病気やけがで働けなくなったときに保険金が支払われる「就業不能保険」という商品を、テレビのCMなどでよく目にするようになりました。そこで、この新しいタイプの保険について、検討すべきものかどうかを考えてみたいと思います。
実は、この保険、決して新しいものではなく、昔から損害保険会社で売られている商品で、働けない期間が短い「所得補償保険」と、期間が長い「長期障害所得補償保険(LTD)」や団体扱いの「団体長期障害所得補償保険(GLTD、Group Long Term Disability)」があり、最近、ライフネット生命やアフラック、また一部の大手生保で売られているものは、損保のLTDを真似た商品です。
●就業不能保険の保障内容は
その中身は、長期間にわたって働けない状態(入院か在宅治療)が続いたときに、この保険が収入を補う役目を果たすということです。ちなみに、明治安田生命が出している「ベストスタイル」という商品に特約でついている「給与・家計サポート特約」は、短期の保障なので別物です。
保険料はライフネット生命の場合、35歳男性で、月20万円の保険金が、就業不能の状態になって180日経過後から最長60歳まで払われるもので、保険料は月額3,496円です。
保険金が支払われる条件は、それなりに厳しく、在宅療養といっても、医師の指示にもとづき、治療に専念し外出もできない状態のことですし、精神疾患による就業不能を保障するものでも、その保障期間は最長1年半で、入院しているか精神神経障害2級の認定を受ける必要があります。
【ご参照:ライフネット生命の商品紹介サイト】
https://www.lifenet-seimei.co.jp/product/disability/
では、なぜ今働けない人のための生命保険なのかといいますと、生命保険会社も長引く低金利で、一時よく売れた「終身保険」などの商品を販売停止にするなど、売り物が徐々になくなってきています。そうしたなか、新たな保険分野を模索していて「就業不能保険」にたどり着いたというのが、この商品が世に出てきた事情ではないかと思います。
では、企業で働く、もしくは自営やフリーランスとして働くみなさんは、この保険をどのように捉えたらいいのでしょうか。そこを一緒に考えてみましょう。
●健康保険の傷病手当金とは
まず、その前に、働けなくなったら、どのような公的な保障があるかを知っておくことが先決です。不安なものをすべて生命保険や損害保険で手当していては、お金がいくらあっても足りません。先のライフネットの商品も、25年間保険料を支払うと、105万円にもなります(3,496円×12カ月×25年)。
企業に勤めている人や公務員は、健康保険に加入しており、その保障のひとつに「傷病手当金」という制度があります。この制度は、働けなくなった4日目から、最長1年半にわたって、それまで受け取っていた給与の3分の2を健康保険が保障してくれる制度です。
会社が給与を払ってくれなくなっても、健康保険から給与の3分の2が支払われ、最悪、働けないことで会社を辞めざるを得なくなった後も、この支払いは続きます。
私が保険を販売する際には、会社員の人にはこの話を必ずするのですが、この傷病手当金については、知らない人がほとんどです。
一方、自営業やフリーランスの人が加入している国民健康保険には、残念ながらこの制度はありません。健康保険には、窓口の支払いが3割で済む「療養の給付」と、月々の療養費に上限を設けている「高額療養費制度」、それに「傷病手当金」の3つの柱がありますが、国民健康保険には先の2つしかないのです。
この傷病手当金の支給状況ですが、20代から40代半ばくらいまでは、精神および行動の障害によるものが4割を超えています。つまり、働けなくなることの原因が、精神に障害を来したことによるものが多いということです。
●障害年金や労災の補償もあります
もう一つの公的な保障としては、障害年金があります。病気やけがが原因で、障害を負ったときには、障害が続く限り障害年金が一生涯支払われます。これもあまり身近に感じることがない年金保険の保障です。
こちらも、自営業者は障害基礎年金のみ、会社員は障害厚生年金と障害基礎年金の2階建てで保障が手厚くなっています。
●就業不能保険は、会社員より自営業者が考えるべき保険
さて、こうした公的保障内容を踏まえた上で、就業不能保険が必要なのかどうかを考えることになりますが、どうやら必要がありそうなのは、自営業やフリーランスの人ではないかと思います。実際、ライフネット生命の契約者は、医師などの自営業者が多いと聞きました。
入院したらせいぜい数十万円が支払われるだけの「医療保険」に加入している人は多いと思いますが、同じ保険料を支払うのであれば、「就業不能保険」のように、起こってしまうと大ごとになる事態に備えておくほうが理にかなっていますし、大きな出費のために備えるという生命保険本来の目的に合致しているかと思います。
●どうしても就業不能保険を検討したい会社員は
一方、会社員にとっては、この保険は、さほど必要性の高いものとも思えません。それでも、特に働き盛りの人は、家族のことやら、住宅ローンのことやらが心配になるという人もいるでしょう。そうした人への、私なりのアドバイスとしては、
(1)会社の福利厚生規程をこの機会に調べる
傷病手当金のほかに、会社はどこまで面倒を見てくれるのかを調べてください。企業規模が大きくなると、意外と休業期間にも一定の給与が支払われる会社は多いです。
(2)住宅ローンが疾病保障付き団体信用生命保険(団信)になっていないか確認する
三大疾病などになったときに、ローンがなくなる団信も増えています。保障は、あればあるほど安心でしょうが、費用負担を考えると、保障が重複するのは避けたいものです。
(3)勤め先で、先の団体長期障害所得補償保険(GLTD)に加入できないかを調べる
所属する団体で、従来からある所得補償保険やGLTDに加入できるのであれば、そちらからまず検討してみましょう。団体割引のほか、事故が少なければ優良割引があり、企業によっては、8割超の大幅割引の保険料になっているところもあります。
保険というのは、“勧める”のも“勧めない”のも難しい商品ですが、急にテレビCMを見たからといって、今までに必要を感じていなかったものにまで保険料を支払うのは避けたいものです。
(文=藤井泰輔/ファイナンシャル・アソシエイツ代表)