ホリエモンこと実業家の堀江貴文氏が、タクシーに乗ろうと手を挙げた瞬間に「回送」にされたことに対して、「乗車拒否された」とツイッターで明かしたことが話題となった。

 堀江氏は7月20日未明に、タクシーをななめ前から撮影した写真と共に「俺が手を挙げた瞬間に回送にしやがったクソタクシー笑」とツイート。

堀江氏が手を挙げるのを見て「空車」から「回送」に切り替えたといい、「乗車拒否は違法だからな」とも発言している。

 これに対して、「運転手が悪い」「ネットで晒すのはやりすぎだ」などと賛否両論が起きたが、堀江氏の主張通り、手を挙げた瞬間に「回送」表示にしたのであれば、運転手側に非がある。

 現役タクシー運転手の立場から、運転手が「回送」にした理由を考えてみたい。まず、一番に考えられるのが“大物狙い”だ。この日(7月19日深夜)は給料日前の木曜日にもかかわらず、路上にかなりの乗客がいた。いわゆる“プチ入れ食い”状態であり、こうなると“一発ロング”を狙う運転手も多くなる。そのため、自然と「スーツにカバン」といった長距離客を探す運転手が増えるわけだ。

 経験則で言えば、ラフな格好の乗客が使ってくれるタクシー料金は5000円いけばいいほうで、2000~3000円程度が平均だ。これは、お金がないのではなく、近場に住んでいる可能性が高いからである。当時、堀江氏がどのような服装だったかはわからないが、運転手が「近距離客」と判断して「回送」にした可能性は低くない。

 しかし、これはご法度である。タクシー運転手は「泥酔者」「明らかに汚い格好=車内を汚される恐れがある」などの正当な理由がなければ乗車拒否をすることはできない。
同じタクシー運転手として長距離客を乗せたい気持ちは十分に理解できるが、外見で乗車拒否するのは、あまりにも失礼な行為である。

 また、クレジットカード払いが当たり前になったこともあり、最近は外見とは裏腹に長距離客であるケースも少なくない。空車時間を減らすべく「目先の乗客を優先的に乗せて乗車回数を増やす」というやり方も、疲労度は高まるが、売り上げを上げる手段のひとつではある。

 もちろん、運転手に非がない、つまり正当な理由で「回送」にしたことも考えられる。「予約客がいるのに表示切り替えを忘れていた」「尿意や便意を催した」「帰庫しなければならなかった」などだが、この場合、私なら窓を開けて理由を述べて謝罪する。相手に不快な思いをさせたくないからだ。写真と共にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で拡散される時代であれば、なおさらだろう。

 ちなみに、「相手が手を挙げた瞬間に無線が入った」という言い訳は通らない。この場合は「迎車」表示になるからだ。

 また、乗車拒否と誤解されがちなケースが「区域外乗車」である。たとえば、東京23区(特別区・武三交通圏)のタクシーは「乗車地」「目的地」のどちらかが23区+武蔵野市・三鷹市でなければ乗車させることができない。千葉県で手が挙がった場合、行き先が都内であれば乗せられるが、同じ千葉県内や、都内を通過して神奈川県へ、というケースでは乗せられない。
そのため、区域外を走っているときこそ「回送」表示にするべきなのである。

●過去にもタクシー批判をしている堀江氏

 堀江氏は、過去にもタクシー運転手批判をしている。今年1月には、大阪市内の高級ホテル「コンラッド大阪」に向かう際、タクシーがうまくたどり着けなかったことに対して「タクシー会社はコンラッドくらいおぼえてろ」「寒空を30分歩かされたらキレるのは普通」と怒りをあらわにしていた。

 これは、至極真っ当な批判である。運転手が経験が浅かったり、そのエリアにうとかったりする場合はカーナビを使えばいいだけだ。タクシー運転手にとって一番大事なのは、目的地やルートを覚えることではない。安全運転に努めた上で、さまざまなケースの対処法を身につけることである。

 道がわからなければナビに頼ればいい。話したそうな乗客には天気の話を投げかけ、話したくなさそうな乗客には必要以上に話しかけない。眠りたい客だと思えば、あらかじめ目的地を聞き出してナビに入れておく。「急いでくれ」と言われたら、交通ルールを守った上で可能な限り急ぐ。酒に酔って吐きそうな乗客の場合は、窓を開けたりビニール袋を手渡したりすることもある。


 こうした対応力を身につけることで、苦情を受けないタクシー運転手になれる。乗客は千差万別であり、対処法もケースバイケースだ。確かなのは、乗客の外見で「回送」に切り替えるのは、タクシー運転手として未熟な行為であるということだ。
(文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー)

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