日本放送協会(NHK)の放送受信料の契約・収納業務を代行するエヌリンクスが4月27日、ジャスダック市場に新規上場した。
初値は3780円と公募・売り出し価格(1810円)の2.1倍。
創業者の栗林憲介社長は70万株を保有していた。初値で計算すると時価総額は26億4600万円で、億万長者が誕生した。
栗林氏は1983年、大阪府に生まれた。同社のホームページによる経歴は以下のとおり。
高校卒業後、お笑いタレントを志望し、プロダクションに所属する道を選んだ。しかし、お笑い芸人としての道は険しく、途中で挫折。さまざまな人生経験をしたのち、日本大学商学部へ入学した。
大学在学中に営業代行会社を立ち上げたが、当時の代表にすべての資産を持ち逃げされ、無一文になる。しかし、ここであきらめることなく、起業を目指す。
大学卒業後の2008年、不動産会社のレーサムに入社。09年、NHKの放送受信料契約・収納代行のクルーガーグループに転職してノウハウを学んだ。
10年3月、エヌリンクスを設立し、代表取締役社長に就任。憲介氏の双子の弟、栗林圭介氏が副社長に就いた。圭介氏はスマホ向けゲーム会社のサイバードで働いていたが、兄と行動を共にする。
NHKの放送受信料の契約・収納代行会社を興したのは、競争相手が少なかったからだという。「この地域は、この会社が受信料の収納業務を行う」と定められており、同じ地域で何社も競合することがなかった。
●NHK関連が売り上げの8割を占める
NHKの放送受信料の契約・収納業務代行とは、どんな仕事なのか。エヌリンクスは上場の際の企業情報開示で、NHKの営業代行事業について以下のように説明している。
NHKとの契約形態は、指名競争入札によって契約が決まる広域型・エリア管理型と、企画競争によって契約が決まる市場化・公募型がある。
広域型はNHKが指名した企業のみが入札に参加できる制度。一方の公募型は入札に参加した企業のなかから、価格点(入札金額が低いほど高得点)と企画点(過去の実績と社内管理体制の充実度によって点数が決定される)の合計点によって委託業者が決まる。
エヌリンクスの現在の契約状況は、広域型・エリア管理型の契約が、関東、中部、関西、中国、四国、九州で9案件。市場化・公募型の契約は、関東、名古屋、関西、九州で19案件ある。
市場化・公募型のほうが、契約期間が3~5年と長いうえ単価の変動もなく、他社に介入されないため、より安定し収益確保が見込めることから、公募型案件の入札に力を入れるとしている。414人の従業員の大半が営業担当だ。
18年2月期の売上高は前期比30%増の39.5億円、営業利益は同56%増の3.1億円、純利益は同48%増の2.0億円。このうちNHKの営業代行事業の売上高は31.6億円、セグメント営業利益は3.6億円。前年より売上高は5.2億円、営業利益は6000万円増えた。NHKの契約・収納業務が全社売り上げの8割を占め、本社費用をすべて賄うほどの営業利益を稼ぎ出している。
メディア事業ではユーザーがチャットで希望条件を入力して部屋を探すサイト「イエプラ」の運営(収入は仲介手数料、18年2月期は4億円)。ゲーム攻略サイト「アルテマ」(月間閲覧数1億PV)も運営している。
NHKの営業代行という一本足打法では成長は期待できない。そこで、上場で得た資金で、イエプラとアルテマのシステム開発やエンジニアの採用に力を入れる。
上場初の決算となる19年2月期の売上高は前期比23%増の48.5億円、営業利益は12%増の3.5億円、純利益は14%増の2.3億円を計画している。NHKの営業代行業務の売り上げは、北海道進出もあり順調に増える見通しだ。
NHKの17年度単体決算(速報値)によると、受信料収入は前年度比2.1%増の6914億円で、4年連続過去最高を更新した。最高裁が昨年12月、NHKとの契約を義務付ける現行受信料制度を「合憲」と判断したことを受け、契約申し込みが大幅に増え、受信料の支払率は80.4%に上昇した。
NHKは09年に受信料収納業務の外部委託を始めて以来、人材派遣や通信、不動産など多種多様な業種が、この分野に参入している。今年3月末時点での委託先は327社に上る。なかでも、エヌリンクスは営業代行の専門会社として存在感を見せている。
NHKは委託先の会社にどのようなノルマを課し、視聴者が払う受信料の何割が委託先に支払われているのかなど、委託費の詳細は公表していない。エヌリンクスの上場を機に、「みんなのNHK」は、秘密のベールに包まれた委託費の公表を求められることになりそうだ。
(文=編集部)