「せせり串」が1本99円で、これら以外の焼き鳥は130円と150円が中心。アルコールは1杯299円と399円が中心となっている。
筆者の感覚では、わたみん家は居酒屋としてはかなり安いので、価格競争力があるように思える。しかも、近年は「鳥貴族」など鶏肉を使った料理を提供する居酒屋や飲食店に勢いがあり、わたみん家に追い風が吹いている。さらに、わたみん家では炭火で焼き鳥を焼き上げるため、そうでない焼き鳥居酒屋との差別化を図ることができている。
こうしてみると、本来であればわたみん家は人気チェーンになっていてもおかしくない。しかし、それでも廃止するということは、よほど「わたみ」の名が客を遠ざける要因となっているのだろう。
2018年3月期の1年間で、わたみん家は84店減り、期末の店舗数は19店になった。和民と「坐・和民」も、合わせて65店減って137店となっている。これら「わたみ」を冠した居酒屋は、焼き鳥が主力の居酒屋「三代目鳥メロ」や、から揚げが主力の居酒屋「ミライザカ」などへ転換を進めている。
18年3月期に、三代目鳥メロは72店増えて123店、ミライザカは63店増えて102店となった。両業態とも好調で、転換店に関していえば、三代目鳥メロは売上高が前年比28%増、ミライザカは25%増と、それぞれ大幅な増収になったという。今期は新規出店も本格化するようで、転換を含めて両業態で最大70店を増やす考えだ。ワタミグループの全業態では13店増え、期末店舗数は480店になる見込み。
ちなみに、三代目鳥メロでは「鶏皮串」や「せせり串」などを1本150円で提供し、同価格が焼き鳥の中心価格となっている。わたみん家だけでなく他の競合店と比べても、三代目鳥メロの焼き鳥はさほど安くはない。ほかのメニューも同様だ。一方で、199円の生ビールを前面に打ち出すことで安さをアピールし、集客の目玉としている。
ミライザカも199円のハイボールを前面に打ち出している。メニューは、から揚げを中心とした399円や499円の価格のものが多い。一方、わたみん家の焼き鳥以外のメニューは299円や399円の価格のものが多いため、ミライザカのほうが全体的に高い印象を受ける。
こうしてみると、わたみん家を廃止して三代目鳥メロとミライザカに転換するのは、「わたみ」を隠すだけでなく、収益性を高める狙いもあると考えられる。
いずれにしても、「わたみ隠し」は奏功しているといえるだろう。ワタミの18年3月期の連結決算は、売上高が前年比3.8%減の964億円、最終的な儲けを示す純損益が1.5億円の黒字(前期は18.3億円の赤字)だった。売上高の減少幅は縮小し、純損益は黒字転換している。
●労働環境改善は見せかけだけ?
事業別の状況はどうだろうか。
売上高の減少が続いていた国内外食事業は、増収に転じた。売上高は2.2%増の483億円だった。営業損益は5.5億円の黒字(前期は2.2億円の赤字)で、黒字は5期ぶりとなる。店舗数が12店減って467店になったものの、わたみ隠しで既存店売上高が5.3%増加したことが業績改善に大きく貢献した。
弁当などを宅配する宅食事業も増収に転じた。売上高は1.3%増の380億円、営業利益は17.9%減の19.8億円だった。
営業赤字が続いていた海外外食事業は4期ぶりに黒字に転換した。不採算店の閉鎖を進め16店が減って70店になったため売上高が42.2%減の74.1億円と大幅な減収になったものの、営業損益は6100万円の黒字(前期は5400万円の赤字)に転換している。収益性の改善が進んでいる状況だ。
ワタミはわたみ隠しを進めるだけでなく、組織改革も進めている。従業員から過労自殺者を出したり、内部告発者を懲戒解雇したことが明らかになったりするなどで「ブラック企業」のレッテルを貼られ、同社は客離れに苦しんでいた。
そこで、14年に外部有識者を交えた「コンプライアンス委員会」と「業務改善委員会」を設置し、労働環境改善の取り組みを進めてきた。16年には同社初となる労働組合を発足している。
労務改善策を実施したことから、18年3月期の平均残業時間は前期から12%減り、平均公休日数は増えたという。従業員一人ひとりの勤務時間と作業内容を明らかにして割り当てる「ワークスケジュールシステム」を全店に導入したほか、営業時間や店休日を見直すなどした。
ただ、同社は本当に変わったのだろうか。創業者の渡邉美樹参議院議員が3月13日の参院予算委員会で、過労死遺族を前に「お話を聞いていると、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえる」と発言し、遺族から抗議を受けて16日に謝罪に追い込まれた。
ワタミに対する世間の目は依然として厳しいものがある。本当に変わったかどうかを見極めるには、もう少し時間が必要だろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)