6月12日に行われた神奈川県海老名市議会定例会で、保守系無所属の山口良樹議員は市立中央図書館の不適切な運営について追及した。
同館の指定管理者はレンタル大手TSUTAYAを全国に展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)で、同館は「ツタヤ図書館」と呼ばれている。
当サイトでは、これまでたびたび全国各地のツタヤ図書館の不祥事について報じてきたが、今回は、その発火点のひとつともいえる海老名市で、いま起きている問題をクローズアップしたい。
この日、山口議員が取り上げたのは、少し前に公表された市立図書館の第三者評価結果についてだった。
これは、民間に委託している施設の運営についての調査を専門の評価機関に依頼し、第三者の客観的な目で指定管理者を評価しようと、今年度から始まった試み。そのなかで、件の市立図書館について出てきた評価結果は、軒並み5点満点の4点以上と、同時に評価対象となった4施設のなかではダントツの高評価だった。
だが、この結果には、海老名市民でなくても、強い違和感を持つ人が多いだろう。なぜなら、CCC運営になってからの市立中央図書館は、とにかく不祥事続きだったからだ。
●不祥事が続出した海老名市立中央図書館
佐賀県武雄市図書館に続く「第二のツタヤ図書館」となった同館が最初に注目を浴びたのは、新装開館を翌月に控えた2015年9月のことだ。武雄市図書館で、CCCが蔵書として大量の古本を購入していたことが発覚したことを受けて、海老名市でも開業準備段階に追加購入する選書リストを点検したところ、約8000冊のうち半数の4000冊近くが料理本であることが判明。それらの付録として「メガネ拭き」「おろし金」「タジン鍋」などが見つかった。さらに海外の風俗ガイド本まで見つかり、週刊誌が取り上げて大騒ぎになった。
新装開館後には、一般的な図書館とは異なるCCC独自の「ライフスタイル分類」による図書の配架が話題になり、職員すらどこになにがあるのかわからず大混乱に陥った。インターネット上では、その“ユニーク”な分類法が「海老名分類」などと揶揄され、『旧約聖書・出エジプト記』や『カラマーゾフの兄弟』が「旅行」のカテゴリに分類されていることがおもしろおかしく取り上げられた。
クライマックスは、事業者同士の仲たがいだった。共同事業体である図書館流通センター(TRC)は、分館の有馬図書館の運営を担当していたが、そのTRCの会長がCCCの独自手法を公然と批判したのだ。その後、TRCは提携解消を申し入れて、図書館運営からの離脱を表明する騒ぎにまで発展。市長のとりなしで「当面、責任を持って継続する」とTRCは矛を収めたものの「今後、CCCと組んだ図書館運営はしない」との姿勢は崩さなかった。
だが、その後も不祥事は続発した。
15年末には、図書館サイトのイベント告知に他社のイラストを無断転載した“著作権侵害事件”が発生。また、指定管理者の応募資格だったプライバシー(P)マークを、CCCが勝手に返上していたことが発覚して問題になった。
さらに、「Tポイント機能付き図書利用カードをつくったら、知らない会社からDM(ダイレクトメール)が届いた」と市民がツイートしたことを発端に、図書館利用者の個人情報が外部に漏れているのではないかと大騒ぎになった。
このように不祥事が立て続けに発生し、海老名市立中央図書館は悪い意味で有名になった。この間、市民団体からCCC、TRCの2社で構成される共同事業体の指定取消を求める住民訴訟が提起されるなど、ツタヤ図書館は文字通り「火だるま」と言っていいほどの炎上騒ぎが続いた。
そうした不祥事を振り返ると、CCC運営に対する第三者評価が高ポイントを付けていることは、到底納得できない。
●不祥事がなかったかのような高評価
6月12日に開催された市議会での一般質問に立った山口議員は、市立図書館について、「基本協定書等に則った運営がなされているか」「第三者評価の手法に問題はないか」の2点について質問した。
内野優市長による指定管理者制度導入成果をアピールする答弁の後、各部門の責任者が具体的な回答をしたのだが、いずれもまるで何事もなかったかのように淡々としていた。
まず、第三者評価については「市が要求する業務水準を満たしている」「各指定管理者から出された事業提案書の項目及び仕様書の要求事項について書類のチェックや指定管理者へのヒアリングを実施して評価した」と財務部長が回答。
これまで起きたさまざまな不祥事については、教育長が「ご指摘いただくなかで、指定管理者と協議するなかで改善を図ってきた」とアピールし、さらに「指定管理前から比べると1.75倍近い人が来ている」とのデータを示して「図書に親しんでもらえた」と、指定管理者の効果を評価した。
さらに教育部次長からは、運営の具体的改善策が、以下のとおり示された。
・選書問題については、指定管理者内で選書委員会を設置した
・Pマークの返上については、同等の情報管理制度であるISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)規格の認証取得により、情報セキュリティを強化し、改善が図られている
