今年5月、アメリカの大手医療保険会社が2万人を対象に「孤独に関する調査」を実施した。そのうち回答者の46%から「孤独はもはや疫病の域に達している」との結論が出されている。
こういった社会問題は福祉の面から語られがちだが、ビジネスやマーケティングの観点からみると何が読み取れるだろうか。立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に話を聞いた。
●孤独を受け入れるか、隠そうとするか
「孤独は現代病の代表格となりつつありますが、孤独に対するニーズに応えるためのビジネスも増えてきています。むしろ、新たなビジネスが展開できる土壌と捉えることも可能な時代になったといえるでしょう。現状で展開されているビジネスでの手法の分析から、『今の日本で人々は“一人で過ごすという行為”に何を求めているのか』ということを読み説くことができるのではないでしょうか」(有馬氏)
有馬氏いわく、当事者が孤独をどう受け止めるかによって求めるサービスも違ってくるという。
「まず、『孤独肯定型ビジネス』があります。これは孤独であることを積極的に受け入れて、むしろその立場を楽しもうとする人たちに向けてのもので、例えば“一人飲み”“一人カラオケ”“一人旅”を抵抗なく楽しめる人向けのサービスです。自分へのご褒美として一人を満喫したい人向けのサービスもこの範疇ですね」(同)
このニーズに対するビジネスには、他にも居酒屋の一人向けの夜ご飯セットや、旅館の一人宿泊用プランなど、店舗などの施設を一人でも気軽に利用してもらえるサービスの提供が多い。一方、一人を肯定的に受け入れられる人もいれば、その逆のタイプの人も世の中には大勢いる。この中で孤独を隠したい人に向けたビジネスも最近は増えてきている。
「孤独な状態を他人に隠したい人向けのものは『孤独隠蔽型ビジネス』と呼ぶことができると思います。披露宴など対外的に家族を必要とする席で、世間体のために家族を装った人員を派遣する“レンタル家族”や、SNSの写真などで日常生活の充実を他者へアピールすることの手伝いをする“リア充代行業”といったものがこれらの代表例です。『孤独隠蔽型ビジネス』では他者に孤独であることを悟られないためのサービスが提供されます」(同)
一般的な感覚では、こういったサービスを利用するというのは、理解するのはなかなか難しい。
「ですが、職場は利害関係が前提とされますので胸襟を開く友人はつくりづらいといえるでしょう。また、ネットなどで知り合った趣味の知人では、プライベートな立ち入った話は場が重くなるので避けられやすいなど、深い人間関係を構築できる場は現代では非常に限られています。個人主義が叫ばれる昨今では特に、現状を取り繕うためのサービスを必要としている人たちも存在するのです。また、友人や恋人は自然発生的につくるのは簡単ではなく、当事者間での努力が必要とされます。孤独に対応することは、一人の力ではどうにもならないと感じている人も少なくないのではないでしょうか」(同)
●昔からある「孤独脱出型ビジネス」
そこで、それを支援する孤独ビジネスが「孤独脱出型ビジネス」だという。
「これは、昔からあるビジネスモデルで、代表的なところですと婚活パーティーや出会いの場を提供する飲食店などです。また、最近では街コンや相席酒場、同窓会の企画を代行する“同窓会ビジネス”などの当事者向けのサービスの他に、親同士のお見合いパーティーといった当事者以外に向けたサービスも出現しており、その種類は多様化しています。この手のビジネスの中ではもっとも盛り上がっているカテゴリーなのではないでしょうか」(同)
確かに、昨今さまざまなコンセプトの出会いの場が登場しており、これは出会いを求める男女が多いことを暗示させるが、他者に干渉しない現代的な人付き合いの構造がその背景にあるとみることもできる。
「孤独関連ビジネスは、地域的連帯感や組織内での日常的人間関係の希薄化に起因する孤独を埋め合わせたいというニーズに対応する形で顕在化してきた現代的な現象だと思われます。
楽しむ孤独と避けたい孤独が混在する日本。これをどうビジネスにつなげるか、企業は現代日本社会をしっかりと見つめる必要がありそうだ。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)