セブン-イレブンは2017年10月から、北海道の一部店舗でネット通販サービス「セブン-イレブンネットコンビニ」を開始している。今後、19年8月までに北海道内の全約1000店に拡大、さらに同年9月以降には全国的に広げる姿勢だ。



 これは、スマートフォンでセブンの商品を注文すると、在庫があれば最短2時間で自宅や職場まで配送してくれるサービスだ。注文可能な商品は2800品目におよび、日用品だけでなく、おにぎりやサンドイッチなどの食品まで対象となっている。「家や職場にいながら、欲しい商品がすぐに手に入る」という利便性が注目を浴びる一方で、従業員の負担増加が懸念されているのが実情だ。

●スマホで注文、最短2時間で到着

「ネットコンビニ」の使い方は、非常にシンプルだ。利用者はスマホでネットコンビニのサイトにアクセスし、配達希望場所の郵便番号を入力する。すると、注文可能な最寄りのセブン店舗がいくつか表示されるので、その店舗のなかから希望する商品を注文する。


 注文情報は店舗の専用タブレット端末に送られ、従業員は売り場にその商品があるかを確認し、タブレットに在庫の有無を記録する。在庫状況は、注文した客のスマホにショートメッセージで届く。注文確定後、従業員は商品を売り場からピックアップしてバックヤードで保管し、セブンが提携する運送会社によって客の自宅や職場まで届けられる。

 注文商品の合計金額が1000円以上(税別)から利用可能で、3000円以上購入すれば配送手数料の216円が無料となる。さらに、3000円以上の購入であれば配達時間帯を1時間ごとに指定可能となり、最短2時間で商品が到着する。

 また、店舗で購入した商品を、届け先を登録した宅配カードを提示するだけで希望の時間帯に配送してくれるサービスもある。
重いものなどを購入した際には便利だが、コンビニでそこまで大きな買い物をすることも少ないので、これは高齢者向けのサービスだろう。

●「ネットコンビニ」は店舗側の大きな負担に

 いわばセブン肝煎りの新サービスといえるが、一方では、その有用性を疑問視する声もある。

「『ネットコンビニ』の導入は、現場の店員の仕事をいたずらに増やすことになります。常に人手不足が指摘されるコンビニですから、『これ以上、仕事を増やして業務を回せるのか』という疑問を抱かざるを得ない。人手不足はサービスの質の低下につながり、結果的に客離れを招くという悪循環を生みかねません」

 そう語るのは、特定社会保険労務士の今中良輔さんだ。ただでさえ複雑なレジ業務に商品の棚卸しや発注作業などが山積しており、今やコンビニ店員の業務量は増える一方だという。


「そもそも、コンビニは『業務量の割に時給が安すぎるのではないか』という問題があります。地方では、まだまだ時給700~800円台というケースもあります。この時給で仕事を増やされれば、当然“割に合わない”感が強くなります。そのため、以前は若者のバイトの定番だったコンビニですが、最近は日本人、特に若い人はやりたがらない職種になっているようです」(今中さん)

 実際、時給1000円前後の東京都内のコンビニでさえ、今や従業員は外国人労働者が多く目につく。深夜勤務などの過酷な労働環境や時給の低さによって、働き手が集まりにくくなっているコンビニ業界。求められるサービスが増えれば増えるほど、人手不足はさらに深刻になると考えられる。


 今年の10月以降、最低賃金は順次改定される予定で、時給800円以上の都道府県は昨年より13増えて28となった。人材確保のために賃金水準が他県に見劣りしないよう、各自治体も必死なのだ。しかし、人件費の高騰は店側にとっては負担となる。過重労働によって離れていく従業員と、高騰する人件費。そのツケを払うのは、店舗のオーナーや店長だ。

「最終的に、人手不足でもっとも不利益を被るのはフランチャイズ店のオーナーでしょう。
最低賃金の上昇によって上がった人件費は大きな負担となり、本部にロイヤリティなどを支払った残りから捻出することになります。人件費の上昇は、人手不足の解消にはなったとしても、利益の減少につながるのです」(同)

 業務の増大による人手不足とサービスの質の低下が客離れを招き、それを解消するための人件費上昇は店舗側の利益を圧迫する。そうした構図を前提にすれば、「ネットコンビニ」は従業員やフランチャイズオーナーにとっては、大きな負担としてのしかかる可能性があるといわざるを得ない。

●そもそも「ネットコンビニ」の需要に疑問も

 さらに、「そもそも『ネットコンビニ』の需要がどこまであるのかも疑問」だと今中氏は言う。

「アマゾンがある現状で、コンビニ価格の商品を手数料を支払ってまで届けてほしいという需要がどこまであるかは疑問ですね」(同)

 ただ、現時点では北海道のみということもあり、「都市部よりはニーズがあるのかもしれない」(同)と予測する。

 コンビニ市場が飽和状態にあるなかで、セブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスの2018年2月期の決算は、当期利益が前期比87.2%増の1811億円で4年ぶりに過去最高益を記録するなど絶好調だ。
不調といわれ続けていたネットショップ「オムニ7」では、再生中の動画画面をフリック入力することで商品購入が可能な「フリックショッピング対応動画」の提供を開始するなど、EC事業には注力し続けている。

「ネットコンビニ」は、セブンと他社との差をさらに広げるのか、それとも従業員やオーナーが疲弊するだけで失敗に終わるのか。今後の展開に注目だ。
(文=藤野ゆり/清談社)