医師の処方箋なしに購入できる市販薬を手がける業界5団体で構成する日本一般用医薬品連合会(一般薬連)が、お家騒動に揺れている。
組織運営をめぐる対立から、会長が2人となった。
会長は、一方が三輪芳弘氏。胃腸薬「キャベジン」で知られる興和の社長だ。他方は柴田仁氏。「正露丸」の大幸薬品の会長だ。便宜上、2つの薬連を会長名から三輪派、柴田派とする。
三輪派のHPには、以下のように記載されている。
名称:日本一般医薬品連合会(略称:一般薬連)
住所:東京都中央区日本橋本町3丁目4番18号 昭和薬貿ビル5F
代表:会長兼理事長 三輪芳弘 興和株式会社代表取締役社長
一方、柴田派のHPは以下のとおり。
名称:日本一般医薬品連合会(略称:一般薬連)
住所:東京都千代田区岩本町一丁目8番15号 イトーピア岩本町一丁目ビル4階
組織:<会長>
柴田仁 大幸薬品株式会社代表取締役会長
<副会長>
佐藤誠一 日本OTC医薬品協会会長 佐藤製薬株式会社代表取締役社長
伊部充弘 日本医薬品直販メーカー協議会会長 ゼリア新薬工業株式会社代表取締役社長
太田美明 日本家庭薬協会会長 株式会社太田胃散代表取締役社長
加藤照和 日本漢方生薬製剤協会会長 株式会社ツムラ代表取締役社長
塩井保彦 全国配置薬協会会長 株式会社廣貫堂代表取締役
<理事長>
黒川達夫
<理事> 21名
<監事> 2名
<事務局>2名
<副会長>役員資格停止
三輪芳弘 興和株式会社代表取締役社長
一般薬連の会長人事が騒動の発端だ。2016年5月から一般薬連の会長を務める三輪氏は、18年5月末で任期切れを迎えるはずだった。
三輪氏の強引な組織運営に不満が続出。反三輪派の一般薬連幹部が5月29日、会則で定めた「会長に事故ある事態」に当たると主張し、緊急理事会を招集。構成5団体が推す柴田仁氏(大幸薬品会長)を同日付で会長とする人事案を24対1の賛成多数で決めた。その後、興和が一般薬連に派遣していた出向者2人を解任した。
これに対して三輪氏は会長選任手続きに問題があると主張。6月21日、一般薬連の理事会を開いた。招集したのは三輪氏で、理事33人のうち出席したのは興和出身者のみ。この場で三輪会長の続投や2人を除く31人の理事の退任を決めた。
これで一般薬連は2人の会長が存在し、事務所も2つある異常事態となった。三輪派は母体の興和のみで、ほかはすべて柴田派だ。
なぜ、孤立無援のなかで、三輪氏は続投しようとしたのか。
●三輪会長と厚労省天下りの黒川理事長の対立が原因?
背景には、厚生労働省からの天下り問題がある。
三輪氏は自派のHPで「会長挨拶」として前理事長(柴田派の理事長)である黒川達夫・元厚生労働省審議官(医薬担当)を、次のように糾弾している。
「私どもは一般薬連において、セルフメディケーションを充実させ、海外の潮流に伍する力を持った産業を育成させるという、革新的連合体として設立し、その活動を推進してまいりました。残念ながら黒川達夫氏(前理事長)はこの理念に賛同されず、また深刻な利益相反を抱えておられたことから、職務を全く果たしておられませんでした。これに乗じ、一般薬連を従来型の守旧型業界団体として支配運営したい一部の方々がおられ、さまざまな動きを見せておられます」
一般薬連のお家騒動は、三輪氏と天下りの黒川氏の対立が大元なのだ。黒川氏が厚労省のシナリオに沿って三輪氏を排除し、傘下団体の合意形成に関与していることに、三輪氏が強く反発したことが発火点となった。
各業界団体は中央省庁のキャリア官僚の天下りの指定席となっている。一般薬連も例外ではない。厚労省出身者が運営に介入してきたことから対立が火を噴き、天下りの是非にまで及んだということのようだ。
一般薬連は11年、市販薬に関連した5団体、約270社が参加して発足した。構成5団体は、日本OTC医薬品協会、日本医薬品直販メーカー協議会、日本家庭薬協会、日本漢方生薬製剤協会、一般社団法人全国配置薬協会。初代会長には大正製薬会長の上原明氏、副会長に三輪氏が選任された。
OTC(カウンター越しに販売する)医薬品を活用したセルフメディケーション(自主服薬)を推進する業界団体だ。だが、OTC医薬品を「低迷する市場の起爆剤にする」との大衆薬メーカーの期待は空回りに終わっている。
17年から始まった「セルフメディケーション税制」では、処方箋が必要な医療用医薬品の成分を市販薬に転換した「スイッチOTC」を年間1万2000円超購入すると、所得控除を受けられることになっている。しかし、スイッチOTCの知名度の低さから普及していない。解熱鎮痛剤や水虫薬、さらには胃痛や胸やけ、胃もたれなどに効能を持つ「H2ブロッカー」などがスイッチOTCの代表例だ。
スイッチOTC医薬品の普及の旗振り役であった三輪氏と、厚労省天下りの黒川氏が、その責任をめぐって対立したというのが、お家騒動の舞台裏のようだ。
(文=編集部)