台風第21号の襲来により9月4日、関西国際空港は高潮によって冠水し、機能停止に陥った。海に面している羽田空港は、大型台風によって同じような事態になることはないのだろうか。
「関西国際空港は何もない海を埋め立てた人工島です。用地確保と航空路の設定のため選定の過程で泉州沖が選ばれたわけですけれど、海底が軟弱な地盤で土木技術上かなり難しい埋め立てとなり、関係者は建設工事の段階から地盤沈下に悩まされました。開港後も地盤沈下が進みましたが、これまで沈下が落ち着いたという報告は聞かれません。
国土交通省は、運航の安全のために各空港への飛行に必要な諸情報を発信し、タイムリーに更新しています。空港の標高情報もその一つです。先日の台風で冠水した関西国際空港Ⅰ期島の滑走路は長さが3500メートルあり、標高は、最低が1.4メートルで最高が4.0メートルとなっています。一方、気象庁が発表している関空島まわりの潮位の変化を見ると、満潮時には潮位が平均水位から60~70センチ上昇しますので、通常でも満潮時には一番低い標高1.4メートルの箇所は、水面上70~80センチの位置にあるわけです。こういう客観的な数字を見ると、今後も台風の低気圧や南風に伴う高潮により空港内が冠水するのは、想定の範囲だと考えられます。」
高潮のときには潮位は200センチから300センチに至ることがあるから、今後も台風によって、関西国際空港は冠水する恐れがあるということになる。
では、羽田空港には、そのような危険性はあるのだろうか。
「羽田空港には4本の滑走路がありますが、標高が一番低い、第1旅客ターミナルと国際線ターミナルの間にある滑走路。これは標高3.7メートルから6.2メートルとなっています。
羽田空港のリスクとしては、集中豪雨による多摩川下流域の氾濫が予想されます。多摩川の増水により下流域が氾濫した場合、多摩川に隣接する羽田空港では、国際線のエリアにある最低標高3.7メートルの滑走路周辺が冠水する危険性はあるのかもしれません。ただし、他の滑走路もありますので、仮に起こったとしても、機能停止は限定的かつ一時的なもので、致命的なダメージにはならないと思われます。南海地震の津波の影響も考えられますが、東京湾内の津波の被害予測は聞いたことがありません。」
●関空、南海地震なら崩落の危険も
東京都港湾局・建設局は今年3月、「想定し得る最大規模の高潮による浸水想定区域図」を発表した。これまでで最大規模の室戸台風(911.9ヘクトパスカル)を想定したものだ。これを見ると、その場合でも羽田空港は浸水しない。ただし、空港に隣接する大田区の東側が広範囲にわたって3~5メートル浸水すると想定されている。
その場合、交通の遮断が心配される。空港につながる高速道路は地下に潜って走って行き、京急電鉄やモノレールの空港駅は地下にある。だが、排水設備が整っているので、どちらも心配はないだろう。
「国内に海上空港は羽田空港と関西国際空港、神戸空港、中部国際空港、北九州空港と5つあります。神戸と中部と北九州の滑走路の標高は、羽田に近い数値です。関西国際空港だけが特異な数値となっています。関西国際空港のⅠ期島が群を抜いて標高が低い。それは、やはり地盤が柔らかく沈下した影響だと思われます。われわれが東日本大震災時に東京湾岸の埋め立て地で経験した液状化による大きな被害を考えると、南海地震が起きた場合の関西空港の被害も小さくないと考えられます。これからの空港機能の保全対策については関西空港会社が最優先課題として準備するでしょうが、すべてを事前準備することは現実的ではありません。今年の台風被害の一つであった関空での航空貨物輸送機能の停止は医薬品や非常食など、震災時に特に重要となる緊急物資の被災地への輸送の重要拠点の喪失を意味します。これは震災時の重要な初動機能ですので、最悪の事態として関空被災を前提とした伊丹空港か神戸空港への貨物専用機を含む航空貨物便の緊急展開が可能となるように、航空貨物取扱に必要となる地上設備の事前配備が必要かもしれません 」
日本を代表する国際拠点空港のひとつである関西国際空港であるが、さまざまな危険性を抱えているのだ。
(文=深笛義也/ライター)