●結婚するなら、共働きキープはもはや大前提となる時代
男性にとって、「妻の働き方」は永遠の悩みかもしれません。まず女性のほとんどは一度就職する時代です。
一方で、女性の多くは「できれば仕事を辞めたい」という本音も抱えています。男性も辞められるなら辞めたいわけですが、なかなか口に出せないのですが、女性には「結婚退職」と「おめでた退職」というチャンスがあるからです。
しかし、結婚をするなら、男も女も「共働きキープ」が大前提です。「家でぼくの帰宅を迎えてほしい」とか「彼女の希望は叶えたいから」と結婚退職を許す男の選択は間違いですし、「夢は専業主婦」とか「とにかく仕事はしたくないから」と甘く期待して辞めたいと考える女性の発想も誤解だらけです。
これから結婚を控えている読者、すでに結婚しているが今は共働きを続けている読者、それぞれのために「なぜ、共働きをキープするべきか」を解説してみましょう。
●ひとりで稼げば生涯賃金3億円どまりでも、共働きで稼げば生涯賃金4~5億円になる
まず、単純に「合計所得」で稼げる、ということが共働きをキープするべき理由です。大卒男子の生涯賃金は約2.7億円といわれます。これは60歳までの試算なので、65歳まで働き退職金をもらえば実質3億円です。しかし、これを男性だけ働いて4億円にあげることはかなり厳しいキャリアです。
ひとりで無理して年収を増やす簡単な方法は、残業するなど「長く働く」でした。しかし、長時間働くようなやり方で年収を増やすアプローチは、これからどんどん崩壊していきます。
しかし、夫婦で「2.5~3億円+2~2.5億円」のように「合計」で考えれば、4~5億円を稼ぐことは不可能ではないどころか、現実に可能な数字になってきます。少なくとも「専業主婦と会社員の夫」のような昔の働き方をして、夫が子育て費用や住宅ローン返済費用をひとり無理して稼ぐより確実で高収入になります。
専業主婦は結局のところ無収入ということです。「夢の専業主婦」というの実態は「夫ひとりの年収で2人分やりくり、おこづかいも半減以下、時間はあるけどカネはない」なのです。
また、正社員を辞めてパートになってしまうと年収はガクンと下がります。正社員を続けた女性と比べて、生涯賃金で2億円近い差が出るという試算もあるほどです。
「結婚退職」、これは男性にとっても女性にとっても賢い選択ではないのです。
●大損になる寿退社、子育て退社は「しない、させない」
拙著『共働き夫婦 お金の教科書』(プレジデント社)でも詳しく解説していますが、安易な寿退社、子育て退社は3つの面で「大損」になります。
まず、正社員復職のチャンスを手放すということです。一度会社を辞めた人が、2歳の子を抱えて正社員の採用面接を受けて「時短勤務希望です」と告げても、おそらく採用してもらえないでしょう。
次に、正社員のまま産休・育休したほうが、お金をたくさんもらえます。産休に入る前の収入の66%相当を産休期間(おおむね100日)、育休期間の最初の半年もらえます。育休半年経過後は50%にダウンするものの最大で子が2歳になるまでもらえます。これは自分の健康保険証を持っている人(基本的に正社員)が産休した場合と、自分が雇用保険に入っていた人が育休した場合の特権です。
実は「育休に入ったら無収入になる……」というような心配はないのです(ちなみにこれらの給付金は非課税なので、感覚的にはお休み前の80%くらいはもらえるイメージです)。
そして最後に「共働きで正社員を続けると、老後に笑う」ということがあります。夫婦がダブルで厚生年金を国からもらうと、専業主婦世帯と比べて年100万円くらい年金が増えます。女性の老後は平均24年以上あるので、これで2400万円有利ということです。またダブルで退職金を会社からもらうことになるので、夫ひとりの退職金に500~2000万円の上積みが実現します(水準は各社の条件で大きく異なる)。
夫婦合計の年金が約360万円と仮定し、老後が25年以上あるとすれば、退職金を含め「共働き正社員夫婦は老後に1億円もらう未来」が待っているのです。
働く女性は「辞めないこと」が、一番確実でお得になるマネープランの選択なのです。
●ただしその交換条件は、男が「家事メン」「イクメン」になること
女性の多くは、上記の損得はうすうす理解しています。「寿退職したところで、彼の年収だけで2人で暮らせば、おこづかいは減るだけでキツい」ということはわかっているわけです。実際、寿退社、子育て退社をする女性は年々減少していることが統計からも明らかになっています。
ところが、女性の次の恐怖は「ワンオペ育児」です。仕事は辞められないのに、家事や育児を全部やらされて、クタクタになるし睡眠時間は削られることになるような「恐怖」があるから、結婚を先延ばししたり、子どもをつくることを回避しようとしてしまいます。
実際、夫が家事や育児をほとんどしない家庭は、2人目の子が生まれにくいことがデータで明らかになっています。「こんな大変ならもう産みたくない」という女性の気持ちが結果として出ているわけです。
これから結婚をする男性と、結婚したばかりの男性にアドバイスしたいのは「家事メン」「イクメン」になることが共働きキープのコツ、ということです。
子どもが産まれる前から、洗濯、掃除、食事づくり、皿洗いなど、日常の家事の多くをきちんと分担していれば、子どもができて焦る必要はありません。私の感想としては、家事ができる男性は、育児も問題なくできます。
まずは洗濯と掃除、そしてときどき簡単なご飯をつくることから慣れておきましょう。
●上司や職場の「空気は読むな」 男はもっと休んでいい
しかし、イクメン、家事メンになろうとしても、最大の課題は「会社を休めない」だったりします。
もしかすると、休む邪魔をしているのは、あなたの上司やその上の世代(役員)の古いアタマかもしれません。彼らは、そもそも女性が就活に臨んでも理由なく落としていた時代に入社していますし、女性は「腰掛け」として仕事をして結婚や出産を機に会社を辞めるのが当たり前と思っていました。
多くのお金の問題は、先輩や親のアドバイスが役に立たない時代です。彼らの発想に付き合っていると、共働きは続けていくのが大変です(女性に重荷を背負わせている)。少し皮肉を言われようとも、男性育休を取得してみたり、有休をこまめに取得してみてください。
「一身上の都合」とか書かず、「子どもの健康診断のため」とか「子どもの体調不良のため」などと書いていいのです。幸いにして、世の中は有休の利用促進(最低5日は取得させるなど)に動き始めています。
ぜひぜひ「会社の空気は読まず」、男性も休んで「共働き、共家事、共育児」を一緒にがんばってみてください。きっとその苦労は最後に報われることと思います。
(文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表)