官報に掲載された決算公告によると、運営会社日本サブウェイの2017年12月期の当期純損益は1435万円の赤字だった。16年12月期に5047万円の赤字、15年12月期に4863万円の赤字を計上しており、3年連続での赤字となる。



 店舗数も激減している。14年には国内で480店を展開していたが、その後は閉店が相次ぎ、今年5月には310店を割り込んだ。この4年で約170店が減ったことになる。現在は少し増えて約320店を展開しているが、世界最大の飲食チェーンとして寂しい状況に変わりはない。

 サブウェイは世界で約4万3000店を展開しており、マクドナルドの約3万7000店よりも多い。しかし日本での風景は異なる。マクドナルドは国内で約2900店を展開しているのに対し、サブウェイは先述のとおり約320店にしかならない。

 なぜサブウェイは日本で苦戦しているのか。

 まず、注文の仕方がやや複雑なことと、商品を受け取るまでの時間が長くかかることが理由として挙げられる。

 サブウェイでサンドイッチを注文する場合、まずメニューの中から食べたいサンドイッチの種類を選び、次に数種類あるパンの中から好みのものを選ぶ。必要に応じて有料のトッピングを追加し、パンに挟む野菜とドレッシング・ソースを選ぶ。以上を店員に告げてサンドイッチを作ってもらうのだが、このやりとりを面倒だと感じる人が少なくない。


 また、注文を受けてからサンドイッチをつくるので、商品を受け取るまでの時間が長くかかってしまい、それを敬遠する人も多いようだ。

 ただ、この2点はそれほど大きな問題ではないと考えられる。なぜなら、世界の多くの国でサブウェイは広く受け入れられているからだ。商品に価値があれば、この程度のことは大きな問題にはならないだろう。

 たとえば、米国では約2万5000店を展開しマクドナルド(約1万4000店)を凌駕するほど広く親しまれているが、注文の仕方も待ち時間も日本とさして変わりはない。もちろん、米国でも注文方法の複雑さと待ち時間の長さを敬遠する人が少なくないが、それでも多くの人がサブウェイを利用しているという現実がある。米国以外の国でも同様だ。

 サブウェイが米国で広く受け入れられているのに日本では受け入れられていない理由を示すには、米国にあって日本にはない事象を示す必要がある。

●サブウェイが日本で受け入れられないワケ

 それは何か。筆者は「サンドイッチの格」だと考える。「格」という言葉は、「ブランド力」や「イメージの良さ」「親しみやすさ」といった言葉に置き換えても差し支えない。大雑把に説明すると、「消費者の心の中に占めるサンドイッチの割合の大きさ」がどうなのかということになる。


 言うまでもないが、サンドイッチは欧米で発達した食べ物だ。パンに肉や野菜などの具を挟むだけでつくることができ、その手軽さが受けて人気を博すようになった。そのため、アメリカ人の心の中に占めるサンドイッチの割合は小さくはない。

 サンドイッチは欧米で広がった後に日本に伝来してきた。日本でもその手軽さが受けて広まっていった。ただ、日本には手軽に食べられるものとして「おにぎり」が存在する。そのため、日本人の心の中に占めるサンドイッチの割合はアメリカ人ほどにはならなかった。

 以上により、サンドイッチの格は日本人よりもアメリカ人のほうが高い。そのため、サブウェイは米国で広く受け入れられ、日本ではそれほど受け入れられなかったと考える。

 事業展開するなかで、サブウェイのサンドイッチの格を上げることができなかったことも大きい。これは、マクドナルドと比較するとわかりやすいだろう。

 日本でマクドナルドの1号店が誕生したのは1971年。
出店場所は東京・銀座を選んだ。銀座を選んだのは、流行の発信地である銀座に出店することでハンバーガーの格を高められると考えたためだ。この戦略は功を奏し、マクドナルドを日本で定着させることに成功した。

 一方、サブウェイの日本1号店が誕生したのはマクドナルドの21年後となる92年。出店場所は東京・赤坂を選んだ。サントリーホールディングス(HD)が米サブウェイからマスターフランチャイズ権を取得し、日本サブウェイを通じて運営を開始した。

 ただ、先述したとおり日本ではサンドイッチの格が高くなかったため、日本人に広く受け入れられることはなかった。日本人の嗜好に合った日本オリジナルメニューを投入するなどしたが、抜本的なテコ入れとはならなかった。

 ちなみに、サントリーHDは後に日本サブウェイの株式すべてを世界のチェーンを統括する本社サブウェイインターナショナルホールディングス(オランダ)に売却しており、現在は本社主導で再建を図っている。

コンビニの影響

 日本でマクドナルドがうまくいき、サブウェイがうまくいかなかったのは、外部要因としてはコンビニエンスストアの存在が大きく影響したと考えられる。

 世界の中でも日本のコンビニは数・質ともに群を抜いている。サンドイッチの品ぞろえももちろんだ。
200~300円程度でおいしいサンドイッチを買うことができる。これは、サブウェイのサンドイッチの格を相対的に下げる要因となった。ものの価値は稀少性で決まるため、選択肢が多ければ多いほど価値は下がる。100円の水でも、(選択肢が少ない)砂漠の中で売ればより高値で売れることを考えるとわかりやすいだろう。

 この現象は、マクドナルドにはほとんど当てはまらない。なぜなら、コンビニではハンバーガーが充実していないからだ。おいしいハンバーガーを食べるにはハンバーガーショップに行く必要があるため、マクドナルドのハンバーガーは格を高く保つことができる。また、高値で販売することもできる。

 コンビニでサラダが充実しているのもサブウェイの格が下がっている要因になっている。サブウェイのサンドイッチは野菜が豊富で、それを売りとし健康志向の消費者を取り込んできたが、コンビニでサラダが充実していったことでサブウェイの売りが相対的に低下し、健康志向の消費者を取り込むことが難しくなってしまった。

 サブウェイの価格の高さもネックとなっている。レギュラーサイズのサンドイッチの価格は300~590円程度にもなる。
もし日本でコンビニが充実していなければ、さほど高くは感じられないだろうが、より低価格のサンドイッチがコンビニで買えてしまうため、消費者はサブウェイのサンドイッチに対して無意識のうちに「サンドイッチなのに高い」と感じてしまっているのだ。

 こうしたことにより、サブウェイは米国では広く受け入れられ、日本ではそれほど受け入れられなかったと考える。日本で再び成長路線を歩むには、サブウェイの格を上げる必要があるといえるだろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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