政府が対策に乗り出すなど、大きな問題となった「漫画村」をはじめとする海賊版サイト。すでに大半は事実上閉鎖されているものの、インターネット上に無数に存在する海賊版サイトのすべてが根絶されたわけではない。
実際、少し検索しただけでも、アニメ動画の違法ダウンロードサイトなどが複数見つかった。依然として「無料で漫画やアニメを見たい」というニーズがある以上、いずれは類似の海賊版サイトがまた現れるのではないだろうか。
しかし、海賊版サイトなどのサービスに詳しいネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、「黙っていても海賊版サイトはいずれ消えていくのでは」と言う。なぜなのだろうか。キーワードは「ネット広告バブル」だ。
●講談社が刑事告訴…海賊版サイトの実態
まず、「漫画村」問題について振り返っておこう。
「漫画村」とは、簡単にいえば、ネット上に落ちている漫画の画像を公開する「無料で漫画が読めるサイト」のこと。著作物である漫画作品を出版社や作者の了承を得ずに無断で公開していた違法サイトだ。
しかし、「漫画村」の主張は「自分たちが画像をアップロードしているわけではない」「日本と国交がなく著作権が保護されていない国で運営している」というもの。そのため、実際は“限りなくクロに近いグレーなサイト”とされていた。
最新の漫画作品が次々とアップロードされ、また既存の有料漫画サイトに比べて読みやすいプラットフォームだったこともあり、2017年12月にアクセス数1億を突破するなど、右肩上がりでアクセス数が増加。18年3月には、月間利用者数が1億6000万人にまで達していた。
ここまで被害が大きくなると、権利者も黙っているわけにはいかない。2月13日に日本漫画家協会が海賊版サイトの利用者に警鐘を鳴らし、日本政府も4月13日に緊急対策としてサイトを閲覧できなくする「ブロッキング」を検討する姿勢を打ち出した。これは、プロバイダがサイトへのアクセスを自主的に遮断する仕組みのことだ。また、大手出版社の講談社が主な海賊版サイトを刑事告訴したことも明らかになった。
さらに、「漫画村」などの海賊版サイトに広告を配信する広告代理店の存在も問題となり、「ねとらぼ」などのウェブメディアが広告代理店の関与の実態を追及したことも話題となった。
その結果、「漫画村」をはじめ「Anitube」「Miomio」という3つの大手海賊版サイトがアクセス不能状態になり、事実上の閉鎖に追い込まれた。ここまでが、「漫画村」問題の一連の流れである。
●サイトブロッキングはいたちごっこになるだけ?
では、海賊版サイトがいずれ消えていくのはなぜか。
そもそも、政府が検討するブロッキングはなんの役にも立たないとされている。すでにNTTグループの3社が海賊版サイトに対して実際にブロッキングを行うことを発表しているが、中川氏は「ブロッキングは海賊版サイトとのいたちごっこにしかならない」と指摘する。
「批判を受けた『漫画村』が一時期、『漫画タウン』になったように、ブロッキングでひとつを潰しても、また新たな海賊版サイトが出てきます。すべてのコンテンツのデータを管理人が保存していれば、いくらでも新しいサイトがつくれる。
そもそも、ネットは誰でも自由に発信できる場所だ。「漫画村」のような海賊版サイトが出てきてしまうのは、ある意味で仕方がない現象ともいえる。
「それを政府が力ずくでサイトごと潰すというのは、さすがにやりすぎという気がします」(同)
こうした海賊版サイトに対抗する有効な手段はひとつ。それは、向こうが「この人とかかわると面倒だ」と感じる存在になることだという。
「たとえば、漫画家だったら徹底的にネット上でエゴサーチをし、自分の著作物が無断で使われていたら『私が規定した金額は1ページ当たり5万円です』などと必ず通告する。あるいは、即座に強硬な法的手段に出る。手間がかかるというなら、そのためのバイトを雇えばいい。そんな作家が出てきたら、海賊版サイトとしては『面倒くさい人』『この人とかかわってはいけない』となります。結果的に、作者やコンテンツを守ることにつながるわけです」(同)
ネットニュース編集者でもある中川氏は、日頃からさまざまな人物に関する記事を扱うため、取扱注意の「NGリスト」を作成しているという。
「良い文脈にせよ、悪い文脈にせよ、NGリストに載っている人は記事にしません。トラブルになるなど、後々面倒なことになるのを避けるためです」(同)
そうした「面倒くさい」の典型が、ジャニーズ事務所だろう。ジャニーズは所属タレントの写真の扱いにうるさく、無断掲載はもちろん、最近までタレントの写真をネットに掲載することもNGにしていた。
●バブル状態のネット広告
もっとも、こうした方法を取らなくても、海賊版サイトはいずれ消えていく可能性が高いという。それは、「ネット広告バブル」の終焉と関係しているようだ。
多くのネットサービスは広告によって収益を上げるビジネスモデルとなっている。需要の高い魅力的なコンテンツやサービスを生み出し、多くの人に訪問してもらい、それによりクリック広告や広告商品の販売で利益を上げる。「漫画村」も同様で、海賊版サイトはネット広告の収益があるからこそ存在できたわけだ。
そんななかで用いられていたのが「アドフラウド」である。アドフラウドとは「広告詐欺」のことで、botなどを使って無効なインプレッション(広告が表示された回数)やクリックを生み、広告効果などを不正に水増しする行為だ。
「漫画村」は、このアドフラウドに手を出したとされている。具体的には、「漫画村」の閲覧者にわからないかたちで同時に別サイトが立ち上がり、そのなかに“裏広告”として掲載されていたという手法だ。広告は「閲覧された」とカウントされるが実際は誰も見ていないわけで、広告主としてはたまったものではない。
中川氏は、これによって「ネット広告の信頼が大きく損なわれてしまう危険性がある」と危惧する。
「10年ほど前まで、ネット広告は『閲覧数やCTR(クリック率)の数字がわかるから公明正大』と評価されていました。当時はまだ、テレビ・新聞・雑誌といった既存メディアが出稿先のメインで、新興メディアのネットは広告効果がわかりやすいという点を売りにしていました。しかし、『漫画村』で横行していたアドフラウドのような手法が蔓延すると、その評価が地に堕ちてしまいかねない」(同)
加えて、現在のネット広告は「バブル状態」(同)にあり、今の勢いはいつまでも続かないという。
「今、ネット広告は不当なほど評価されすぎていて、単価が高くなりすぎています。もう少したったら、広告主が『本当はあまり効果がないんじゃないか』と気付き始めるでしょう。実際、ネットの広告をいちいちクリックする人なんて、閲覧者全体の0コンマ以下の割合しかいないんです」(同)
そうなれば広告料の引き下げが始まり、特に不正に収益を上げているような海賊版サイトは淘汰が進むというわけだ。
「出稿がなくなることで『漫画村』のような海賊版サイトは兵糧攻めに遭うようなかたちになり、いずれ消えていくでしょう。結果的に自滅することになるのでは……」(同)
「漫画村」をはじめとする海賊版サイトは出版社や作者の権利を侵害しただけではなく、ネットサービス全体の信頼や広告価値をも大きく損ねたといえる。今後の動向が注目されるところだ。
(文=布施翔悟/清談社)