オーディオの名門、パイオニアが経営の岐路に立たされている。カーナビ事業の業績悪化を受け、カルソニックカンセイなど複数の企業と提携について協議している。

カルソニックカンセイは日産自動車が2017年、米投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に身売りし、KKRの傘下に入った。共同出資会社を設け、パイオニアが自動車メーカー向けOEM(相手先ブランドによる生産)の事業を移管する案を中心に検討されている。

 パイオニアはインクリメント・ピー(IPC)という優良100%子会社を持つ。IPCはカーナビや自動運転に欠かせないデジタル地図のデータを持っている。虎の子の子会社が、パイオニアが危機を脱するための“切り札”と見るM&A(企業の合併・買収)の専門家もいる。

 パイオニアの2018年4~6月期決算の売上高は前年同期比0.6%増の838億円、営業損益は15億円の赤字(前年同期は2億円の赤字)、最終損益は66億円の赤字(同20億円の赤字)だった。主力のカーエレクトロニクス事業でカーナビの販売不振に加え、自動車メーカー向けの開発費用がかさんだうえに、特許訴訟に関連する損失の引当金など特別損失が響いた。

 決算短信で「継続企業の前提に疑義が生じている」(GC注記)と記載した。これは究極のリスク情報で、経営に赤信号が灯ったことを意味する。

 18年3月期に純損失71億円を計上。営業活動キャッシュ・フローから投資活動にかかるキャッシュ・フローを差し引いたフリー・キャッシュ・フローが172億円のマイナスとなった。

 19年3月期の連結営業損失は、50億円の赤字を見込んでいる。
18年度中に返済期限が到来する長短借入金は343億円ある。だが、現金預金は3月末より66億円減り、6月末には290億円しかない。このままでは借入金を全額返済するのは不可能だ。9月末が期限の借入金の返済もあり、待ったなしの状況だ。

 経営改善計画を主力の三菱UFJ銀行など銀行団に提示し、借入金の借り換えを予定していた。ところが、作業の遅れから経営改善計画を銀行団に提示できず、借り換えの合意が得られなかった。銀行団が借り換えに応じなければ、その時点で資金が底をつき、経営が破綻する。そこで、経営破綻を回避するためにスポンサーを探している。まさに時間との勝負なのだ。

●カーナビはGPS機能搭載のスマホに取って代わられた

 カーナビは、カー用品店で販売される市販品とOEMがある。どちらも自動車の販売台数の増減に影響を受ける点で同じだ。近年はスマートフォン(スマホ)と連携したり、通信機能を備えたりする、新しい製品が生まれている。


 スマホの普及がパイオニアを追い込んだ。GPS(全地球測位システム)機能が搭載されたスマホが急速に浸透したことで、「スマホのカーナビアプリで十分」と考えるユーザーが増え、自動車に後付けする市販のカーナビの需要が急速に落ちた。

 パイオニアは市販品を得意としており、自動車メーカーが生産段階でカーナビを埋め込むOEMへの対応が遅れた。

 しかも、自動車メーカー各社は、この5年の間に、スマホとカーナビを連携するコネクテッドカー(常時インターネットに接続している自動車)の生産に経営の舵を切った。パイオニアは、こうした自動車のIT化の流れに対応できず、これが致命傷となった。

 業績が悪化したのは17年3月期に量産を始めたOEM向けカーナビの開発費用が想定以上に増えたことが大きい。受注当初には要求されなかったコネクテッドカー機能の追加など、度重なる仕様変更の対応に追われ、莫大な開発費用を費やした。

 その結果、17年3月期の最終損益は50億円の赤字、18年同期は71億円の赤字。19年同期は最終損益を開示していないが、営業損益段階では50億円の赤字の見通しで、市場関係者は「最終赤字は100億円を超える」とみている。

 カルソニックカンセイと資本提携して、経営危機を乗り切ることができるのだろうか。日産から独立したカルソニックカンセイは、日産以外への販路の拡大や次世代コックピットの開発など新しい分野を強化している。パイオニアが持つ完成車メーカーへの販路や、カーエレクトロニクス分野の技術は、買い手にとって魅力だろう。


 いずれにしても、パイオニアの解体は避けられそうにない。

●カーナビメーカーはどこも苦しい

 不振に喘ぐカーナビメーカーは、パイオニアだけではない。日立製作所の子会社、クラリオンは業績悪化で開発、営業体制を再編し、今年1月、450人規模のリストラを実施した。また、富士通はカーナビ子会社をデンソーに売却した。アルパインは親会社のアルプス電気との経営統合を目指している。

 スマホのカメラ機能の向上でデジタルカメラ市場は縮小。なかでも、スマホと差別化がしにくいコンパクトデジカメは壊滅状態だ。カーナビもデジカメと同じ運命を辿ろうとしている。
(文=編集部)

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