・他社サイトの画像転載については、著作権者へのすみやかな謝罪と利用者への謝罪文のホームページ掲載、業務にかかる社員の著作権研修など改善が図られている
山口議員がリニューアル当初からの問題点を蒸し返したのには、理由がある。それは市立図書館の指定期間の満了を来年3月に控えているからだ。来年度からも、今のままの体制で図書館の運営を継続するかどうかの結論を出す期限がギリギリに迫っており、この議会で追及しないとウヤムヤにされかねない。
事実、第三者評価に先立って行われた1月の教育委員会定例会において、すでに図書館においては「成果が出ている」として、指定管理制度の継続が決定されている。議会で異論が出なければ、あとは指定管理者を選ぶだけで、また次の5年間もCCCによる運営が継続されかねない状況だった。
おりしも図書館界では、16年度から市立図書館を指定管理に移行させていた茨城県守谷市が、指定期間満了を待たずして市直営に戻す決定をしたことを5月に発表し、その毅然とした姿勢が全国の図書館関係者を驚かせたばかりだ。
守谷市の場合、16年から業界最大手のTRCを指定管理者に選定して市立図書館の運営を任せていたが、開始直後から館長をはじめとした職員が次々と退職していたことが表面化するなど、人材確保の問題が噴出。
それに比べて、問題が噴出した海老名市が、ほとんどなんの議論もなく「指定管理者の更新」をすれば、「どうしてもCCCにしなければならない裏事情でもあるのか」と疑問の声が上がるのも無理はない。
●調査担当者は違法行為の事実を「知らなかった」
続けて、議会当日の山口議員の質疑を見てみよう。
「(平成29年度の指定管理者第三者評価結果概要)を見ると、『法令遵守に関する事項』は5段階評価の4.3なんですよ。『高いレベルで市の要求する業務水準を満たしている』(との評価)。削除し、訂正をして、お詫びをし、相手から理解いただいたというが、現実に著作権で違法行為を行ったことは厳然たる事実なんです。そういうことを調査機関の方はわかっているんですかという話をしました。そうしたら、『知らなかった』と(答えた)」
次に山口議員が問題にしたのは、図書館利用者の満足度調査結果だ。「誰のための図書館か」との質問に「もちろん市民のため」と教育長が即答したのを受けて、図書館に対する海老名市民の満足度が大きく低下していることを指摘。
「(利用者の満足度は)前前回の平均である78.2%という数字が記されていました。要するに、(市外も含めた)中央図書館の全体の評価は、約8割が『満足している』と言っている。
これに対して教育長が「全体として78.2%。市民サービスは向上して満足しているのは大きいかなと思っています」と回答したのを受けて山口議員は、さらにこう迫った。
「(市内在住者の満足度が)70%を割り込んでも『満足度は大きい』という教育長の判断、その判断が的確なのか。(略)少なくとも、11億円もの投資をしてつくった、そして直営時代の倍以上の予算をかけてつくっているものだから、これは満足度が7割を切ってもいいという判断は、いかがなものかと思う」
そして、アンケート結果で海老名市民の満足度が大きく下がっているにもかかわらず、教育長の図書館に対する評価が年々うなぎ登りに高くなっている不可解さを指摘した。
「ちなみに、教育長は中央図書館のリニューアルオープン後の神奈川新聞のインタビューに答えて、評価70点とされました。今回は85点にしました。その根拠は何でしょうか?」(山口議員)
「70点は及第点だろうというのが私の考え方です。ただし、その当時もさまざまなご意見をいただいて改善を図ってきた。第三者評価にさまざまな異論があるようですが、私自身はそれを受けて、80%を超えるくらいの改善は図られているなと判断している」
ちなみに、ツタヤ図書館の来館者アンケートは、指定管理者であるCCC自ら実施しているもので、職員が直接来館者に質問して回答を得る対面式が基本だ。ネット上では「対面式で回答するなんて、まるで圧迫面接みたい」と批判され、そのような調査方法によって導き出された数字の信憑性そのものに大きな疑問符がついている。
来館者数についてもCCCの独自集計で、「リニューアル前に比べて1.75倍」になったとしているが、純粋な図書館だった時代と、カフェや書店と一体化した商業ビルになった現在との比較は適切ではないと、専門家たちから再三、指摘されている。実際に、図書の貸出冊数を見てみると、直営時代の1.4倍と来館者数の伸びを下回っている。
これらの調査こそ、利害関係のない第三者に、公平中立の立場からの調査を委託すべきところだが、いずれも指定管理者自らが行っている。そのため、調査結果の信頼性には疑問が付きまとう。
次回は、調査対象期間である平成29年度中の違反行為についても、詳しく見ていきたい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)